風と夜の鎮魂曲


 今日の事は――本当にたった一日の事だったのだろうか。
 いろいろな事実が一気に溢れ、受け入れる事は出来たが、整理するのにはまだ時間がかかりそうだ。
 そう――いろいろと。
 ……帰りたくなった。自分が育った世界。
 そして。

『だって、俺は元ファスタのGCだから』

 かつて彼が護っていた世界に。

 救えた――んだろうか。夢を挫かれた魂。
 あの瞬間触れた何かが振り子みたいに今も動いている。

「……久しぶりだな……」
 ぽつんと闇夜に自分の声が浮かぶ。世界は静かだ。数時間前の喧騒すら忘れて。
 動乱すらも知らないように。
 爆は探していた。一人になれる場所。泣ける場所を求めて。
 涙を流せば、少しはすっきりするような気がした。心に溜まるものが、外に流されれば苦しさは薄れるかもしれない。
 その事が皆にも解ってしまったのか、帰る、と唐突に言い出した時、深く追求する者はいなかった。あの雹でさえもだ。 
 今、どこかの森にいる。
 そう言えば、自分が人知れず泣くときは自然に抱かれている時が多いような気がする。
 ……トラブルモンスターを一人で倒しきれず、炎に助けて貰った時。

 それと。

 彼はこの結末をどう思っただろうか。

 会いたい。

 ……会い……たい……

「……?」
 ふと、いぶかしんで爆は足を止めた。もともとどこへ行くかなんて決めていなかったために、気が付けば随分森の奥へ来ていた。
 そんな場所に、自分以外の誰が何の目的でいるというのだろう。 
 気になった訳でもないと思う。けど、自然と身体はその気配がする場所へ向かっていた。
 木々の葉に阻まれて姿は見えない。
 進む事でそれがだんだん薄れていく。
 視界に濃緑の割合が少なくなった。
 そろそろ見える……そろそろ……

 何で、こんなに足が速くなってるんだ?

 何で、こんなに鼓動が早いんだ?

 疑問を思ってるらしいが、それでも止まらない。あるいは、その人物が誰か、見当がついているからかもしれない。
 
 だから、こんなに。

 そこだけ、生きる者が憩えるようにと、樹が避けているみたいに思えた。
 そんな場所。
 そんな場所に、いる。
「…………」
 まるで、来るのを知ってたみたいにこちらを向いている。

「……閑……」

 かつて、同じ夢を抱き、同じ世界を護っていた存在。

「何で貴様がいるんだ!?」
 よりにもよって第一声がそれだった。素直に感情を出すのが得意とは思ってはいないが。 
 なんとなく近づけない。……これが夢で、閑が幻だったら、触ると消えてしまいそうで。
「……ついさっきまで、ここもトラブルモンスターで溢れていたからな。それからここを護るために」
 懐かしげに微笑む。誇っているのだろう。それが出来た事を。
「ああ……だからピンク達が来たのか」
 しきり顔で頷く爆。
「終わったんだな……何もかも」
 あまりにも静かな夜空を見上げ、閑は言った。
「またお前に助けられた訳か」
 苦笑ともつかない表情だ。
「また……?」
 何だ、忘れたのか?と今度は正真正銘の苦笑を。爆は少し目だけを伏せる。
「……オレは、お前を助けたのか?」
 閑は爆の瞳が揺れている事に気がついた。
「……オレはそんなふうに思っていない」

 だって、貴方は

 貴方の夢を叶える事無く

「…………!」
 俯いてしまってた爆は顔を上げ、目を剥いた。
「閑……!消えて……!」
「限界……みたいだな」
 元々自分はここにいてはいけないのだ。少し我が侭で、爆に会うまでいさせてもらったが。
「閑……!」
 行かないで。まだ側に居て。
 そう叫んでしまうのを堪える。折角解放された魂なのだ。それを今度は自分が枷になってどうする。
 だから。
 泣いてもいけないのに―――
「爆」
 近づいて、零れ落ちる涙を掬う。
「それでもやっぱり、俺はお前に助けられたんだ。……救われた。お前はもっとその事を自覚すべきなんだ」
「…………」
 何か言いたかったはずなのに、薄れていく閑の姿を前に、何も言えなくなってしまった。
 今度こそ、もう会えないのに。
 涙だけは涙腺が壊れたみたいに溢れてくる。
「爆」
 最後に、とその名を呼んで。
 消える直前――閑が顔を寄せ、

 口唇が触れ合った。

「――……」
 その拍子に涙が一筋零れる。
 微笑を残して閑は――消えた……
 音もなく消えたのに、丁度葉がざわめき、それがまるで効果音になったようだった。
「閑……」
 名前を呼んだも何も返って来ない。
 風の余韻でまだ葉が揺れている。


 か……悲しい!やっぱり相手が生きてないから……でも閑爆何気にフィーバー。そこのお嬢さん、ハマってみませんか?
 今度リベンジでまた書こう!パラレル設定がいいな、学園物とか(妄想中)