雨が降っている。 土砂降りではなく、しとしとと降注ぐ雨。 梅雨の到来だ。 「っかー、毎日毎日雨雨雨雨! ただえさえ陰気に室内に引きこもってるってのによけー陰気になるっての。せめて晴れろや」 「笙、お前晴れの日には”こんないい天気なのに部屋で仕事かよ!”と嘆いてたじゃないか。そこの所どうなんだ」 「記憶に御座いません」 斬の質問にしれっと答える笙だった。 「俺ぁ別に雨でも晴れでもいいけどなー」 「現郎はどっちにしろ寝てるからな」 と言ったのは爆。 外へ出掛けれないので、ここ最近現郎の居る執務室に入り浸りだった。 真や炎に会うと仕事そっちのけで相手をするので、周りからも爆自らも自粛している。 「お。雨で思い出した。 お前らこんな話知ってるか?」 『知らん』 斬と現郎のセリフはゴスペラーズ並みに綺麗に唱和した。 「…………こんな時だけ息ピッタリだな。 まぁ聞けよ。俺の友達の友達に聞いた話なんだけどよ」 笙は少し勿体ぶって言う。 「何でも昔、自分の美しさ保つために若いヤツらの生き血を啜ってた貴婦人が居たんだってよ。 んでこの城内で死刑になったんだけど、その時と同じ雨の日には夜な夜な再び血を求めて彷徨うんだってよ」 「……で?その後おじいさんが山に芝刈りに行っておばあさんが川に洗濯へでも出掛けたのか?」 効果に声のトーンを抑えた笙の話の腰をぼっきり折る斬。 「……ここまで清清しく信じてないってのもある意味凄いな……」 「当然だ。そもそも”友達の友達”と言った時点で怪しさしか感じられんわ。 そんな話はいいからさっさとこの書類を片付けろ」 と、目の前にどさりと斬から置かれた書類の山は定規で厚さが測れた。思わずうへ、と顔が歪む。 笙はこの中で一番年下なので、主な仕事は先輩の手伝い及び雑用一般。 解り易く言うと”使いっぱ”である。 「……なぁ、今の話って本当なのか?」 あまりの量に一瞬逃亡を試みかけた笙に爆が言った。 と、笙の顔がにや、と歪む。 下っぱで使いっぱの笙にとって、えばれる対照は爆ぐらいなものだ(その後痛い目に遭うものの)。 「そうだぜ〜。お前なんかちっこいから、すーぐ血ぃ全部吸われちまう……デっ!!?」 「……むやみに爆を怖がらせるな」 自分以外のヤツには容赦も情けも血も涙もない斬だが、爆だけは目ン玉に入れてぐりぐりしても痛くない程可愛がっているのだった。 なのでその爆を怖がらせようなんてするヤツに、頭上から拳を決めても誰から文句が出ようか(本人から来るっちゅーの)。 「斬、別にオレは怖がってなんかないぞ。単に信憑性を訊ねただけだ」 ム、と少し剥れて言う。爆は子供扱いされるのが嫌いだ。 「爆……信憑性なんて難しい言葉を使って……来年には就学だからな」 爆の成長を喜ぶと共に自立してしまう悲しさに複雑な心境の斬であった。
夜になり、雨はその激しさを増した。 窓ガラスに打ち付けられる雨の音が耳障りにすらなった。 まぁ現郎にとっちゃンな程度の騒音、物ともせずに眠れるに違いないのだが。 ちょっと不気味に見える夜の廊下を、現郎は欠伸をしつつ渡る。 と。 光が見えた。 爆の部屋だった。 「………………?」 今の時間帯、子供が起きているのは不自然だ。 まさか不法侵入者……とまではいかなくても、例えば真とか炎とかが爆の寝顔でも見てるのかもしれない。 が、ひょっこり顔を覗かせても、居るのは大きな(爆の身体に対して)ベットに埋もれるように寝ている爆のみ。 首を捻りつつも現郎は部屋の電気を消した。 すると。 「-----消すな!!」 がばぁっと爆が起き上がった。 「爆?こんな時間までどうした」 「それは……」 ぐ、と言葉に詰まり被っていたシーツをぎゅっと握った。 不可解な爆の行動に、現郎の頭上にクエスチョンマークが増える。 しかしよく見れば。 子供の部屋にしてはシンプルな爆の部屋。 それでも今日はそのベットの……枕の周りにありったけのぬいぐるみが置かれている。 (昼の話……が原因、か……) 怪談に、しかもこの大雨だ。 大人でも心細くなる人はいるかもしれない。 ましてや爆がどんなにしっかりしていても子供離れしていても。 ……子供、なのだ。 「……………」 しばらくの間を置いて、現郎は爆のベットに潜り込んだ。 「現郎?」 「……自分のトコまで行くの面倒臭いから、ここで寝る」 「寝るって……」 戸惑う爆を余所に、現郎はおやすみ、と言い残して本当に寝てしまった。 「……ヘンな奴」 爆は寝てしまった現郎におやすみなさいのキスをして。 眠さも限界だったため、直ぐに現郎の胸の中で眠った。 (あ〜……この状況、見つかったらうるせーかもなぁ……) 本当はまだちょっと起きてた現郎はそんな事を考えた。
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