今宵は七夕。 仲を引き裂かれた男女が唯一会う事を許された日である。……が、そもそもの原因は二人がいちゃついて仕事すらほっぽいたのが原因なので、あまり同情は出来ない。 最も人々はそんな事もあまり気にせず、単なる楽しいイベントとしているが。 「笹〜の葉〜さ〜らさ〜ら♪……ってこれ竹じゃない!」 「すみません……これしか生えてなかったんです」 カイの持ってきた物を見るなりピンクは小気味いいツッコミを決めた。そのピンクに対しカイはへこへこと謝る。 「別にどうでもいいだろ。見かけは似たり寄ったりだ」 シビアな意見は爆である。 「そういう問題じゃないの!これは情緒に関わる事なのよ!? 全く竹だなんて、パンダじゃないんだから」 「……パンダ、が笹を食べるんじゃなかったか?」 「え?そうだっけ?」 「どうでしょう」 ……… ……………… …………………………… 3人はしばし沈黙した。 「……ま、それこそどうでもいい問題だな」 「飾り付ければ皆同じよ」 「ピンク殿、さっきと言ってる事が……」 「さーて、七夕七夕!!」 カイの言葉はあっさり遮られた。 「飾り担当は爆よね。出来てる?」 「当然だ。オレは覇王だぞ」 覇王である事と飾り作りにはあまり関係がないのでは、とカイは思ったが言うのを止めた。また無視されたら悲しいからだ。 「じゃ、短冊を書こっか」 の、ピンクの言葉に3人は飾りの中からまだ何も書かれていない短冊を取った。 「……ね、あんたは何書くの?」 こっそり、と爆に気づかれないよう、カイに訊ねるピンク。 「私はやはり己の武芸上達ですね」 「本当〜?」 「……それはどういう意味ですか?」 段々と嫌な予感がしてきたカイだ。 「なんならあたしが代わりに書いてあげよっか? ”爆殿とらぶらぶ出来ますように”ってv」 「ピ……ピンク殿!!!!」 茹蛸になり慌てふためくカイを、ピンクは面白〜いvと笑う。 カイが爆に想いを寄せている事はピンクに知られてしまったが、実は激にもバレている。 が、本人(爆)には全く気づかれていない。 ……果たしてこの状況はいいんだか悪いんだか…… ……別にピンクの言う通りにらぶらぶなんてまでは行かないけど。 自分に告白できるだけの勇気をくださいとはすこし星に願いたいカイであった。
短冊を前に、爆は少し唸っていた。 短冊に書くのは願い事。 爆に願い事は全く無いとは言わない。 しかし、そういった類のものは自分の手で叶えるものだ、というのが爆の信条だ。 (一体何を書こうか……) 自分は願いを叶えてもらう気はさらさらない。 ならば…… 爆はしばらく考え、そして筆を取った。
「爆〜!書いた?見せて見せて!」 「うわッ!ちょ……!ピンク!!」 爆の筆が置かれた事を見計らって、ピンクはにゅ、と顔を出した。 「世界の覇王が何を願うのか凄く興味があるわv」 「か……返せ!!」 「あたしのも見せるから。交換!」 「見せんでいい!!」 しかしすでに短冊はピンクの手の中。 「いいじゃない、別に……」 …………… 爆の短冊を見たらしいピンクは返し、そしてその後短冊に”文武両道”と書いているカイに近寄って、 ポカ☆ 「イタッ!?何ですか、ピンク殿」 ごく軽くだったので、痛いというよりは驚いた、だが。 「うっさい!爆の願い事見たら誰だってアンタを殴りたくなるのよ!!」 「へ??」 チンプンカンプンである。 「爆殿、何て書いたんですか?」 まさか、”カイを殴りたい”ではないだろう。 「……秘密だ」 何故か爆は顔を赤くし、自分の短冊を一番奥へと括りつけた。 「そういえばピンク、料理の方はどうなんだ」 今日の七夕パーティー(?)の各担当は、カイ→笹(竹だったけど)、ピンク→料理、爆→飾り、という分担になっている。 「勿論出来てるわよv牛乳で作った杏仁豆腐!」 じゃ〜んと出された杏仁豆腐は涼やかなガラスの器に入って見た目も綺麗だ。ゼリーで出来た星の飾りも楽しい。 「貴様にしては上出来だな」 「爆。一言多い」 「でも、どうして杏仁豆腐なんですか?」 カイが尤もらしい疑問を訊く。 それにピンクは胸を張り、 「だってほら、天の川はミルキー・ウェイって言うでしょ?」 ……………… 「……さて、食べるか」 「あ、スイカ切ります?」 危うく二人は夏に凍えかけた。
そうしてたった3人ながらも賑やかなこの場所で。 それぞれの願いが書かれた短冊の中。 ただ一つ、自分のではなく自分の想う人の願いこそ叶うように、と書かれた短冊が、静か、風に揺れていた。
|