Last,Sceneは君と



 バン!と爆はその向こうの教室に音が響くにも関わらず、黒板を叩いた。
「だぁぁぁぁぁぁッ!貴様らの目は節穴か!?どー考えてもおかしいだろうが、このキャスティングは!!」
「爆。男が一度決まった事に文句を言うもんじゃないわよ」
「オレは断じてやり直しを要求する!!」
 人生のピンチだとでも言うように食い下がる爆をピンクは軽くあしらった。
 来る文化祭。爆のクラスはここでいっちょ劇でもしましょうという事になった。
 で、その劇の原作を持ち込んだピンクを実行委員として、さっそく配役を行ったのだが……
 まず、劇の内容をざっと述べなければいけない。
 作風はちょっとSF交えたファンタジー。とある惑星の国王が、パーティーの際に一人の魔女を招待し忘れたのが、全ての事の始まり。
 その事を恨んだ魔女は国王及び王妃に魔法をかける。そうしたなら生まれる子供全てが絶望的な音痴なってしまっていたという。
 が、しかし。
 7番目の姫だけは魔女の呪いも及ばず、親と姉達と国民の為にこの宇宙に何処かあるという”歌う木”という、これさえあればどんな音痴でも素晴らしい歌を紡げる魔法の木を目指し、たまたま訪問していた吟遊詩人と共に旅立って行く、というものである。
 んでもってその末の姫役に見事抜擢されたのが。
 爆。
「そもそも性別が違うだろーがッ!それで何をどうしろと!?」
「だったら男である事を伏せればいいわ!」
「さらっと無茶な事を言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
 最初から女を使え!たくさん居るだろうが!!貴様とか、ルーシとか!!アリババとか!!」
「爆……最後のは……」
 そこまで追い詰められているのかと思うと、ピンクはちょっぴり爆が可哀相になった。が、やり直す気は更々ないらしい。
 ていうか、やっても結果は一緒だしぃv
「いいか、オレは………」
「爆くぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
 薔薇を連想させる声が廊下に轟いた。
 ガララララッ!!
「爆くん!今聞いたけど(どうやって)姫の役をやるんだって!?ああああッなんて素敵なんだ!!ドレスに身を包んだ君と、あわよくばそのまま教会へ!!そして其処で僕達は永遠の愛を誓い……ッ!!」
「誓わんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
 前の入り口に居る雹を百科事典で撃退。雹からは鼻血が迸ったが、それが爆の攻撃によるものか、はたまた己の妄想故かはもう誰にも解らない。
 そして。
「じゃ、俺は眠った爆をキスして目覚めさせる王子の役〜♪」
「そんな役はないッ!!」
 ちゃっかり挙手して発言する激を、黒板消しクリーナーを投げて追い払う。
 こいつらクラスも学年も校舎も違うのに、何時の間に!!
 しかし見事変態二人を撃退した爆でも、
「爆が姫の役……これは是非ビデオに収めなければ……!!」
 外の窓のある壁に身を潜ませ、よく解らん使命感に燃える、父・真(実は校長。理事長は天)の存在には気がつかなかったという。

「結局押し切られてしまった……」
 校舎の裏庭にある、何年か前の卒業生達が作った木の椅子に腰掛け、木の机に頭を乗せた。
 爆は猛反対したが、爆を覗く全てが大賛成だったため、目出度く姫役に任命されてしまったのである。民主主義って怖いねv
「……で」
 何とも複雑な顔をしたカイが傍らに居た。
「……その憂さ晴らしの為に、私も引き込んだんですか……?」
「カイ、こういう諺知ってるか?”死なば諸共”」
「……そうなんですね……」
 カイはこの劇中の吟遊詩人の役になってしまった。
 吟遊詩人の役は、その職種柄少なからずとも歌わなければならないので皆嫌がったのだが、爆の「カイでいいんじゃないか」の一言で「それもそーだね」的に決まってしまったのである。
 無論カイもそれは如何なものかと異議申し立てたのだが、生憎下手にカイの味方をしたら、自分に回ってくるかもしれないのでカイもそのまま決まってしまった。
「だいたい貴様はクラスの副委員長なんだら、クラスの為に一肌脱ごうぐらい率先してやったらどうなんだ」
「……そういう爆殿はクラス委員長じゃないですか……」
 カイは凄く控えめに反論してみた。
「自信ありませんよ、私は。自分とかけ離れ過ぎじゃないですか」
 この吟遊詩人の性格は、まぁ、一言で言えば女誑しである。それも物凄い。
「何でだ。貴様にピッタリじゃないか」
「……私って、女誑しですか?」
 爆にもう思われていたなんて、虚しいやら寂しいやら悲しいやら。
「女誑しは言いすぎだとしても、女に人気があるのは確かだろうが。
 この前も何処かのクラスが調理実習してて、其処の女子生徒が貴様へ……――――――ッ!」
 つい勢いに任せて言ってしまった。慌てて口を押さえてももう遅い。
 その場面はたまたま自分が通りかかり、目撃してしまい、何だか出るに出れなくて曲がり角に身を潜ませてしまって……
 カイの中じゃ、自分はそこ事を知らない事になっている。
「ば、爆殿……見てらしてたんですか!?」
 お互いにアイターな表情になった。
「……きッ……!」
 先に口を開いたのは、爆。
「貴様が多分言ってくれるだろうと思って、オレも敢えて言わなかったのに、何時まで経っても言わんから……」
 憮然とした爆は、普段の毅然とした態度とあいあまってとても幼い。
「……それで腹を立てて、今日あんな事を……?」
「……そのような……そうでないような……」
 視線を泳がす爆はよく解らない事を言う。
「……そうですか」
「なッ……何だ、その幸せそうな顔は!!」
 薄く微笑むカイの表情も瞳も、爆にとってはあまり在り難くない。
 顔が上気するのを、止められないから。
「幸せですよ。爆殿が私にヤキモチやいてくださったんですから」
「ヤキモチなんか焼いとらん!!」
 真っ赤になりながらも頑なに否定する爆を、カイは抱き留めた。照れ隠しが激しい爆には言葉よりもこっちの方が効果がある。
「……実は、結構楽しみなんですよ。貴方を攫えるんですから……」
 周りを吹く風よりも、なお優しく柔らかくカイは言う。
 劇のクライマックスはこうだった。
 末の姫が王達に反対されながらも夜、こっそり抜け出し。その時、一箇所に留まってもいられない吟遊詩人も偶然其処に出くわし、けれど吟遊詩人は姫を帰す所か一緒に旅立ったのでありました。めでたしめでたし(なのか?)
 そのシーンを、今日も来た上級生の某変態と、自分が楽しむ為(だけ)に爆との事をからかう師匠に見せ付けてやりたい。是非そうしたい。
 目にもの見せてくれる……!!
「カ……カイ?」
 何やら燃えているカイに、爆はちょっぴり怯えた。

つー訳でカイ爆だてやんでー!!んー、カイ爆っていう割にはカイの出番が少ないなー。あっはっは(汗)
んでまぁ、今回は「カイにちょっと意地悪してみる爆」こんな感じで。
爆は劇の脚本を見た上でカイを推薦した……って事になってるんですが、あまりにも作風がギャグなので入る隙もありませんでしたねv参った参った☆

それと、この話の劇の原作になっている本ってのは、思いっきり実在したりします。
白泉社から出版されてる”歌う竜(byめるへんめーかー)”という作品ですvこのお方が描かれる作品にもードツボにはまってしまいましたわv
ただし、今から20年ぐらい前の作品なので、古本屋などへ行かなければまず入手は無理でしょう……
ワタシも古本屋を流離う日々でして、あと2冊!あと2冊で揃うのに〜!!