青い空、白い雲。 そして海辺で戯れる恋人達…… 「爆くーん、オイル塗ってあげぐはッ!!」 「せんでいい!そんなもん!!」 ……という訳にいきたかったのにいけなかったのは雹様であった。 今日の科学の発展やら技術の更新やらで、室内プールや温水プールのおかげで年がら年中水泳は楽しめるようになったものの、けれど夏はやはり海で海水浴。こればかりは譲れない。 雹と爆はファスタの海岸に居た。 何故海なのか、というと、毎日毎日何処かへ行こう、デートしよう、という雹のおねだり攻撃に、ついにずっと黙秘を決め込んでいた爆は「海だったら行ってもいい」と折れたのだ。 そしてどうして海を選んだかというと、それはやはり夏だから、というのもあるが、本当の理由は水着なら雹もまともなコーディネートをしてくれるだろう、と思ったからの事である。いつも自分に「着てv」と出される服はフリルを豪華に使ったドレスなのだった。 それでも水着を買いに行った時、「これ爆くんにいいんじゃない?」と、ハイビスカスのパレオの水着(勿論女物)を差し出された時にはうっかりデパート内だという事を忘れてバクシンハをかけてしまったが。 (常々感じるが……アイツはオレの性別を何だと思ってるんだ?) 雹様は性別なんか関係なく爆に着てもらいたい服を選んでるんだと思いますよ、爆くん。 ともあれ、一年ぶりの海である。せいぜい満喫するとしよう。 雹を置いて勝手に沖まで来た爆は、空気を肺に吸い込みドブン!と思い切りよく海中へと潜った。 「爆くーん!一人で行動しちゃ危ないよー!!」 慌ててばしゃばちゃと海を突進し、爆の潜っただいたいの所で雹も潜った。
海に入ると不思議な感じがする。 重力に解放される、地上で唯一の空間、というのもあるかもしれないが、太古生命は海から産まれたと言うし、そこから来ているのかもしれない。 人間の身体は水に浮く構造になっているから、水中に留まろうとするには心持ち下へ意識を向けなければならない。 とても綺麗な青い世界。 ふ、と魚の群れが爆のすぐ横を行く。 それはまるで移動する鳥の群集にも見えた。自分の好きな空に、まるでいるような錯覚。 近くにある事が嬉しくて、つい手を伸ばしてしまったが、それに驚いた魚達は散り散りになってしまった。 悪い事をしてしまった、と思う同時にちょっと残念だ、とも思う。 テレビみたいに魚と一緒に泳ぐのも少し夢だから。しかしあの場合は掌にエサを仕込んでいるのだ。 その様子を、追いついた雹は見ていた。 群れから逸れた魚を、刀を扱うような目で追いかけ、鋭い動きで見事に魚を手中におさめる。しかもその時、雹の側の海中には何のうねりも起きなかった。 にっこりと、爆だけの笑顔を向けてその魚を差し出す。 しかし。 その腕は強く握られ、その拍子に戒めの薄れた魚は自由の海を泳いで言ってしまった。 そしてそのまま二人は海面に顔をだす。 何だか怒ってるらしい爆に、雹はどうしてそんな顔をするか解らない、といった表情だった。 「貴様な……折角泳いでいるのに捕まえたら可哀相だろうが」 「でも爆くん、あの魚に触れたかったんでしょう?」 だから自分は捕まえ、そして差し出したのだ。 「違う。オレは泳いでいる所が好きなんだ。無理に拘束しようとは思わない」 確かに近くに居てほしい。側に寄って、触れられたらどんなにいいか、と思う。 けれどそれは自然の状態でだ。相手の意思もあり、そうなってもらいたい。 それを無視した所でなにもいい事なんかない。 「そっか……爆くんはえらいんだね」 それは……表面だけ聞いたのでは、嫌味にもとれる内容で。 しかし爆は解るのだ。そうではないと。 「僕は、気に入ったのは何でも側に置いときたい性格だから……」 そしてその双眸はこんな僕は君とつり合わない、と現れている。 いつもこうなのだ。 やたら強気で構うくせに、肝心な所では今一歩踏み出せずに居る。 何処か触れる事、近寄る事を怯えている。 それで爆が傷ついてしまう、とでも言うみたいに。 はぁ、と爆は垂れ下がる前髪をかき上げ、 「そんなもん性分なんだから仕方ないだろう」 「爆君……ちょっと酷いよ」 る〜と雹様は涙目だ。 そんな雹の胸をとん、っと突き、 「それで、だ。オレがいつ、オマエのそんな所が嫌いだと言った?」 ……………… 「え…………?」 雹はゆっくり、ゆっくり爆の言った事を反芻した。 て事は……て事は!!! 「爆くん僕の事好きむぎゅ」 「……そこまで飛躍させんでいい」 爆が雹の顔を押さえたせいで、台詞の後半はかき消された。 (むぅ〜〜爆くんてば、素直じゃないんだからv) 何を思ったか、今度は逆に雹が爆の腕を取り、海へ潜った。 危うく水を飲みそうになった爆が雹を睨む……が潜った時の泡がまだ消えない。 だんだんと薄れ、ようやくああ、雹が向こうに居るな、ぐらいまで見えるようになった時。
自分の唇に触れたのは…………
爆は顔が真っ赤だ。勿論それは日焼けのせいではない。 「痛いよ爆く〜ん。何も水中で殴らなくたって」 「貴様がそもそも水中で妙な真似したからだろうが!!」 「キスの何処が妙な真似なんガフゴ!!」 いらん事をいった雹の頬に爆のストレート炸裂。 うぅむ、いけない。このままでは爆との甘く切ないひと夏(で、終わらせる気はないけど)のアバンチュールが!! 雹はもう少し日が暮れてから、と思ってた切り札を出した。 「あのね、爆くん。この近くのホテルのレストラン、完全予約制ですごく美味しい海鮮料理を出すんだって」 「出すって言っても予約してないんじゃ……」 「ふふふ、大丈夫!ここに行くって決めた時にもうすでに申し込んだから☆」 ぐ、と頼もしく胸を添って言うと、本当か!と輝く爆の瞳。 所詮お子様だ。色気より食い気。 ……それが幸いする時もあるが災いする時も少なくはない。 「あ、でもそんなに立派な所に入る服なんか持ってきてないぞ」 単に遊びに来ただけの爆は普段の服そのままだった。 「それも大丈夫さ。ちゃんと僕が持ってきたから。君の分もねv」 そうか、気がきくな、と爆はすっかり完全予約制の美味しい海鮮料理で頭が一杯だ。 自分が、どうして海を選んだか、その理由も忘れて……
その日のレストランにて、爆がどんな格好だったかを知るのは。 雹様とテーブルを給仕をしたウエイターだけである。
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