Gentle Rain



 爆が現郎に対して言う事と言えば

『遊ぼう』

 か、

『散歩に行こう』

 のどちらかで。
 でも今日は朝から雨だから二番目は無いだろう。
 とかぼんやり考えていると早速爆がやって来た。殆どじっとしている現郎はとても見つけ易いのだ。
「現郎」
 ぽふん、と足にしがみ付いて言った。
「散歩に行こう」
「………………………」
 現郎は屈んで爆と向き合うと、頬をむにゅうぅぅぅぅと引っ張った。
「……オメーの目は節穴か……」
「いにゃいぃぃぃ〜〜〜」
 ばたばたと手を振って止めて欲しいと訴える爆。
「雨が降ってたって傘さしていけばいいじゃないか!」
 ちょっと赤くなった頬っぺたを摩りながら爆は言う。
「アホ。何でわざわざそこまでして外へ出なきゃなんねーんだ」
 現郎は晴れててもあまり外へ出たがらない。
「だって……」
 う〜と爆は言葉に詰まった。
 現郎も現郎なりに、どうして爆がこんな事を言い出したのか、考えを巡らせて……
(あ……)
 思い当たった。
 ついこの前、家族揃って休みが取れたと言って真がはしゃいでいた(と思う)。
 そしてその時爆の新しい雨具を買った(らしい)。
 何かカエルのを買って、ウサギの方が似合ってたのにとぼやいていた(確か)。
 なるほど、お披露目したい訳か……
「仕方ねぇな。近くの公園まで行こうぜ」
「え……」
 唐突な現郎の返事に、目を見開かせ、それからにっこり笑ったのだ。

 雨。といっても土砂降りな訳でなく。さらさらとした……霧を濃くした感じの雨だ。
 音も無く、とても静か。
「現郎、行こう」
「おー……」
 部屋に戻って身支度を整えた爆は意気揚々と外へ出た。
 可愛いカエルのデザインの、カッパと傘と長靴。薄いエメラルドグリーンが灰色の空の下でもよく映える。
 自分も傘をさして爆の後をついて行く。公園までは爆の足でも10分くらいで着く。
「あ、水溜りだ」
 道すがら、水溜りを見つけてはわざわざその中を通る爆。新しい長靴を使いたくて仕方ないのが窺えて、微笑ましい光景だ。自然と口元が緩む。
「あんまり調子に乗ると靴ん中に水入るぞー」
 一応注意しておく。
 爆は解った、と言って今度はとても入り応えがありそうな水溜りを発見して喜び勇んで走って行った。
(本当に解ってんのか……?)
 疑わしい所だ。
 公園に着いた。さすがに誰もいない。
「誰もいないな」
 爆はぽつんと言った。
 順番待ちのブランコも引っ切り無しに誰かが滑るすべり台も今日はがらんとしている。とはいっても遊べないのだが。
 それでも噴水はいつもどおりに水を噴き上げている。
「そりゃこんな日に外出ようなんて物好き、そうそういねぇしな」
 そう言って横を見ると……すでに姿無く。
 どこ行った!?と慌てて辺りを見渡すと、
「現郎ー」
 現郎の心境なんか露知らずに、丁度真後ろに爆はいた。
「……オメー、勝手に」
「カタツムリがいる」
 どこまで人の話を聞かない気だ。
 とりあえず今度は絶対見放さないように、爆の側まで行く。
 爆の視線の先には、確かにカタツムリがいた。それはとても小さく。
「……子供か?」
「カタツムリに子供とか大人がいるのか?」
「そりゃ大人がいなけりゃ子供は出来ねぇし、子供がいなけりゃ大人もいねぇだろ」
 なるほど、と改めてカタツムリを見て納得する。
「大人のカタツムリは子供より大きいのか?」
「そりゃな」
「じゃぁ、殻はどうなるんだ?」
「………………」
 爆の疑問に現郎の思考が宙を舞う。
 ……そう言えばあれどうなるんだ……?一緒にでかくなるとか?んな訳ないか。だったら変えるとか?でもそうそう都合良く貝殻が転がってるか?
「…………解らねぇ」
「何だ」
 爆はがっかりした。
 二人の前をカタツムリがのんびりした速度で次の葉っぱ目指して通って行く。
「まぁいいか。自分で調べる」
 振る雨より遅く、カタツムリが進んでいく。
「……このカタツムリ、何処へ行くんだろうな」
「さぁ……案外自分の家かもな」
 くしゃ、とフードから出る前髪を撫でる。
「俺たちもそろそろ帰るぞ。オメー前髪濡れてんじゃねーか」

「うつろぉぉぉ〜〜〜」
「ったく、何してんだ……」
「う〜〜〜」
 水を滴らす雨カッパをしまま玄関には上がれず、爆はどうすればいいのかおたおたした。
「手、横にしてろ」
「ん」
 ジー、とカッパのファスナーを降ろしていく。
「オメー脱ぎ方解らねーで前はどうしたんだ」
「……着るのこれが始めてだ」
 ちょっとむす、として言った。
「……でも昨日も雨だったぜ?」
「昨日は現郎が休みじゃなかった」
 ……ふーん。
 初めてを俺の為に取っておいててくれたんか……って取りようによっちゃものすごく下世話な台詞だな。
「なぁ、爆」
 ぐわしゃわしゃわしゃとカッパを脱がしながら言う。
「可愛いな。このカッパ」
「当然だ。オレが選んだ」
 爆は、はにかみながら言った。



雨の中を散歩する二人、というのがこの話のコンセプト♪爆がもう少し歳食ってたら誰もいない公園でキス、という流れになるけど、相手4歳でそれやっちゃあかんだろ。

それはそうと1月21、愛知県は冬の嵐でした。
あまりにもすごい雨で窓の桟に水が溜まってました……ていうかウチの学校がボロいだけなのですが。(地震が来たらこの建物が一番に壊れると先生お墨付き)なんつったって壁に皹入ってるしね☆!