事の起こりは……まぁ、直接的にはないだろうが、雹が自分のアルバムを引っ張り出した事だった。 「ふふ、懐かしいなぁ……僕が小さいやv」 パラパラと大事そうにページを捲り、そのままこの一日を思い出の反芻で飾ればいいのに、この男は。 「そー言えば爆くんの小さい頃ってどんなかなぁ。きっと可愛いよね、絶対可愛いよね、うん!可愛い!!」 と、何やら勝手に決めつけ、 「そうとなれば(どうだよ)さっそく身体が小さくなる薬を作らなければ! なぁ〜に、黒づくめの組織に出来たんなら僕の手なら一日でオッケーさv あぁ、小さくなった爆くんに何しようかな〜、アレもコレもしよう、ともうすっかり頭の中は薔薇色一色なのでしたv
「ふっふっふ〜vvもうすぐ完成v」 雹は決して独り言の多い性質ではないが、この跡に来るだろう未来を予想したのでは、高揚感の為に声を抑えるなんて出来ないったら出来ないのだ。 「小さくなった爆くんに、あんな事してこんな事して、さらにそんな事までしちゃおう〜vvv」 「そうは問屋が卸さねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」 周りの空気すら薔薇色に染め始めた雹様の気分を害する者が! それは部屋のドアを蹴り破って来た激と炎と現郎(起きてた)であった!! 「ちょっとちょっと!!こんな大勢で不法侵入か!?」 「へッ!侵入上等だよ!これからオメーが爆にしようとしている事を考えればなぁ!」 「な、なんの事かな?」 少々動揺しつつ、例の薬を後手でズ、と奥へと移動させる。 「オマエ!小さくなる薬を爆に飲ませて、あんな事してこんな事して、さらにそんな事までしちゃおう、って魂胆だろう!!」 ズビー!と雹を指差す激の気分は「真犯人は……オマエだ!」な探偵のノリ。 「ななななな、なんの事かな??」 「必死にしらばっくれてる所を済まねぇとはちっとも思わねーけど、この部屋盗聴器しかけてるからさっきの独り言全部筒抜け」 「テッメー!!人のプライバシーを覗くなんて鬼畜生以下だぞ---------!!」 「……爆の部屋から見つかったのを、そのまま併用したんだがな……」 わざわざ発信元を調べるまでもなくその持ち主がわかったのは言うまでも無い。 「お、コレじゃねーの。その薬」 「だぁぁぁぁぁぁぁッ!!現郎、今まで台詞がないと思ったら!!」 基本の丸底フラスコを振りながら確認を取る。雹の態度でドンピシャリみたいだ。 「返せ!僕のだぞ!!」 「現郎ー!こっちにパス!!」 「待て、オマエ、パスしてもらってどうする………!!」 などとあまり大きくもないフラスコ目指して青年4人が4つ巴。 て、そんな事しよーものなら…… ガッシャァァ-------ン………!! 『あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
家に帰ったら、何だか違和感。 人の気配がするとか、しないとか、そんな類ではないらしい。 おかしいなぁ、と納得しないように首を捻りつつ爆は自室へ向かい、その途中雹の部屋がドア開けっ放しで子供が一杯。 …………子供が一杯ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!??? 今のは夢か幻か!あるいは光化学スモッグの見せた幻覚か!! ギュゥン!!と床を摩擦する勢いで引き戻した爆は、そこで衝撃の光景を目撃する事になる!! もちろんさっきちらっと見た大勢のちみっ子様ズは、きちんと雹の部屋に存在していた。 しかも!!この服装は………!!そして顔は!! 「雹……!に、炎に激に現郎か----------!!!??」 部屋にある物でわきゃわきゃと遊んでる子供達の、面差しは確かに幼いがあの黒スーツは雹だし、この赤髪は炎だし、垂れ目は激そのものだし、すでにお寝むな金髪くんは現郎以外の何者でもない。 「な……何で…………!」 ふと部屋を見渡せば、床に落ちてるフラスコの破片。あぁ、雹がまたろくでもない事を企んだな、と爆は直感した。しざるを得なかった。 雹の薬でまだ未完成だった部分は、空気に触れるとすぐに気化してしまう事だった。その場に居た全員が、身体が小さくなる効用の煙を嗅いでしまい……この状態に至る。 思わず頭を抱える爆の足に、何かがぽふんと縋った。 「ねぇー、だっこして。だっこ」 それはちみ炎だった。うにゅ、と小首を傾げて一所懸命腕を伸ばす。 「だっこ………?」 「だっこー」 むぅ、と機嫌を損ねたみたいなのを察知し、とりあえず要望どおりにしてやった。ちみ炎はきゃ、と喜んで爆に頬擦りする。 そしたら。 「ずりィー!オレも!オレも---------!!」 「う……わッ!オイ!」 ダダダ!と助走で勢いをつけたちみ激は高くジャンプして、それでも腰にしがみ付くまでだったが。 落ちたら危ないので、爆はとっさに腰を曲げて片腕を背中に回し、安定させる。 足場の出来たちみ激はよいしょ、よいしょ、と背中を登り、爆の首にぎゅう、と抱きつく。 「へっへー♪」 「今オレがだっこしてもらってるんだぞ。オマエ、退けよ」 「いーやーだーよー」 ちみ激はちみ炎に向かってあっけんべー。 「退けったら!」 「いやだ!」 「あーもう、顔を挟んで言い合いするな!」 と、今度は服の裾を引っ張られる。 「雹……?」 ちみ雹はどうしてか、涙目だ。 「なんでぼくだけしてくれないの?除け者はヤだぁぁぁぁ〜〜〜〜うあぁぁぁぁ〜〜ん」 泣き出してしまった。なんでこんな事で泣くんだ!?(それが子供というものです) とにかく何とかしなくては!あぁでも相変わらず前には炎で後ろには激が!! 「はッ!そうだ、チャラ!チャラは!?」 「は〜い、お呼びですかー?」 爆の声に応え、とててとやって来たチャラは。 爆の腰までしか背丈がなかった。
「ねぇねぇ、遊ぼv」 「だっこして」 「おんぶー」 「お絵かきしましょうv」 「あっち行こう」 「外出たーい」 「お腹空いたー」 「こっち来て」
などなど……子供の欲求なんてつまらないものだが、絶え間がない。 それが全部爆に集中しているのだから、負担がどれだけか、推して解るというものだ。 まさかこんな若いウチから育児(?)疲れに見舞われる羽目になろうとは。 と、「爆のお膝の上争奪戦」で見事勝者となったちみ炎が、目をごしごしを擦る。 「コラ。目が悪くなるぞ」 やんわりと手を握り、制すと炎がまるで泣きそうな顔をしてこちらを見る。 「……眠い………」 そう言えば、おやつも食べたし、そんな時間だ。見れば他の皆も動きが先ほどに比べ鈍っている。 寝てくれれば楽になるし、と爆は布団を敷こうと……したのだが。 「炎……少し離れないと布団がひけないぞ」 「やぁだぁ〜〜〜」 爆の胸に顔を埋めて、嫌々と首を降る。炎様は甘ったれ屋さんなんですね。 仕方ないので、爆は片手で炎を抱きかかえつつ、途中激や雹にちょっかいを出されながらもなんとか布団を敷く事に成功。普段の3倍は時間がかかったに違いない。 (というか、こいつらが眠たくてオレは布団をしいているのに……その本人達から妨害されるって) それが子供なんだよ、爆。 まるでタコが蛸壺に収まるみたく布団に潜る面々。うにゅうにゅと眠たそうな仕草は元がアレだとしても、やっぱり可愛い。 「……ん?どうした、炎」 何故か一番眠そうな炎がなかなか寝ようとしない。 爆がそんな炎と視線を合わせると、炎は、 「……おやすみなさいのキスは?」 「……………へ」 さも当然、と言う炎に爆の目は点になる。 爆はキスなんてものは、未遂も含めそれこそまさに嫌と言う程されてるが、まさかする側に回れるとは。 どうしていいものか、対応にとてつもなく困った。 「してくれなきゃ、眠れない〜」 は!いかん、泣く!! 「……解った。するから、ちゃんと寝るんだぞ……」 「うん!」 実際にした事はまだないけど、幼い記憶、母親や父親にされたみたいに頬に軽くキスしてやる。 (……何か、変な感じだ……) このおやすみなさいのキスに、他意はないのだろうが……青年となった炎を知ってる爆から思うと、色々複雑なのである。なんだか顔が熱くなるし。 「あ、ボクもしてv」 「オレも、オレも!!」 「ボクもしてほしいですv」 途端、わらわらと群がる。 「え?ちょ……そ、そんな!」 断る気でいる爆の様子に敏感に反応したのか、「どぅしてしてくれないの?」と訝る顔つきになる。当然、このまま放って置けば泣き出すのは火を見るより明らか。 「〜〜〜ッ!あーもう、解ったから、順番に来い!!」 爆はやけくそになり、ほっぺにちゅうの大サービスを行った。
程なくようやく全員寝つき、室内は平穏な静寂に包まれる。 とりあえずはひと段落だ。薬の効用がいつまで続くかは解らないが。 とにかく、もう少しこのままである、という可能性を鑑みてこのすきに夕食の準備をするのが賢明だ。 しかし。 きゅ、と爆の服を掴む、その人は……… 「現……郎………」 今の今まで寝ていた現郎が、ここにて覚醒。 「……本、読んで」 と、現郎の持ってきた本は「ダヤン・わちふぃーるどへ」であった。ちなみにこの本、児童書にしては字が細かい本は分厚い、つまりお話が長い。 ………えっと……… 「……今みんな寝てるから、お前も寝ような。起きたら読んでやるから」 「………………………」 じわっ。 「あ---------ッ!読む!今から読んでやから、泣くなぁぁぁぁぁッ!」 誰か助けて!と、爆は珍しく他人を充てにした。
「……一体何がどーなってんだぁ?」 「それは僕が訊きたいよ」 「どうして、俺たちは一列にならんで寝ていたんだ?」 「さぁな………」 「…………それよりも」 チャラの言葉で、全員爆の方に視線をやる。 爆はぐったりと疲労困憊した表情で、惰眠を貪っていた。 「……なんだか、育児に疲れた母親みたいな様子だな」 「それも複数の子供を相手にしたみたいですねぇ」 こいつら本当は意識あったんじゃないかとか疑いそうな台詞を吐く炎とチャラである。 「お〜い、爆ー、寝るんだったら部屋で寝ねぇと。風邪ひくぜ?」 どちらかというと起こす為よりは意思の確認のつもりで爆へ囁く激。 「ん……んん………?」 薄ぼんやりと目を開ければ、そこには毎度お馴染みの面々。 「………………」 爆はやおら激を引寄せて、 ちゅっv 「!!!!!???」 その次に雹、炎、チャラ、現郎と。 寝ぼけている爆は、まだ皆が子供だと思い、”寝る”という激の言った単語で、”おやすみなさいのキス”を連想してしまい、実行したのだった。 任務は終わった、と言わんばかりに爆は再びぽて、と横になりすやすやと眠った。 「な、何…………?」 「さ、さぁ…………?」 4人は揃って面食らった表情になり、顔を真っ赤にし、そして頬に手を当てたのだった。
爆は夢の中でも思った。 こいつらを育て上げた母親は、つくづく偉大だ、と………
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