沈む夢
 
 
夢を目指し、より高みへと行く貴方からして見れば、留まる自分は沈んでいるように見えるだろう。
 
 貴方を傍らに夢を見ました。

 沈む夢。
 
 空から大地に、大地から海に。

 海の底まで――――

 寝つきがいいはずの自分が、こんな夜中にふと目が覚めたのは何故なのか。それはすぐに解った。隣にある体温がない。
 まさか黙って出て行く事はないだろうが、それでも慌てて飛び起きた。
「カイ、起きたのか?」
 その物音に窓辺に立っている爆が振り返る。シーツを頭からすっぽり被ったその容姿は、幼い頃見た教会の聖母像を彷彿させた。
 なぜそんなに慌てて飛び起きたのか、解らないというふうにキョトンとしている爆側へ赴く。
 ちょっと、苦笑いをして。
「それは私の台詞ですよ……どこかへ行っってしまったのかと思いました……」
 爆がこの気温で凍えないようにと、後ろから包み込む。爆はくすぐったそうに身を捩るが、カイの腕の中に甘んじている。
「見ろ。雪だ」
 自分しか見ていなさそうなカイに、そう告げた。そうしたら本当に今気づいたという顔をしたので思わず吹き出してしまった。
「爆殿?」
「いや……別に」
 爆の返事に納得いかないカイだったが、意趣返しに爆の頬にキスをしてやった。真っ赤な顔して飛び上がる爆。
 それ以上の事をしたばかりだというのに、どうやらこういう事に免疫は出来難いようだ。
 少し剥れた爆に軽い謝罪をし、優しく髪を梳く。そして視線を窓に移した。
 それからは会話もなく、ただ外の景色だけ見ていた。
 真っ暗な闇の中、イルミネーションのように淡く輝いて振る雪……
 けれど……
「海の底……みたいだ」
 思わず口を突いて出てしまった言葉に、案の定爆がいぶかしげな顔をする。
「あ、いえ……先程そういう夢を見ていたので……」
「海の底……か。オレもまだ行った事ないな」

 
爆が夢を語ると、カイは少しだけ寂しくなる。まだ自分はどうやっても付いていくことが出来ないから、それは別離を意味する。自分の腕の中にいるのに、その双眸は遥か彼方を見ているから。
「で、どうだったんだ?」
「……はい?」
「海の底だ。……どんなだった?」
 キラキラ輝くビー球のような瞳。……例え自分を見てなくても好き。
「とても寂しい場所でした。何も無くて、あったとしても闇に包まれて何も見えない。光も届かない」
 淡々と綴られるカイの旋律を聞くと、ついまどろんでしまいそうになる。記憶にはないが、夜、眠る時に母親に絵本を読んでもらうのはきっとこんな気持ち。
「けれど、不思議と暖かかったんです。なんでですかね」
 特殊な環境下。異形する事を余儀なくされた生物。
 運命に抗い生き続けようとする存在達。
 おそらくはそこから発する灯火だろう。そう、丁度今腕に抱いている。
 明確な目的を持ち、真っ直ぐに生きるものは光を持ち、その暖かさで人々を温もる。
 ……自分には、ない。
「行ってみたいな……」
 その言葉に、一瞬泣きそうになる。それはまた、離れる事を告げるもの。どんな不可能な場所でも行ってしまうから……本当に。
「……行けますよ、貴方なら」
 せめてもの励ましになればと、そんな事を言ってみる。
 すると何故か爆は黙ってしまった。
「爆殿……?」
 何故か怒っているようにも見える爆に、どんな失言をしてしまったのだろうと青くなる。
「貴様なぁ……どうしてオレにだけ行かせるんだ」
「はい?」
 爆の言う意図がよく解らなくて、間の抜けた声を上げた。いや、うすうす感づいているのだが、それはあまりにも自分に都合のよいもので。
 直接言ってもらわなければ、信じられない。……言えば、信じられる。
「だから……自分も行きたいとか……そういう事……」
 爆の語尾がだんだん小さくなり、その代わりなのか身体の熱が上がる。
「いいんですか?」
「いかんとは言っていない……と言うか、そもそも貴様が言わんだろうが」
「いいと言うなら……行きますよ。もう、ダメと言っても付いていきますから」
 カイがとても嬉しそうなのは喜ばしい限りなのだが、いかんせん弱みを見せてしまったようで何かいたたまれない。でも少しでも早く、そうなりたかった。遠慮して後ろを付いてくるばかりのカイに、隣に並んで欲しかった。
「カイ……貴様冷たいぞ」
「そうですか?私は暖かいですよ」
「いーや。冷たい」
 シーツごしにも関らず、冷たさを感じるのだ。実際はかなり冷えているのに違いない。雪の降る温度なのだ。雪はまだ降っている。
「じゃぁ、ベットに戻りますか」
 言葉には出さずにコックリと頷く。

 次に見る夢はきっと飛ぶ夢

 <オマケ>
「雪、積もるかな」
「さぁ、どうでしょう。サーは結構気温が高いですから」
「雪って食べると結構うまいぞ」
「……(爆殿って、基本的は色気より食い気なんですよね……)」

ちょっとアダルティチックな二人vっちゅー事で。こんな感じv最後の会話は爆の子供っぽい一面というか、カイの精神的に秀でてる部分をとかいうか、まぁ対等な感じを出したかったので。私も雪を食ったことあります。小学校の時、先生が茶碗に雪入れておまんじゅうにしてたのをかたっぱしから食ってました(しかも何か食わせるために作ったんじゃなかったらしい)。良き思い出の一つです。しみじみ。
今カイ爆の本作っているんですがね。まだるっこしいの何のって、まだ告白もしてねぇ!(まぁ四コマ中心のギャク本だからという意見もあるが)
それで欲求が溜まって溜まって不満で不満で!こーゆー形で吐き出された訳でござる。ここにいきつくまでのいきさつ書いたら10話くらいはいっちゃうな……下手すりゃそれ以上……頑張れ、カイ。