一緒に遊ぼう♪
長い廊下を真は鼻歌でも歌わんばかりのご機嫌さで歩く。
「真ー、ご機嫌だなー」
「まぁな」
本当にご機嫌な真は現郎の言葉を軽く受け流す。
何だってそんなに機嫌がいいかというと、最近鬼の如く忙しい仕事がひと段落ついたのである。
……これで。
これで爆と遊べる!!
太陽に向かってガッツポーズをしたいくらいだ。
とかやってる内に爆を発見。手摺に腰かけて足をぶらぶらしている。
「爆」
自分の声に振り向くのがとても可愛い。
「親子のスキンシップは大事だよな、現郎」
「俺は知らねーよ」
素っ気無い現郎の態度も今日は1キロ先で吹く風である。
真は爆の所へ行き、顔を覗き込んだ。
「爆、今度の日曜何処か行きたい所はないか?どこでもいいぞ。ここのとここずっと遊んでないからな」
「……別にいい」
「そうか。別にいいか。
………………………………………
え゛。」
真は30秒かけて言われた事実をようやく受け入れる事が出来た。
「ば、爆?遠慮しなくてもいいんだぞ?」
「遠慮なんかしてない。遊びたくなから別にいいと言ったんだ」
ゴン!と頭上に岩が落ちたようだ。
「炎の所に行く」
ゴゴン!(←追加)
爆はそれだけ言うとぴょんと手摺から降りて行ってしまった。
「…………………」
「真?どうしたの?」
「……天……大変だ!爆が倦怠期に!!」
「まぁ、真落ち着いて。それを言うなら反抗期でしょ」
「そう、それだ!何で急に!!」
「それはやっぱり……」
天はにっこり笑って言った。
「ここの所仕事にかかりきりで全然顔も合わせてないからじゃないかしら?」
ゴーン!!(←とどめ)
妻の一言に真は撃沈した。
「し……しかしそれは仕事で仕様が無く……!!」
俺だって爆と毎日ごろごろしていたかったさ!と真は必死の弁解をする。
が。
「子供の目からみたら、仕事を言い訳に使う大人って、汚いのよね」
「…………………」
真は。
燃え尽きた。
「何で現郎までついてくるんだ」
「爆……いいのか?本当に」
「……何がだ」
「オメーだって父親と一緒にいてぇだろーが」
「何時、オレがそんな事を言ったんだ?」
自分の言う事に偽りは無い、と誇示するために爆は現郎と向き合った。真っ向から見据える。
ただ、瞳に何時もの強烈な輝きが薄れているから。
「……嘘じゃねーかも知れねーけど、それだけでもねーだろ」
「…………」
爆はきゅっと唇を噛み締める。
いつにない現郎の険しい表情に、つい虚勢になってしまう。
恐縮したらしい爆に、膝をついて目線を合わて、優しく。
「……言えよ。真には言わねーから」
「……本当?……」
現郎ははっきり頷いてくれたから。
爆は口を開いた。
真の心境は一気に急降下である。
暖かい日差しを全身に浴びながらも真の周囲には吹雪でも吹いていそうだ。
(俺……父親失格か、な……)
ふふ、とらしくなく自嘲的な笑みまで毀れる。
……母親は産んだって実感があるから、その日から母親になれるけど、父親はそうにもいかないからなぁ……
父子の繋がりって……儚い。
と、その時。
「現郎ぉぉぉぉぉぉ!!下ろせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「うっせ。耳元で喚くな」
軽々と肩に担つがれた爆と担いでいる現郎がやって来た。
「現郎の嘘つき――――――!!」
「あぁ、言い忘れてたけどたまに俺嘘つくからな」
「ばかぁ――――!!」
爆は手足をバタつかせた。
「おい、現郎!貴様何を……!」
「真。爆はな、最近オメーが忙しくて疲れてそうだから、ゆっくり休んで欲しかったんだとよ。自分となんかと遊んでないで」
「現郎!!」
と叫んだのは爆である。
「……………」
と黙っているのは真である。
「つー訳で、バトンタッチ」
「オレはバトンか!?」
荷物のように真に渡され、爆は憮然とする。言いたい事を(一方的に)言った現郎は眠れる場所を探し、欠伸をしながらその場を去った。
爆は最後の抵抗にその背中をこれでもかというくらい睨んでみた。
「爆」
初めて聞いた父親の低い声に肩が撥ねる。
さっき冷たくしたから怒ったんだろうか、とおずおずと上を向くと。
「馬鹿だな……やっぱり遠慮してたんじゃないか」
ぎゅ、と力強く抱き締められた。
「……だから、遠慮なんかじゃない……本当にそう思ったんだ」
久しぶりに感じる匂いや温かさに、やっぱり和んでしまう。
「……親だからと言って、無理して欲しくない……」
「それを言うなら、俺も子供だからという理由で気遣ってもらいたくはないな」
「…………」
爆は何だか自分が凄く愚かに思え仕方が無かった。
「爆。俺はお前と居る時が何よりの休息なんだ。だから、そんな事を思わなくていい。
……しかし、俺の事を心配してくれたんだな。……ありがとう」
「……真……」
「うん?」
「……この前出来たっていう水族館、行ってみたい」
「ああ、いいぞ」
こうして。ようやく。
真は久しぶりに息子の笑顔を見れた。
新しく出来た所なので、色々道順などを調べないとならない。真の部屋で計画を練る事にした。当然爆もそこにいる。
「……駅から専属のバスが出てるんだな……だったらこれに合わせて……」
インターネットで検索している真に、爆は言う。
「なぁ。もう一つ頼んでもいいか?」
「勿論いいに決まってるじゃないか」
一旦ディスプレイから視線を外して爆に向く。何故か爆は顔が赤い。
「現郎……とも、一緒に行きたい……」
「そうか。現郎もか。
……………………………………
え゛。」
真の笑顔に亀裂が生じる。
「だめだよな……現郎にも都合があるし……」
「いや、明日でも俺が頼んでやる」
「――本当か!?」
「本当だとも。っはっはっは」
言うまでもないが。
真はヤケクソだった。
この後暫く、現郎にことあるごとにあたったとしても。
それは不可抗力だと思うのだった。
親ばか真さん大爆発。……すいませんすいません真、ワタシの中でこんなんです。もうどうしようもありません。
あと、ウチの真天は「真×天」というより「真<天」って感じですね。なにぶんデキちゃった結婚だから頭が上がらないの。
後日談で水族館に行く日までを指折りで数えてカレンダーにへばり付く爆を微笑ましく思う現郎の姿、ちゅーのを考えたんですけど入れる隙がありませんでした。ありぃ?
ついでに何故水族館にしたかというとただのフィーリングですね。いや、遊園地やテーマパークって爆のイメージにあまりそぐわない気がして。
映画はカイで使っちまったからね(笑)