drink over

 
テキトーな場所でテキトーに宿屋を見つけ、そこに泊まることにした爆とピンクとカイのご一行。
 眠るにはまだ早い。で、ピンクは暇なのでカイと爆の部屋にお邪魔している。と言っても爆はちょっと外出中だが。
「あ!カイってばお酒買ってる!不良だ、不良〜〜」
「ちょ……ピンク殿!勝手に人の荷物弄らないで下さいよ!それは師匠に頼まれたものです!」
「へー、あのヒゲいっちょ前に酒なんて飲むの」
 同刻、フネンブツ山にいた激はへっくしとクシャミした。
「おいしいのかしら?」
「さあ……私は飲んだ事ありませんし」
 そりゃそーだ。
「ふーん……飲んでみよっか」
「何を言い出すんです。唐突に」
「何事も経験よ。もしかしたらこの先役に立つ事があるかもしれないし」
「どういった場面で役に立つんですか。それに頼まれ物ですし……」
「ちょっとだけ飲んでまた蓋閉めりゃ解らないわよ。最初にどれくらい入ってたかなんて知りっこないんだし」
「ですが……」
「あーもう、男がぐだぐだ言わない!」
 カイが止める間もなく、ピンクはキュポンと蓋を取った。 

 少し遅くなってしまったなー……カイとピンクはもう寝てるか。
 いよいよ夜も更けてきた。若年寄の二人は寝ていてもおかしくない。しかし、自分の部屋の前に立ってみればやけに騒がしい。テレビの音量が大きいのだろうか、などといぶかしんで扉を開けると。
「あ〜〜〜、爆じゃない〜〜〜vvv」
 いきなりピンクが飛び掛ってほっぺにちゅうされた。
 ……えーっと……
 ピンクに抱きしめられながら、爆は必死に現状把握をしようとしたが、すでに事態は収支がつかないレベルまで達していた。
「カイ!?一体これは……」
 その場にいるカイに一部始終を話してもらおうと思ったが、やめた。何故かって顔は赤いし目つきヤバいし。しかしこれではっきりした事がある。
(こいつら酔ってるな……)
 そういえば昼間、カイが師匠に頼まれまして、とか言いながら酒を買っていた。それがこの騒ぎの序章だったとは、誰が予想できただろうか。エヘエヘと奇妙に笑うカイを見て、爆は未来は誰にも解らないというフレーズを頭の中でスクロールした。
「爆ぅぅぅ〜〜」
 軸のはっきりしない声でピンクは言う。
「あのねーあたし、あんたのこと結構かなり好きよ〜〜」
「……そうか」
 何て返答すればいいのか戸惑った爆は曖昧に応えておいた。どうせ酔っ払いの戯言だし。
「あ――――!ずるいでふよ、ピンクろにょ!」
 明らかに呂律が回ってないカイがのた打ち回る。
「わらしだって爆ろのの事、好きなんれすからね〜〜取らないでくらはい!」
「ダメー。早いモン勝ちよ!」
 その方式でいくと爆は炎のものになってしまうよ、ピンクちゃん。
「そんなのズルイでひゅ。こーゆーのは誰にでも公平にチャンスを与えるべきれす」
 酔ってる割には考えがしっかりしているカイだった。日ごろの行いってのは大事だ(ちょっと意味ちがう?)
「……眠い」
 いよいよ酒が回ってきたらしく、瞼が重くなってきた。
「あたし、寝る」
「おい、ちょっと待て、自分の部屋に……」
 戻れ、と爆が台詞を言い終わる前にすでにピンクは夢の住人と化してしまった。
「これだから酔っ払いは……仕方ない、オレがピンクの部屋に行くとするか」
 はぁ、と溜息ついて爆は部屋を出……ようとした。
「待ってください爆殿!」
「どぅわぁ!?」
 抱きつかれたというより、腰にタックルされ、危うく転倒しそうになった。
「何だ!貴様は!」
「ヤです!私から離れたら、ヤです!」
 いや、ヤです!とか言われても。
「どうしても出るというのなら……」
 いつにない迫力のカイに、爆は感じなくてもいいプレッシャーを覚えた。
「私も出ます!」
 しかし出た言葉はそれはそれは情けないものだった。

 仕様が無いので、爆はカイといっしょにピンクの部屋へと行くことにした。といっても隣だ。
(来たはいいが、ここは一人部屋なんだよな……)
 故にベットは一つしかない。酔っているカイをベットに寝かせて自分は床に寝るとしよう。幸い今の季節なら毛布一枚だけでも風邪をひいたりすることは無い。
 必要以上にベタベタ(しかもとても嬉しそうに)引っ付くカイをベリッと音がしそうに引き剥がして、ベットへと腰掛させた。
 そして寝る準備をしようとした。
 が。
 カイに急に腕を引かれ、ベットへ倒れんだ。
「痛いじゃないか!何を……」
「爆殿……」
 ぎゅうと寝たまま抱かれ、何も言えなくなる。
「おれ、強くなりますからねー、絶対。爆殿も、自分も、……爆殿が住む世界も、全部護れるくらいに」
 何の装飾のない稚拙な言葉。だからこそ、偽りのない……
「強く……なりますから……」
 カイも睡魔の誘いへ逆らえなくなってきた。とろとろとまどろみ始めている。
「そうか……楽しみにしてるぞ」
 明日になれば、相手は綺麗さっぱり忘れているかもしれないが。とりあえず素直に思った事を口にした。
「あ、そうだ。爆殿」
 てっきり眠ったものかと思ったカイが、ガバリと顔を上げた。
「さっき、ピンク殿とキスしてましたね〜〜」
 キスしたというかされたというか。
「私もします」
 といってカイも爆にキスをした。
 しかも。
 口唇に。
「…………!」
「おやすみなさい、爆殿」
 最後にニコリと微笑んで、カイはようやく、本当に寝付いた。
「全く……酔っ払いってのは、性質が悪い……」
 ボソ、と何かに言い訳するように呟き、爆もまた眠りに付いた。
 カイの腕の中にいるまま。

 で、翌朝。
 これ以上ないくらいすぐ横(ていうか抱きしめてるし)に何故か爆が寝息立ててるし、んでもってカイがパニくっているとき間が悪いのか良いのかピンクがやって来て、二人の状況を見て「あんたなにやってんのよ!」とけたたましく解りやすい勘違いをしてくれてカイをどついたりというような事があったのだが、とりあえずまだ寝ている爆には関係のない事だった。


好きっすね。酔っぱネタ。今度は爆を酔わせたいにゃ〜〜v しかし呂律の回らないカイの台詞を考えるのは楽しかった。