Star Light Prayer


 流れ星に願いを叶える力があるって、誰が最初に言い出したんだろうね
 

 山積みの書類を抱えながら世話しなく歩く現郎の後ろを、齢3つになられる爆がチョコチョコとついていく。現郎が一歩歩くと爆は3歩ばかし歩かなければならないので、本当にチョコチョコという感じだ。
「現郎!話が違うぞ!」
「仕方ねーだろ、仕事なんだから」
 いつも遊ぼうといっても昼寝しかしてくれない現郎が、今度の休みにどこかへ出掛けようと約束してくれた。
 しかし。
 その今度の休みの日は無残にも仕事に奪われてしまったのだった。
「すぐ大人は仕事だからで片付ける!卑怯だ!」
「オメーは子供だから解んねーよ。まだ」
「…………ッ!現郎の………!」
 爆は声を小さくしてなにやらボソボソと言う。
「?」
 いぶかしんだ現郎が耳を寄せると。
「バカァァァァァ―――――――!!!」
 爆はその小さい体をフルに使ってあらん限りの大声で叫んだ。そして、そのままダッシュ。
 残された現郎は。
「……結構……効いた……☆」
 ダメージはなかなか大きかった。

「現郎のバカ……オレの方が先に約束したのに……」
 涙が溜まってきた爆をそっと膝に乗せ、母親である天は優しく髪を撫でた。
「そうね……でも、現郎も破りたくて破った訳じゃないのだから、そこまで言ったら可哀相でしょう?」
「…………」
 爆はきゅうと自分のズボンを握った。
 そんな事は解っているのだ。
 今は全体が忙しくて、現郎だけじゃなくて真も炎も、天も。
 だから自分は大人しくしているのが、一番の手助け。
 そう、解っている……のに……
「……おいしいケーキを貰ったから、紅茶を淹れましょうね」
「……うん」

 ……何故か目が覚めてしまった。
 そんなに現郎に約束を破られたのが腹に立ったのだろうか。
 マクラに乗せた頭の位置を変えても、なかなか寝付けない。
 もうこんなに夜遅いのだから、寝ないといけないのに、そう思うとますます寝れなくなり、悪循環にはまる。   
 ふと、外の景色が気になった。
 いつもならとっくに夢の中で、どうなってるかは知らない景色。この機に見ておこう。
 冒険に出たみたいにどきどきしてる。窓を開ける。前を見た。横を見た。
 そして、上を見た。
 すると……
「……うわぁ……」
 流れ星。たくさんの流れ星。
 一つが消えても、また次に現れる。
 すごいな……
 しばらく幻想的とも言えるその光景に魅入っていた。
 ふと、考える。

 こんなにたくさん流れ星が流れてるんだから……
 願い事、一つくらい
 叶うよね

 チュンチュンと小鳥たちが朝の訪れを喜んでいる時、現郎は昨日の夜をまだ引き摺ってるように眠りこけてたりする。
 はずなのだが。
「…………」
 起きちまいやがんの。
 かなり早い時刻を刻む時計を見て、溜息と失笑。
 本当なら爆と出掛けるはずだったから……
 ……それが無くなった今、こんなに早く起きてもはっきり言って無意味だ。折角朝寝坊できるように遅番にしてもらったというのに。
 寝直そう。
 現郎がベットに潜ろうとした時だった。
………どぅえぇぇええええぇぇぇえぇぇぇえええッッ!!!?
 とーとつに響いた慟哭にベットから転げ落ちる。
 窓枠にいた鳥たちもどこかへ飛んでいってしまった。
 ……っていうか……
 今の声って。
「爆……?」

 何か身体が苦しいと思って。
 目を開けたら違和感が襲った。それを確かめようと思って起き上がって、目の前にあった鏡に映った姿。
 最初は父親だと思った。しかし、ここにいるのは明らかにおかしい。
 何故かと訊こうとしたら鏡の真も口を開いた。
 ……
 自分が立つと真も立つ。
 自分が右手を上げると真も右手を上げる。
 自分がくるっと回ると真もくるっと回った。
 …………
 とんでもない事だが……
 この鏡にいるのは、真じゃなくて……
 大きくなった爆……
「…………」

 で、あの叫びである。

 どどどどど、どうしよう!!
 シーツに包まって、爆は頭の中をどうにか冷静になろうとした。
 何せ3歳だったのが一気に10歳は年を取ったので、服のサイズが合わなくて爆は裸同然……というより裸だ。
 ……果たして、この姿を見て、自分だと解ってくれるだろうか。それが何より問題だった。
 真にこんなにそっくりなのだから、ある意味解って貰えるかもしれないが。
 改めて鏡を見てみた。
 本当に、父親とそっくりだ。
 ここまで似てるとなんか複雑だったりするが。
「おーい、爆」
 !!!!
 う……現郎……!?何でこんなに早くから起きてるんだ!?
「な、何の用だ!?」
「いや、用っつーか、さっきオメーがすげー声で叫んでたからどーかしたのかと思ってよ」
「な、なんでもない!なんでも!」
「爆……声が変だぞ……?」
 そう言えば声が低いなぁと。

 
って思ってる場合じゃない!早く現郎を追い返さないと!
「風邪でもひいたか?」
「そう!風邪、風邪ひいたんだ!だから……」
「馬鹿、何で言わねーんだよ」
 ガチャリ。
 入って……来るなぁぁぁぁぁぁ―――!(爆の心の叫び)
「あ?何で真がいんだ?」
「…………」
 この反応は予測していたけど……やっぱり何か……何か……
 胸がぐるぐるする。
「おい、爆は何処だ……」
 現郎は爆の顔を覗き込む。しばらくして現郎が何かに気づいたように言った。
「……爆?……オメー、爆……か?」
「え……?」
「爆なんだな?」
 確認よりも確かな問いかけだった。
 え?え?え?解った?
 解って……
「現……郎……」 
 ぽろっと爆の瞳から涙が零れた。
「おい……!?何泣いて……?」
「あ……朝起きたら……こんな姿になってて……どうしたらいいのか、全然解んなくて〜!」
「わーった。わーったから」
「ふぇ〜〜ッ」
 緊張の糸が解れて泣きじゃくる爆の背中を摩ってやった。

「で。落ち着いたか」
「……うん……」
 泣いて、ぐしゃぐしゃにこんがらがった頭が少しすっきりした。
「何でまた、こんな急にデカくなったんかな……」
「オレが聞きたい。それより頭撫でるな」
 それっきり現郎は何も言わなかった。こういう所は優しさなのか単に無神経なのか。
 カチコチと聴こえる針の音。
「……原因が、見当がつかないこともない」
 膝を抱え、爆がいう。
「んー?」
「昨日、たくさん流れ星が流れてたの、知ってるか?」
「あー、そういやナントカ流星群がどーとかニュースでやってたなぁ」
 その時刻は必ず熟睡している現郎には関係のない事だった。
「それで……」
「それで?」

「……早く、大人になりたいって願ったんだ……」

「……何でまたンな願い事を」
「現郎の仕事を手伝えたらな、と思って」
「?」
「そうしたら休日まで仕事が繰り越す事もないだろう?」
「嫌味かよ……」
 コツン、と頭を軽く叩く。苦笑する現郎に、爆は小さく笑った。
「それに……」
「他になにかあるのか?」
「別に」
 笑みを深くし、横に座る現郎に凭れ掛かる。いつもより、現郎の顔の位置が近い。
「現郎……何で、オレだと解ったんだ?最初自分でも解らなかったんだぞ」
「……勘、か?」
「何だそれ」
 でも現郎らしいからいいか。

 
不思議。さっきまでどうしたらいいのか解らなくて、どうしようもなく不安だったのに。
「このまま元に戻らなかったら、どうなるんだろうな」
 現郎を見たらそんなでもなくなった。事態はちっとも解決していないのに。
「ま、皆アバウトな連中だからな。そんなにゴタゴタしねーと思うぜ」
「それもそうだな」
 爆と現郎も結構アバウトだった。
「…………」
「どうした。目ぇ擦って」
「眠い……昨日夜中に目が覚めたから……」
「だったら寝とけ。無理は身体に悪ィ」
 どういう理屈だ。
「うん……」
 微眠んできた爆は横になるとそのまま寝入ってしまった。
 その様子を見て現郎も欠伸をする。
(部屋に戻るのもめんどくせぇし……ここで寝ちまうか)
 という訳で現郎もベットへ潜り込む。
 爆と向かいあった。
 さすがに親子だけあって、真とよく似ている。そっくりなんて域を通り越してるくらいに。
 正直、自分でも何故解ったか疑問だ。
 でも、確かに目の前にいる人物は真ではないと思った。
 ……いや。

 真ではない、と思ったのではなく。

 爆なのだ、と思ったんだ。

 ……誰かが……呼んでいる……小さくて高い声……
 言葉を喋れるようになって久しい口調で。
「……う……ろぅ……現郎!」
「ん〜?ん……?」
 寝ぼけてるな、と思った爆がぺしぺしと現郎の顔を叩いた。
「うーつーろー!」
「あーもー痛ぇっての!」
 ガバリ!と起きた現郎の目に飛び込んできたもの。
 それは爆。
 ……3歳の。
「ぁ……?」
「戻ったんだ!!」
「そーかぁ……良かったな」
「♪」
 戻れた安堵感からか、今の爆は現郎に頭撫でられても怒らなかった。
「……今は何時だ?」
「えーっと。10時半」
「じゃぁ、もう行かねぇとな……」
 また爆、怒るだろーなー、とか思ったが。
「ん。頑張ってこいよ」
「何だ、やけに機嫌いいじゃねーか」
「困らせて、子供だとか思われたくないからな」
「ぶぁーか。俺の中じゃ十分困った子供だっての」 
「……何でそんな事言うんだ!じゃぁまたバカとか言うぞ!?」
「上等」
 ふふん、とシニカルに笑って大人の余裕を見せ付ける現郎だった。

 ……折角俺にだけ我が侭してくれるってのにな〜
 それ無くなったら勿体無ねーじゃん


「かーさん。オレ早く大人になりたいな」
「まぁ、そうなの?」
 母親としてはいつまでも子供でいてほしい所だが。
 ううん、爆は大人になってもきっと可愛い!(天の心の叫び)
「うん。で、現郎の仕事、手伝うの」

 そうしたら、一緒にいる時間
 増えるから……

えー、ロイヤルファミリーその2!いい加減爆成長させたいですね。これで手を出したら犯罪ですがな(ああ、でもそれもいい!)
この話で書きたかったのは、どんな姿でも爆だと解る現郎と天と爆のティータイム♪元爆天の血が騒いだのさ……
しし座流星群のときに思いついた話です。皆様見られましたか?
9時に寝た私にゃ関りの無い事ですがね。ふっはっは。