keep it secret


 ずっと気にかかることがあった。何故かは知らない。
 だから、解消すべくこの気持ちを起こさせる張本人に訊いてみた。

  おまえは、どうしてオレに会いに来るんだ?

 こう、答えられた。

  貴方が――今の質問で僕に何を言わせたいのかが解れば、答えますよ


人は一人じゃないとはいうけれど、自分の心を読めるのは結局自分しかいなくて
そんな中、今日も誰かと一緒にいて笑い合ったり泣いて見せたり

 
 適当に辺りを散歩してみる。こうしていると、たまに、というかしょっちゅうあいつか、あいつの仕向けた使い魔が目の前に現れたりするのだが、最近は雹ばかり会いにくる。
 チャラは?と訊くと、一人身に僕たちの仲を見せ付けるのは酷だからねvとよく解らん理由ではぐらかされた。

 
やっぱり、命令されないと来ないのだろうか。
「こんにちわ。久しぶり、とでも言いますか?」
 …………
「チャラ……貴様気配を消して来るな」
「別に意識したつもりは無いんですけどね」
 ふわふわとした笑みだ。掴めない。
 本当に何時の間にか、チャラはいた。何故今まで気がつかなかったのかと思わせるくらい、わかり易い場所に、目の前の木に凭れていたのだから。
「今まで何故会いに来なかった」
 チャラは何時も通りに微笑んだままで。
「あぁ、それはですね。この間貴方とデートしてたのがバレてしまいまして、ボコボコにされちゃったんです。ちょっと霞がかかった花畑が見えましたよ、はっはっは」

「…………」
 はっはっは、で終わらせていい内容なのか……?
 そう言おうとしたが本人が良しとしてるみたいなので、やめる。
「それで?今日は一体何の用だ」
「特にありません。ここの所姿を見せなかったので、その旨を伝えに。どうせ雹様は何も言わなかったでしょう?」
 全く持ってその通りだ。
「では、僕はこれで」
 またボコボコにされちゃかないませんからねぇと、柔和なその表情とは裏腹に素っ気無い。
「――待て」
 爆の声にチャラの動きが止まる。
「貴様はこの前、オレに何を言ったか覚えているか?」
「えぇ、勿論」
 心なしか、対峙するチャラの笑みの質が変わったような気がした。
「オレはまず、お前に何で会いにくるのかと訊いて――そうしたら貴様はその質問でオレが何を言わせたいのか解れば答えてやると言ったんだ」
「……はい。解りましたか?」
「いや……」
 たった数メートル先の相手がやけに遠い。
「ただ……その言い方を取ると、貴様はオレが何を言わせたいのか、知ってるんだろ?知ってるなら教えろ」
 あくまで尊大な物言い。その裏にある戸惑いを感じさせないようにと。
 チャラの双眸が開き、爆を見据える。
「知りませんよ」
 あっけらかんと言う。爆は最初返って来たその返事にキョトンとしていた。
「な……」
「知るわけないじゃないですか。貴方の心は貴方だけのものです。僕が解るはずもない」
 爆が何か文句を言うのを遮る。言い訳……ではなくて。決して。
「じゃあ何だったんだ!あれは!」
「あれは……」
 いつしか、チャラの顔からは笑みが消えていて。これが彼の本当だとまでは言わないが。
「ああ言えば……僕の事を考えるでしょう?それが目的……です」
「……捻くれているな」
「せめて老獪ぐらいにしてくれませんか」

 
思わず、苦笑を漏らす。
「そんな事して楽しいか?」
「どちらかと言えば、嬉しいですね」

 少しでも、貴方の中に居られるのが。


「解らんな。貴様の考える事は」
「当たり前です。貴方は僕じゃない」
 吹き上げた風がチャラの髪をかき乱す。


 
そう、自分以外の誰かと心が通じ合うなんてそれは途方もなく――
 ある程度の妥協なくしては在りえない事で。
 それはこの永い時の中、何度も認識したのに。

 何を今更。
 心通わせたいなどと。
 奇跡よりあてにならない事を。

 目の前で立ちすくむ子供と。

「貴様は何を考えているんだ?」
「さぁ……何でしょうね」
 意地悪でなくて、本当に解らなくなってきた。
 在り得ないと解りつつ、それでも……
 それともこれが感情というやつか?
「……オレは少し自分の考える事が解ってきたが」
「そうですか」
 
 爆が言う。

「オレは、チャラが雹の命令でなくても来てくれたらいいな、と思ったんだ」

「…………」

 ――ああ、そうだ。

「そうですか」
「そうだ。悪いか?」

 諦めてしまうくらい、永い時を過ごしてきたのだから。

「それは、とても嬉しいですね」

 そろそろ、奇跡以上の事が起きても――否。

                             奇跡以上の事が起こせる人が現れてもいいじゃないか――


ほのぼのになってしまいました。ギャグのはずだったのに!前とのギャップが……
何か静かに静かに関係が進んでいきますね、この二人。独特の空気です。