……まぁ、別に世の中が全て自分の思う通りになってくれるなんて、これっぽっちも思っちゃいないが。 ……いないけど!けど! 「ねー、カイー、蛍何処なのー?居ないじゃない見つからないじゃない」 「……………………」 川沿いを歩きながらぶーぶー文句を垂れるピンクにきょろきょろと辺りを見回す爆。 に、半歩遅れてカイ。その瞳は諸行無常という言葉を彷彿させた。
事の始まりはカイが爆にさりげなく(を装って)話題を振った事から起こる。 「爆殿は蛍を見たことありますか?」 「いや、ないな」 言ってふるふる首を降る。何かと老成しているよーな爆だが、こういった仕草がとんでもなく愛らしい。 思わずぎゅっとして抱き締めてその後もいろいろしたいくらいである。 ……は、置いといて。 「でしたら、今晩にでもサーに来ませんか?確実に出る……とまではいかないですが、よく出るという場所を知ってるんで」 「いいわねー、あたしも生蛍って見たことないし。それに近頃夜は風が涼しくてとってもグッド☆」 なんて台詞はとーぜん爆ではない。 「……ピンク、殿……?」 カイが呆然と呟くのは訳があった。 爆と偶然(のふりをして)会う前に、双眼鏡を持ち出し、また半人前ではあるが武戦家でもある己の精神をフルに稼動させて、ピンクが側にいないかどうかそれはそれは丹念に調べたものなのに。 (……は!テレポート!?に、してはタイミングが良すぎるし……!) などと訝しみながらピンクを見ると、その視線の意味に気づいた彼女はにやりと笑った。 (あぁッ!厄介なのは師匠だけでおつりがくるのにぃッ!!) ち。こうなっては仕方ない。爆と蛍を見るのはまたの機会に…… 「だったらピンクも一緒にどうだ?」 爆にとってはピンクが着いて来る事なんて、まさにどうって事もないだろう。 それどころか友達と初めて蛍を見た喜びを共有できるのは、とてもいい事であるし。 しかし、カイにとっては。 「…………………………… ……あ〜、そういえば私は」 今日都合が悪くて、なんてほざくまえにピンクがその首根っこガ!と掴み、爆には聞こえない音量で、 「んふふふふふ。何?さっきまで行く気満々だったってのにあたしが着いていきそうになった途端のその行動は?もしかしたらあたしが行ったら色々とマズイ事にでもなる訳?蛍の居そうな場所っていったら民家離れた森とか川とか、そんな所よね。そぉぉぉんな場所に爆以外のヤツが居ちゃマズイ理由ってのは一体なにかしらね?あたしの知的好奇心がどぉしようもなく擽られてうずうずするわ」 以上の台詞をワン・ブレスで言いのけたピンクちゃんでしたv 「……言った………」 つい震えて掠れる声を正すため、カイは一度ごくん、と唾を飲み込んだ。 「……理由を言ったら……引き下がってくれ、ます、か……?」 後半でまた震えたが全部言い切った。偉いぞ。 「そうねー、内容によっては…… 爆にそのまま言う」 「……どうぞピンク殿もご一緒してください………」 だばーと涙を流すカイをぺぃっと投げて、爆ーあたしも行く事決定!!と告げるピンクの声がやけに遠い。 それは多分、投げ出されて倒れた頭の下、丁度の位置に岩があったからに違いない。 ていうかカイ、お前爆に何しよーと企んでたんだ。
そして場面は冒頭に戻る。 「昔はよく見かけたんですけどね」 しきりに周囲を見渡す爆に言う。 「カイの昔って……家の前を恐竜が闊歩してた時代かしら」 「ピンク殿……私の事を一体なんだと思って……」 「安心してv何とも思っちゃいないからvv」 「…………………………」 影を背負い、遠い目をするカイだった。 そしてピンクはそんなカイを見やり、 (……ごめんね、カイ。あたしだって好き好んで……って言ったらそうなんだけど。何かにつけてあんたをいぢめるのは偏に精神的に強くなって欲しいからなの。あたしなんかが言うくらいの中傷、鼻で笑って「それでも爆が好きだから!」って豪語できるくらいに!!まぁそんな事されたらあたし、暴れるけどね。 爆は大切な友達なんだもん。なるべく好きな人とくっついてもらいたいけど、あたしからしてみれば爆を幸せに出来る人じゃないと絶対イヤ。 つまり爆の好きな人がそうでなかったら、あたしがそいつをそうすれば問題解決!! て事でめげずに頑張ってね、カイ。あぁでもめげたらあたし責めもしないで温かく見送ってあげるからv そうしていつの日か、あんたの事を認めれる時が来る! たぶんおそらくあるいはもしかしてそのはず!!) と、賞賛なんだかさっぱり解らない誓いを立ててるピンクでした。 「……闇雲に動き回るより、一箇所に居た方が見つかるかもな。 この辺に腰を下ろすか?」 「そうね、少し疲れちゃったし」 爆が何かを言い出すのは、自分勝手のようでその実他人を気遣っての事が多い。今のもそうだ。 いい加減、疲れを覚え始めた自分に気がついたんだろう。 そんな爆を見る度に、彼には誰よりも幸せになって欲しいと思うのだ。 (あたしがくっつくのが一番だと思うけど…… 別にあたし爆とキスとかしたいかっていうとそうでもないのよね。 ま、手のかかる可愛い弟って所か) 「……何を頷いているんだ?」 「ん、ちょっと」 に、と笑って誤魔化す。 まぁ取り合えず川からちょっと離れて3人は座る。 順番は左から爆、ピンク、カイ。 ……しっかり間に居るし……… そうしてとりとめのない会話をしている内に…… 「………あ!」 爆が唐突に声を上げ、指を指す。 その先には小さな光が、夜の闇に優雅に舞っていた。 お待ちかねの、蛍。 「すごい!カイの情報なのに本当だった!!」 「あはははははははははははははははははははははははは〜(涙)」 とうとうカイは笑うという手段に出た。大丈夫、いつかは朝日も昇る。 一匹が出てくると、それに連れられてかそれともあの一匹が単に早かったのか。 次々と黒い草むらからふわふわと蛍がその姿を見せる。 いつの間にか立ち上がっていた爆は、近づいてきた蛍に、何とはなしに掌を翳すと、蛍はその手の上に収まった。 「……熱くはないんだな。不思議だ」 太陽光でも炎の光も、室内灯も全部光を発するものは熱いのに。 自分の手の中の光には、そんなものは感じられなかった。 この不可思議さが、魂が宿っているといわれる由縁なのだろうか、と爆は思った。 一方、カイは。 周りに舞い踊る光を従えて、柔らかく微笑む爆がなんだかとても神聖に見えた(特別処理により隣に居るはずのピンクは視界から除去)。 たぶん、天使というのはこんな感じなんだな、とか。 一瞬浮かんでしまったカイは、その恥ずかしさ故か誤魔化すために、本音をぽろりと零してしまった。 「……や、やっぱり、爆殿に集まりますねー」 「なんで、やっぱりなんだ?」 蛍を再び空へと帰した爆はカイに問う。 「………あ!、と、いえ、それは……ッ!」 あわわ、とうろたえるカイに、爆はますます訳が解らない。 「つまりね、爆」 ぽん、と爆の肩に手を置き、ピンクは言う。 「あぁぁぁッ!ピンク殿〜!!」 カイは慌てた。何とかしてピンク殿を止めさせないと!あぁッ!でもそれには理由を言わなくちゃならない!! このピンチをどう乗り切るか、とカイが必死に模索している間に説明はさくさく進む。 「歌にもあるでしょ、”こっちの水は甘いぞ”って」 「それで?」 「つまり……爆は甘くて美味しいから蛍がよく集まるって言いたいのね、カイはv」 ……神様、寿命の半分を使ってもらっても構いません。 だから今の数分を無かった事に!! 「……カイ………」 やっぱり無理かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! 夜目にも解るくらい、真っ赤な爆が自分に近づく。 ……眉尻を吊り上げて。 「……貴様はぁぁぁ……一体何を考えているんだッ!!」 「あああああ、爆殿、私のすぐ後ろは川ですからうぐふッ!!」 バシャァァァァアアアアッ!! 哀れ、カイは爆に飛びけりをもらい、川に落ちた。 (カイ……これも試練だから。いつかきっと思い出になる日が来るって。 ちなみあたしも同じ事思ってたから、先に言ってくれてありがとねv) ピンクは川に流されて行くカイにそっと礼を言った。 爆はまだ真っ赤で全力をかけて蛍を見物している。 そのまま見えなくなっちゃったのにまだ起き上がらないのは、きっと打ち所が悪かったんだろう。
で。 「あれ?カイは?」 「ん〜、先帰るって。あたし達もそろそろお開きにする? あ、戻る時にワラビ餅でも食べよっかv」 「それはいいな」 という訳で二人も森を去った。 ちなみにカイは流れに流され、後日エイトンの海にぷかぷか浮かんでいるのをルーシーが発見・確保したそうである。 頑張れカイ!君の未来はきっと明るい!
…………よねぇ?
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