Change Turn!
雹がきょろきょろと周囲を窺っている。はっきり言ってこの上ない挙動不審である。
が、そんな事はある意味日常茶飯事なので誰一人気にはしなかった。
バタン。部屋に入り誰もいない事をしつこいくらい確認する。カーテンも閉めた。
「ふー……やっっっっと手に入れた♪」
ガサゴソと袋をあさり、ビンを取り出す。中には飴玉みたいなものが数粒だけ入っており、その少なさがかえって怪しい。
雹はそれを一つパクッと口に入れた。やがて程なく。
ポンッ!♪
コミカルな音と共に明るい色の煙が雹を包んだ。煙が薄れ、現れたのは……爆だった。
正確に言えば、爆の姿になった雹なのである。
「よぉっし!大成功!!」
大きい鏡の前でガッツポーズ!くるくると全身を確かめて、最後にバチン☆とウインクした。
「――はぅッ!」
ぶっ!(鼻血)
いかんいかん……自分でやった事なのに、爆君の姿だから……
だばだばと鼻血を出しながら気取っても滑稽なだけだよ、雹様。
「……それにしても、爆君がこんなに身近にいるのに触れないなんて……勿体無い」
鏡を撫でる。んでもってぺたん、と寄り添った。
「ハァ〜……ば・く・く・んv」
……って鏡にのの字書いてトランスしてる場合じゃないよ!
そう、雹様がこの度爆の姿に身を変じたのは偏に爆のサイズを量る、という高尚な目的に基づくものである!
「いつも周りの連中が邪魔して爆くんに触れさせてくれないから……僕らってロミオとジュリエットだ。純愛の王道だね」
ロミオが一方的にジュリエットを慕っているのでは、それは純愛じゃなく偏愛である。
「……今、僕爆くんの姿なんだよね……」
今更に雹は思う。
……爆くんの姿……ていうか……
爆くんの身体な訳で。
…………
「止めよう。それはいくらなんでも」
雹は自分の考えを頭を振って撤回した。何を考えた。雹。
「さて、サイズを量らなくちゃ……あれ?メジャーは??」
ごそごそと引き出しを調べても無かった。
「仕方ない。チャラに借りるか」
チャラは簡単に見つかった。ティータイムなので溜まり場で世話しなく他の方々に紅茶を淹れている。
「あ、チャラ……」
「おや、爆くん」
チャラが自分を見てそう言う。
……そうだった。今爆くんの姿なんだった……
一刻も早くサイズを量らねばという事に頭がいっぱいだったのだ。
「よぉ……爆……」
テーブルに頭を乗っけた現郎が眠たさ満載で言う。そんなに眠いのなら何故来たのか。
「なんだよ、さっき俺が誘っても来なかったのに」
まぁいいけど、と苦笑して激がご挨拶。足を組んで紅茶をひと啜り。
「爆。このクッキーは美味いぞ。お前が好きそうな味だ」
最上級の優しさを全身満身に篭めた表情で炎が言う。
……ここは適当に誤魔化して、チャラにメジャー借りてさっさと……
……いや。
ふ、と爆(の姿をした雹)は腰に手を当てて嘲った笑みを浮かべた。
「あのさぁ、この際はっきり言っておくけど、ぼ……オレに纏わり付くの、いい加減にやめてくれないか?」
「は?」
爆(の姿をした雹)の言葉に全員の目が点になる。
「ど……どういう意味だ?」
炎が爆がそんな事言うなんて信じられん!という顔で尋ねる。
爆(の姿をした雹)は嘲笑を一層濃くした。
「解らないのか?オレには雹という心に決めた人がいるから、邪魔だと言ってるんだ。貴様らなんかと構っていると、雹と居る時間が減るじゃないか」
ピギシ。
炎と激は固まった。
チャラは表面こそ平静だったが、中で「なんでやねんやんでやねん!どゆーこっちゃい!」と言語障害を起こしてパニックになっていた。
現郎はうららかな日差しに逆らえずうたた寝をしていた。本当に何しに来たんだ、オマエ。
「う……嘘だろ、爆?それはちょっと時期を外したエイプリルフールなんだろ?」
「んな訳ないだろバーカ」
希望を踏みにじられたばかりかバカ呼ばわりされた炎様は、人が気を失う瞬間というものをリアルに感じていた。
「ちょ……な……雹の何処がいいんだよ!」
激は訴える。
「そんなの探せばホイホイ出るさ。まず、格好良くて美しい所だろ?料理が美味い所だろ?」
爆(の姿をした雹)は指折で数える」
「それから……」
爆(の姿をした雹←いい加減この表記しんどい)はぽっと頬を紅くし、
「……エッチが上手な所vv」
ピギギギギ!
固まった炎と激に皹が入る。
「お……大人の発言!」
チャラが驚愕する。
「あー……そりゃニワトリだ……」
現郎が寝言を言った。何の夢を見ているんだ、現郎。
「ま、そんな訳だからラブラブなオレ達の仲を邪魔しようなんて真似は謹んで……」
「……オレ達とは、誰と誰の事だ……?」
「嫌だな、聞いてなかったのか?オレと雹の……」
そこまで言って爆(の姿をした雹)は凍った。
こ……この声はまさか……いや、聞き間違えるはずがない!
「ば……爆くん……」
「雹……貴様はまた何を企んでる……?」
「あ、あのねあのね、最初は爆くんの身体のサイズを量りたかっただけなんだけど、それがちょっとどういう訳か横道にガガガと逸れちゃって、でもやましい気持ちなんてこれっぽっちも無くて、だってサイズ解らなかったら爆くんにセーターも編めない……って爆くん、その浮遊物体は……」
「シンハ――――!」
ズドギョン!
かくて雹様の計画は泡と消えた。
「……ん。このクッキーは美味いな」
「そうだろう?絶対爆が気に入ると思ったんだ」
「さっき俺が誘ったのに来なかったのは何で何だよ」
「最初はピンクと出掛ける予定だったのが、シルバがギックリ腰になったから中止になったんだ。だから拗ねるな」
「爆君は紅茶よりココアですか?」
「あぁ、そっちがいいな」
「爆〜……」
のそっと現郎が起きた。
「このまえテレビで見損ねたっつってた映画のビデオ借りたから、欲しかったら持ってけ。後で返せよ」
といってまた眠る。
「は〜ん。だからコイツここに居たのか」
「謎は全て解けましたね♪」
という事で、とても優雅で呑気なティータイム。
後ろの方で雹(元に戻った)が倒れているだけが殺伐さを出していた。
<終り>
この話は「もし世界が平和ででも針の塔がちゃっかりあってんでもって爆達が仲良くくらしてたら」という朱涅の妄想のお話です。略してもしもシリーズ!!(あまり略ってない)
ていうか爆たちが一つ屋根の下で居るという設定が欲しかったのですよ。学園モノにしても学年が違う(特に爆)連中が住んでたら無理があるべ?
結構気に入ってるので、またこのシリーズは出ますね、確実に♪ていうかもうシリーズって決まってんもん(笑)
でも……GSが平和に暮らしてるって内容なのに……
シルバ……お婆さんなんだ……