思い出なんて、無いから いつか彼はいつものようになんでもないように、 寂しそうに言いました
ちょっと激に訓練つけにもらいに行って来る。 と爆が言ったのは昼をちょっと過ぎてからだった。 今はもうそんな時間をとっくに過ぎ、空には星が燦々と輝いていた。 こんな時間まで爆が出歩くことはまずない。無断で、なんてもっと有り得ない。 となれば、帰れなくなった事情があるか、帰れる状況にないか。 ……今回は後者だった。 ……その場所は、サバト(悪魔の宴)を連想させた。 「カイ〜、耳、長いなぁ〜」 ぎゅぎゅぅぅぅぅぅぅい! 「いったぁぁぁ!痛いです!爆殿!やめてくださいぃぃぃぃぃぃ(泣)」 「だーっははははははははは!!」 「……………」 酔っ払ってカイの耳を引っ張る爆に、それに泣くカイ(やはり酔っ払い)。 そしてそれを見て大爆笑している激(当然酔っ払い)が居た。 ふと床を見れば酒瓶が2本3本……… 「激……飲ませたな」 「だひゃひゃひゃひゃひゃ!!」 ジト目で睨んでも、ダメだ、もう完璧出来上がってる。 まぁ、こうなる経緯は目に見える。 まず激が酒を爆に勧め、最初は断られるが「ふーん、爆酒飲めねーのー」とか言われて一気飲み。側に居た弟子は巻き込まれ。 ……この中で一番不幸なのは弟子なのには間違いない。 はー、と溜息をつき、 「オイ、爆、帰るぞ」 「う〜〜〜?」 カイに馬乗りになった爆を、よいしょと羽交い絞めの要領で持ち上げる。 「うつろ〜だ〜〜〜」 「あぁ、そうだ」 焦点の合わない双眸、呂律の回らない口調。 至近距離でそれを見せられ、熱い欲望が頭を擡げるが、まだ堪えられない程でもない。 「うつ〜〜〜」 ぎゅううううううう〜。 ちょいと身体を反転させ、しがみつかれる。 「……帰るぞ」 「おんぶ」 だから離れろ、という現郎のセリフの前に、爆が言った。 「………ぁ?」 言われた事が半ば信じられず、間の抜けた声を出す。 「お〜ん〜ぶ〜」 おんぶって……前から抱きつかれりゃだっこじゃねーかってそうじゃなく。 「…………」 「ん〜〜〜」 おんぶしてくれなきゃ、帰らないぞという頑なな態度。 笑う激とな泣くカイを後にして、爆を背負った現郎は家を出て行った。
(……寝た……か?) 夜の道を現郎はざくざくと歩いた。 別に瞬間移動が出来ない訳でも無い。というか行きはそれで来たのだ。 それをどうして今は足でえっちらおっちら歩いているのかというと…… 単に爆の要望だ。 空が見たい。景色が見たい。 さっきから脈絡の無い言葉を連発していた爆が大人しい。 いよいよ酔いが回って寝付いたのだろうか。 それなら瞬間移動しても……と、意識を集中させたその時。 「現郎」 「…………ッッ!!!」 いきなり名前を呼ばれ、いやそれよりもごきゅりと顔を上向かせられた。 あと少し角度が急だったら間違いなくオチてた。 「お……お前………ッ!」 首を掴まれたまま、唸る様に言った。 「現郎。星が、綺麗だ」 星………? 夜なんだから、そりゃ星も照るだろう、と視線を真上に上げれば……… ……今日はたぶん新月で。 他の光に邪魔される事無く、星はその小さな光を煌かせていた。 一面の星空、というのはまさにこの事を言うのだろう。 「……あのな、現郎」 ぽつり、と爆が言う。 「星の光は、その星の爆発の光なんだそうだ。 ……だから、あの光が見える頃には、もう存在はしてないんだ」 「……………」
人は、死んだら星になるという。
それは勿論迷信だろうけれど、
死んだら、消えて忘れられるしかない人間。 死んだら、光になって誰かに知らしめる星。
……星になれたら、と願う気持ちは、解らないでもない。
爆は淡々と言葉を続けた。 「……それで、爆発した星の欠片は、遠くまで散らかって、それが集まってまた星になるんだ。 だから、現郎」
「現郎達の星も、今頃どこかで、新しい星になってると思うぞ」
「………………」 爆の声が段々とくぐもる。 「……もしかしたら、この星がそうかもな………なんて………」 ちょっと時間軸が合わないか。 そう言ってから、爆は現郎の背中で寝入った。 「……そうだなー………」 ちょっと時間軸合わないな。 現郎は、爆が風邪を引かないように。 じっくり時間を気にして、星空を眺めていた。
まんざら自分の生きてきた時間も、無駄ではないと、今日思えました
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