同居人は静かに笑う



 ……何処かで何かの小鳥が囀る。まるで寝ているものを起こそうとしているかのように、身体全体で鳴いている。
 が、それに付き合ってやるかは別問題だ。まだ寝ていたいから、寝る。ごそ、と鳴き声から逃れるように毛布に埋もれた。
 決断と実行の爆である。
 だがそんな爆の眠りを妨げる影が。
「爆君、起きてください。爆君」
 起きてくださいと言いながらも、その口調は眠りを誘うような穏やかなものだ。
 揺さぶる腕を振り払いながら、爆は寝言ともつかない声を発して、さらにベットに潜る。
「起きてください。朝ですよ」
 被った布団を捲られたのか、瞼の裏からでも感じる光に眉間に皺が寄る。
 と、その時。
 頬に触れた、指とは明らかに質の違う感覚に爆は飛び起きた。
「!!!!」
「おはようございます。朝食は出来てますよ」
 いや違う。爆の訊きたいのはそんな事じゃなくて。
「チャラ!!き……貴様、今何をした!?」
「何って……キスですが?」
 爆がなぜ問いただすのか解らない、といった具合に答える(表情はあまり変わらないが)。
「だから!何故そんな事をしたのかと訊いてる!!」
「起きない姫君を起こすのには昔からキスが一番なんですよ♪」
 当然のようにしれっと言った。
「誰が姫君だぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
 爆君は大変ご立腹である。
「それは物の例えってヤツですよ。清らかという点では同じですしねv
 さぁ、早く顔を洗ってリビングまで来てください。せっかくのスープが冷めてしまいます」
 決して強い口調でもないのに、反論も出来ず。
 爆はベットから降りて洗面所へと向かった。

 つい昨日の事だった。
 宇宙へと飛び立った針の塔を見届けた後、爆は数多の誘いを断って自分の家へと帰ったのである。
 殆ど突発と言っていい程GCになり、それから旅へ出て。以来ほったらかしなのだ。
 散らかってはいないが、埃は溜まるだろう。掃除しなければ。
 上空からは初めて見る我が家へ降り立ち、玄関を開けた。
「おかえりなさい。爆君」
 ガチャバタン。
 …………
 ……………………
「どうしたんですか、いきなり閉めて」
 あああああああ!幻じゃないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
 一度逃げかけた現実を突きつけられて、爆はその場で頭を抱えて蹲った。
「いつまでも外に居ても仕方ないでしょう。とりあえず中に入ったら如何ですか?」
 悶絶する爆に、チャラはマイペースに尋ねる。
「言われんでもそうするわ!そこはオレの家だぞ!!
 ……というか、どうしてオレの家に貴様がいるんだ!?とっとと出て行け!!」
「はい。実は先程無事に氷の中から生還した貴方の父君から、世話役を委任されまして。
 まぁそういう訳です。ですから文句があるのでしたら、本人に直接どうぞ」
「な……っ!」
 告げられた事実に爆は唖然となる。
「……だったら直接言って来る。親父は何処にいるんだ」
「さぁ」
 チャラはひょいっと肩を竦める。
「何分ずっと氷の中にいましたからねぇ、世界も随分変わっているだろうからちょっと見て来ると仰っていましたよ」
「ちょっとってどれくらいなんだ!」
「爆君、予定は未定という言葉はご存知ですか?」
「…………」
 ……いや、自分も覇王を志す身の上。世界の状況を見て周りたい気持ちは良く解る。
 が!それにしても息子に一言二言言う余裕はないのか!?
「……まぁ、いい。貴様の所存について後にする」
 今日は斬を倒したり炎を見送ったりで疲れたのだ。ゆっくりと休みたい。
 ふぅ、と軽い溜息をついてソファに沈む。
(風呂でも入ろうかな……)
 とその時。
「爆くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんん!!」
 神経の隋まで響くような薔薇を連想させる能天気な声が!!
 ああああ、疲れている時に疲れるヤツが!!
「あの皺くちゃ(←ジバク王)に聞いたけど、爆くんて実はツェルーの人間なんだって!!?ああ、なんだか運命感じちゃうなぁ♪だからさ、僕と一緒にツェルーで……」
「申し訳ありませんが、雹様。今日はもう遅いのでお帰りください。爆君も疲れていますし」
 一緒に暮らさないか、という雹の台詞を言わせまいとチャラが割り込む。
「チャラ?貴様がなんで爆くんの家にいるんだい?」
 射抜くような雹の視線にもチャラは笑みを崩す事なく答える。
「爆君のお父様に頼まれたんですよ。爆君の身の回りの雑事をするよう」
「ふーん……」
 雹は明らかに面白くない、といった表情をする。
「だったら僕がその役引き受けるから、お前は爆くんの父親探してその旨伝えておけよ。
 さー、爆くん♪疲れているなら僕が優しく介抱してアゲル♪」
「……とか言いながら、何で服を脱ぐ!!」
 チャラに一方的に言い捨てて爆に飛びつく雹。
「フフフ、ぐっすり眠れるおまじないだよ〜♪」
 どうでもいい事ですが、「おまじない」とは「お呪い」と書くそうです。
「ええい、いい加減に……?」
 くらっと爆は頭の芯がずれたような眩暈を覚えた。額を抑えてそれを堪える爆に、雹は更に接近する(ネクタイを解きながら)。
「斬と戦って随分体力も精神力も磨耗しているから……無理は禁物……だよ?」
 何時の間にか空に浮いていた月が、雹を殊更妖しく照らす。
 雹の指が爆の頤を捉えた。そして……
「はい。そこまでここは裏じゃないんですからね」
 チャラがポン、と雹の肩に手をやると、雹はヒュ、と消えてしまった。
 自分にではなく、相手のみにテレポートをかけたのである。
「……一応テンパの密林のど真ん中に移動させましたが、雹様の事ですから、夜中の内にまた来るかもしれませんねぇ。トラップでも作っておきましょうか」
 顎に指を添えて考えるチャラは果たして冗談なのか本気なのか。彼の微笑みは解らせててはくれなかった。
「まぁ、その事は置いておいて。爆君、お風呂は……」
 投げかけた言葉を中断させる。
 爆は、寝ていた。
 最もそれはちっともおかしな事ではなく、寧ろ今まで動けていたのが不思議な位で。本人は気づいてないようだったが。
 チャラは爆を起こさないでベットへと運ぶ。
 普通のサイズのソファに横たわれる身体は自分の腕の中にすっぽりと収まった。
「爆君……貴方はおそらく、自分の偉業に気づかないでしょうね」
 ぽつん、と月明かりの室内。チャラの呟きが響く。

 貴方は世界を救ったばかりか、僕の予想を覆したんですからね

(全く、とんでもない人だ……) 
 朝日の昇る方角を見詰める。
 「明日」がこんなに楽しみなのは、おそらくこれが初めてだった。

アニメ最終回後のお話です。明らかに。
アニメのチャラは最初から最後まで「謎の人」で終わったのでいろいろと妄想がしやすい……もとい、ミステリアスで素敵です。しかも声が菊地正美だしな(漢字合ってる?)あれはたまげた。
ついでにこれもシリーズ化決定。だって設定一杯あるんだもん!!チャラと爆パパが結構仲良しさん♪だったり爆の記憶を無くす時にチャラも立ち会っていた、とか。最終回見終わった後たくさん妄想してたんですよ。これが2年弱の月日を経て形になろうとは。当時では考えもせんかったなぁ(遠い目)
あと爆パパさんの設定もいろいろ考えていたりするのですが、それは次回という事で!乞うご期待!とか言いたい所ですが、大したものしゃないのであまりしないで!!

それと。このタイトルですが2年くらい前(だったはず)に「隣人は静かに笑う」とかいうのがあって(確か)、それの捩り。
そしてその内容なのですが、どんどんエスカレートしていくストーカー被害のお話……ちょっちホラー……
いいの。タイトルが気に入ったから……