for the first time,
「チッキィィィィィィィ―――――!!!」 と、大音量で爆に呼ばれたチッキーは、その大きな図体を萎縮させた。 「あれ程通行人が何か寄越しても簡単に食べちゃいかんと、オレは毎回毎回毎回言ってるだろうが!!」 本日、適当な所を見つけた爆ご一行は其処での食事終了後、外へ出たら何故か近辺の森へ放したはずのチッキーが居て、なおかつその下には食べ物の残骸が散らばっていた。 それを見て爆が叱っているという訳だ。 「いいか!!今度人からオレの許可なく何か貰ったら、その後3日食事抜きだからな!!」 そのあまりにも残酷な宣告に、チッキーはがびーんとなった。 「爆ー、そのぐらいにしてあげなさいよ。きっとアンタと離れて寂しくなって此処まで着ちゃったのよ」 チッキーの怒られっぷりを見兼ねたのか、ピンクが助け舟を出した。 「それに関しては怒っとらん。 ただな、世の中いい人だけじゃないんだ。ひょっとしたら面白半分でチッキーにとんでもない物を食わそうとする輩も居るかもしれんから、オレはそこの所を……」 「……何だか爆って……お母さんみたいvv」 ピンクの発した固有名詞に爆がビギッ!と固まる。 「ねぇ、カイ。お母さんてこんな感じじゃない?」 「え?えぇ……まぁ……食べ物に関しては大概厳しいですね」 いきなり会話を降られてびっくりしたものの、ピンクの言葉を肯定する発言をした。なぜならカイもそう思ったからだ。 「お……お母さんて何なんだ!お父さんじゃないのか!?」 「えー?子供の栄養管理はお母さんの役割でしょ〜?」 これはいいからかいのネタを見つけた、とピンクは嬉しそうだ。 「ま。爆は拒んでもチッキーはそう思ってるわね。絶対」 「それはどういう……?」 今のピンクのセリフには、からかいだけではないと感じたカイが質問する。 「あ、そっか。カイはまだ居なかったから…… あのね、チッキーは卵から孵っていの一番に爆を見たワケ。俗に言う刷り込みってヤツね」 なるほど、とピンクの説明でカイが納得する。 「……しかし、それは一定期間で終わるんだぞ」 爆が異を唱えた。が、少々威力に乏しい。 「何言ってんの。例え刷り込みが終わってもチッキーが親と認めたらそれからもずーっとチッキーの中で爆は親なのよ。まさに絆ね」 うんうん、と感動したかのように頷くピンク。 「……羨ましいですね。そういうの」 ぽつり、とカイが言った。 ふいに発せられたカイの言葉に二人はしばし沈黙し――そしてズサササッ!と下がった。 「カイ!あんたまさかチッキーにヤキモチ焼いてるの!?」 「ち、違います!!」 「カイ!貴様まさかオレの子供になりたいのか!?」 「それも違うぅぅぅぅぅぅ――――――!!」 カイの必死の否定が、青い空へ吸い込まれた…… (ちなみにその後ろで自分の事がうやむやになったチッキーがほっとしていたという) さて場面は打って変わって何処かの川辺。 其処でピンクは。 大激怒だった。 「あーもー一体なんでこうなるワケ!?あたしが何をしたっていうのよ!!ムカつくわ!めっちゃムカつくわ!一昔前で言う所のチョベリバよ!チョベリバ!!略さずには超ベリーバットよ!!うわ、自分で言ってて凄く懐かしい!!」 「……ピンク、大激怒だな」 「……はい。聞いてるとこっちが参るくらいの激怒っぷりです」 まぁピンクが怒るのも無理は無い。ここら辺にトラブルモンスターではないが、ちょいとばかり性質の悪い猿が生息しており、その被害にものの見事にピンクの荷物に集中したのだ。 食料を漁ったものと見られるが、生憎そんなものはなく。それに腹を立てたのか単に投げただけなのか、まぁ結果としてはピンクの夜間防寒具の毛布が池にぷかぷか浮かんでいたのだった。 存分に水を吸ってしまっているため、今から干しても寝るときまでには乾かないだろう。ピンクは寝るのが早い事だし。 「おのれー!誰がここに居たトラブルモンスターやっつけてあんた達を安住させてやってると思ってるのよ!!あたしがバーンビで吹っ飛ばしたからじゃない!!」 「……カイが誘き寄せて、オレがジバクくんでやっつけたんだぞ」 ぼそり、と憤慨真っ只中のピンクに過った事実を訂正した。 ………………… 「爆!女の子に危険なことをさせるつもり!?」 「貴様GCだろーが」 またしても事実を突きつけて、爆は自分の荷物を漁り、毛布をピンクに投げ寄越した。 「え…………?」 「オレのを使えばいいだろう。オレが寝るときには乾くかもしれんしな。 それにいざとなればチッキーに包まって寝れば風邪も引かんだろう、この気温なら」 「……ありがとね、爆」 ピンクはちょっとはにかんで言う。 ひょっとしたら乾かないかもしれないけどここでいやしかし、などと言っても爆が引っ込むとは思えないし、その気持ちも無駄になるような気がする。 爆の言ったとおり、今は下手をしなければ風邪になる事もないだろうし、自分はどちらかといえば悪戯された事に腹を立てていたのだから。 優しさを受け入れるのも、一種の優しさなのだと思う。 「遠慮なく使わさせてもらうから……あんたはチッキーと親子仲良く寝てちょうだい」 「貴様はぁぁぁぁぁ!まだそんな事を言うか!!」 「だってそうなんだも〜ん」 「貴様――――!!」 「あの、誰か夕食作りの手伝いを……いえ、いいです。一人でします……」 キャーキャーと二人が鬼ごっこをする中で、カイは黙々と料理に勤しんだ。 涙が出るのは玉ねぎを刻んでるからだ、きっと。 さて、夜。 太陽と生活を共にするピンクとカイが寝た後、爆は辺りの見回りをざっとする。早朝の時はは今寝ている二人がやるのだ。 別に誰がやろうと言い出したのではなく、自然とそうなった。 時々何かが木から木へ移動する物音が聞こえるが、それ以外は何も無い。爆は自分達が陣取ったスペースへ戻る事にした。 出る時、目印にと焚いた火を見つけ、そして訝る。 炎に人影を見たのだ。まぁ、知ってる人物なのだから、騒ぐ事はしないが…… 「……カイ。どうかしたか」 「……………」 日没と一緒に寝てしまう彼がこの時間に起きているのはとても珍しい。何か理由がなければありえない事だった。 そういえば、夜にカイと一緒にいるのは、これが初めて。 紅い瞳が夜の闇でちょっと違って見えた。 「爆殿……」 この静寂を壊さない、静かな声で言う。 「あの……一緒に……あ、えぇと、その、毛布……」 支離滅裂なカイの言葉だが、推理して補うと、一緒に毛布に包まって寝ませんか、とでも言いたいのだろう。 自分のを使ってください、なんて言えば即座に却下されるから。 ……ここまで配慮されては、無下に断れない。 「……解った。一緒に使おう」 どうやって上手く言おうか、と頭を悩ませているカイの傍らに、毛布を装って爆は座った。 ふんわりとした毛布の感触と、肩に感じた爆の髪。……体温。 「……何だ?」 じっと自分を凝視するカイに、爆は小首を傾げるような姿勢で尋ねた。すると、カイは視線をわたわたとあちらこちらへ向け、下を俯いて、 「……何でもありません……」 とだけ言った。 爆は苦笑し、少し身を乗り出し焚き火の後始末をした。空間に明かりが何もなくなったが、月と星のおかげで互いの顔は思いのほか結構はっきりと見れた。 ……それは、あまりカイは歓迎出来ないが…… 「……今日は何だか積極的だな?」 驚いたのは今の言葉か更に凭れかかった事にか。 「そ、そうですか?」 「そうだ。いつもは散歩下がって師の影踏まず……な感じだぞ?」 クスクスと小さく笑う爆は、昼間チッキーに見せた姿と夕方ピンクと追いかけっこした姿とも違った。 それを見れるのは自分だけ、という仄かな優越感に後押しされるように言う。 「……爆殿を、取られたくありませんからね」 「チッキーにか?」 こっくりと頷く。 ……よりによってドライブモンスターにまでヤキモチ焼いてしまって、いよいよ自分は末期だ、と思いつつも焼いてしまうのだからしょうがない。 偽りは出来ない。事、爆に関する事には。 「……オレは貴様もチッキーも大事で……けどどっちがどうとか、そういうものじゃないだろ?」 「解ってますってば」 あまり自分を惨めにさせないで欲しい、という願いも込めて爆を抱き締める。 ……解り切れないから焼くのだ。それだけは解っているのだ。 「まぁ最も、貴様もチッキーもオレの後ろをついて来るという点では同じだがな」 「ば、爆ど!」 「……ピンクが起きるだろう」 喚きだしたカイの口を慌てて塞ぐ。……まぁあのピンクがカイが叫んだくらいじゃビクともしないとは思うが、何事にも万が一という事もあるし。 「……爆殿、今のは酷いですよ……」 「……けどな」 爆は言う。 オレにはその位置がとても心地いいんだ―――― 刷り込みってどんな感じだろう 刷り込みで認識したものにただついて行く 実の親が呼んでも振り返らないと言うし すごく閉鎖的なんだろうか 退廃的なんだろうか でも 例えば世界に貴方だけだとしても 私は全然悲観する事もなくて 寧ろ嬉しくて………… |
以上チッキーに嫉妬するカイ。お前に人類としての尊厳はないのか。
んでまぁ、最後のカイの一人称では「チッキーと同じ」と言われた事でチッキーになったらどんな感じだろう、とカイが考えてる所ですな。