ぬっと眼前に突き出されたものを雹はじっと見た。
次いで、突き出した張本人の爆が口を開く。
「雹、ラブレターだ」
なんて言ってくれちゃったものだからでチャラは紅茶を零すし激は植木鉢に蹴躓くし炎は読んでた新聞をバリ!と二等分してしまった。
ふ、と雹は前髪をかき上げ、
「爆くん……やっと僕の気持ちに応えてくれるんだね……でも僕としては手紙よりも爆くん丸ごとぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「えぇい素敵な勘違い甚だしいわ―――――――ッッ!!」
両手を広げて迫ってきた雹をカウンターで退く爆。さすがだね☆
「オレからのワケがあるか!!クラスの女子に渡してくれと頼まれたんだ!!」
「あー。どーせンなこったろうと思ったぜ」
と、激は余裕綽々だが左足が土塗れだ(植木鉢に突っ込んだ)
「全く。貴様が受け取らないから皆オレに頼んでくるんだぞ」
と、ドサドサドサ!と便箋の束が爆のカバンの中から出される。
「あぁん、僕の気持ちは知ってるクセにv爆くんてば言わせたいの?僕は君だけでいいのv」
「とにかくいらんならいらんと公言して来い」
「フフフフ、僕の恋は青春片道切符…………」
これっぽちも通じてない爆に涙が出ちゃう雹様。だって男の子だもん。
「それにしてもこいつなんかに”らぶれたぁ”なんか渡そうとするなんて……”知らぬが仏”ってヤツだな」
「ちょっと、それはどういう意味だい?」
「それとも”幽霊の正体見たり枯れ尾花”か?」
例えが悪くなってるぞ、激。左足は拭かないのか、激。
「ふん、まぁ君になんかには一生縁がないものだからね」
雹は反撃に出た。
「へー、残念でしたー。俺は今月入ってすでに13通も貰ってるもんねー」
「……縁起の悪ぃ数……」
「現郎。今まで寝てたヤツがいきなり起きて俺に対して嫌な事言うんじゃねーよ。
て、そういえばオメーも結構貰ってんだよな。どんくらいだ?」
「……いちいち覚えてねぇよ、ンなもん」
現郎はさも面倒くさそうに頭を掻く。
と、チャラが。
「本日郵便受けに入ってたのに関しては、雹様5通、激様4通、現郎様は8通でしたよ」
(こ、こいつ……………!!)
うすらぼけーとしてる現郎に対して、雹と激は危機感(なんのだ)を覚えた。
ちなみに炎は6通である。
「……オレは貰った事がないな、そういうものは」
別に大した興味もないが、爆はふいにそう言った。
それに反応したのは炎と雹と激。
「爆ぐらいの女の子は年上にあこがれるからな」
「爆くん、ラブレターなら僕がいくらでも書いてあげるよvなんなら僕もつけてぐぇ☆」
「ま、オメーにゃそういうのはまだ早ぇよ」
雹の台詞が途中で潰れたのは激がコブラツイストをかけたからである。
あ、二人が乱闘を始めた。
「そんなものか……」
『そんなものだ(よ)(ぜ)』
三人はにこやかに笑いかけた。
……実は。
これだけ可愛くて凛々しい爆である。ラブレターの一つや二つ、書かれないはずがない。
そう、それこそ同年代はおろか上級生からも。
しかし、爆がそれを見る事は半永久的にない。
何故なら。
その時、現郎が思い出した、とポケットから何かを出し。
「爆ー、そういやオメーに……」
爆になにかを手渡そうとした現郎の両肩を、雹と激ががっちりホールドした。さっきまで殺傷し合っていたくせに絶妙なコンビネーションである。
そして炎が素早く現郎が手に持っていたものをかすめる。勿論爆の死角にあたる位置で。
「さー現郎ー、向こうに行くぞー」
「そうそう、僕が紅茶淹れてあげるし」
そしてそのまま捕獲された宇宙人ポーズのまま引きずられて行く現郎。
「……時々あいつら、仲がいいな」
それを見届けて爆が言う。
「敵の敵は味方……ですか」
なんて傍観しているチャラも、同じ穴のムジナだったりするのだ(誰がここの郵便受けを管理していると思う?)
そして本日。届くことのない人へあてたラブレターは20通の大台にのっていた。
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