cat * mouse !!



「ふふふ〜、爆くん捕まえたvv」
 まさか落とし穴という最も古典的な罠に引っかかってしまった事に、爆はしばし呆然とした。
 そして上から聞こえる声に、悪夢が始まったと思ったという。

「おや、雹様。とうとう捕まえたんですか」
 帰る道すがら、チャラに出会った。
「そうだよ。叶えられない夢はないってヤツだね♪」
 雹は目に見えてご機嫌だった。
 雹は、細身で撓る肢体の黒猫ある。
 いつだったかかなり前だったか、雹の話す事には必ず一匹のネズミの事が持ち上がった。
 名前は爆。気に入ったその日から、雹は爆を捕まえようとあれこれ作戦を練っていたのをチャラは良く知っていた。
 で。
 ご機嫌な雹に捕らえられた爆はとーぜん不機嫌で。
「離せ――――!!何で風呂なんかに入らんといかんのだ!!」
 爆は雹の腕の中でこれでもかというくらい暴れたが、いかんせん所詮はネコとネズミ。敵うわけもなかった。
「だって、そんなに汚れてちゃ爆くん、家に上げる訳にはいかないよ」
「オレは貴様の家へなんか行きたくない!というか汚れたのは貴様が落とし穴に嵌めたからだろうが!!」
「うん。だから僕が責任とって綺麗にしてあげるねvvv」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 爆の叫び声が虚しく空へ吸い込まれていった。
「ご愁傷様……とでも言うんですか」
 その余韻を聞きながら、チャラがぽつんと言った。

「う〜…………」
 濡れた事で何か余計に汚くなったような気がして、爆はしきりに身体を擦った。ペタンと直に座っているフローリングの床が冷たくて気持ち良い。そしてその様を見て雹が”可愛い〜vvv”と悶える。
「変な匂いがする……」
 腕に鼻を付けて、爆が顔を顰める。
「変な匂いじゃなくて、良い香りだよ。僕とおそろいのシャンプーのか・お・りvvv
 あぁッ!今二人は同じ香りに包まれて………!!」
「えぇい!トリップするなぁぁぁぁぁ!!」
 ゴゲ!と雹の側頭部に爆の蹴りが命中する。
「もう付き合ってられん!オレは帰る!!」
「帰るって……何処に?」
 雹の問いかけに爆はう、と詰まる。
 ネズミなんて所詮その日暮の根無し草。決まった居住区なんて在りはしない。
「無いんでしょ?だったら僕の所に居てよ。外は危険が一杯なんだよ?」
「……貴様みたいなヤツも居るしな」
 雹はその言葉をさらりと無視した。
「此処だったら僕がずっと側に居てあげれるし、爆くんの好きな物もずっと食べさせてあげるよv
 それに爆くんは僕に捕まったんだから、僕の言う事きいて貰わなくちゃv」
 それを引き出されると爆としては反論出来ない。
 出て行こうとはしない爆に気をよくした雹は、その小さな身体を抱きとめた。
「これでやっと直接言えるね。好きだよ、爆くんvv」
 と、いかにも柔らかくて美味しそうな爆の頬にちゅ、とキスした。
 それによる爆の反応は、というと。
「……何だ、今のは」
「……へ?」
 てっきり照れて恥ずかしがるとばかり思っていた雹は、顔を崩してしまう。
「何故口を付けるんだ?何の意味がある」
「……えーっと……」
 初心というのを通り越した爆の質問に、さすがの雹も視線が泳ぐ。
(……まぁ、爆くん今までずっと一人だって言ってたから、好きな人もヘチマもいなかったんだろうなー……
 ……って事は爆くんにとって僕は初めての人!?うわぁぁぁぁぁぁっっっ////)
「……雹?」
 困っていたと思ったらまた気分が高揚してきたらしい雹を、現実に引き戻す。
「あぁ、爆くん御免ね、ちょっとトリップしちゃったv」
 ハートマーク付けて言う事か。
「今のはね……(考え中)……まぁ、挨拶みたいなものだね。握手と同じ」
 本当は”特別に好きな人にする事vv”と言いたい所だが、何せ照れ屋(と、雹は語る)の爆にいきなりそんな事を言ったのでは「オレは貴様の事好きじゃないからもうしない」と言い出しかねない……というか言う。
 そりゃぁ最終的には爆と両想いになりたいけど、爆の性格上それを告げても「そんな事無い!」と突っぱねてしまうに違いない。ここは辛抱強く爆が自分に気づいてくれるしかないのだが……それまでにちょっとくらいいい思いしても文句無いよねv(大有り)。
 そんな事は露知らない爆は、雹の説明にふーんそうなのか、と疑いもせず聞き入れた。
「それでね。これをされたらした人にしなきゃいけないんだよ」
「という事は……雹に?」
「そうだよvv」
「そうか」
 どうやら爆はしてくれる気らしい。
 まさか爆とキス出来る日が来ようなんて!!出会った当時じゃ思いも寄らない事だ(妄想はしていたが)。
(やっぱり神様って居るんだね!ありがとう!神様!!)
 神様がもし存在するのなら、雹は普段の素行で今頃地獄に堕ちていると思うのだが。
「するぞ……」
「うんvv」
 ててて、と雹に近寄り適度に距離を保つ。
 今までこんなに近く雹の側に居たことがなかったせいか、何だか変にドキドキする。
(……雹は頬にしたから……オレもそれでいいのかな……)
 自分にキスするためにあれこれ考えている爆を、雹は殊更愛しそうに見詰めた。
 決まったらしい爆が顔を近づける。自然触れる身体。
(ああああああッ!今此処で押し倒せてしまえたら!!)
 ……そんな事をしたら、爆は二度と姿を見せないだろう。絶対。
 爆が顔を傾け、ようやく待望のキスがされる。
 意味も解ってないし、本当にただ触れるだけだったけど。
 けどキスはキスだ。爆くんのファースト・キスはしたのもされたのも僕〜vvv
 そうしてまたしばらくトランスしていた雹であったが、爆が居る、というのを思い出して比較的早く我に戻った……ら。
 爆が何だか口を押さえていて。
「――どうしたの爆くん!気分でも悪いの!?」
「あ……いや……」
 と、爆にしては珍しく言葉を濁す。
「それよりも腹が減った。何か食うのはあるか?」
 とりあえず食欲はあるらしい様子に、雹は胸を撫で下ろす。
「何でもあるよ。君が何時来てもいいように、いつも揃えてあるんだvカシューナッツとチーズ、どっちがいい?」
「チーズ」
 簡潔にそう答えると、雹は用意の為にキッチンへ引っ込んだ。
 それを見届けると、爆はまた――口唇を手で押さえた。
(何だったんだろう……)
 さっき、雹にここで触れた時、触れられた時、ちょっと違ったけど、でもどっちもくすぐったいような痺れを感じて触れた箇所が離れても熱かった。
 いつもこうなるんだろうか。
 雹もこうなるんだろうか。
 聞けば簡単に答えが手に入るというのに、言いよどんでしまって。
 訊かないほうがいいような気がしたのだ。
 不快なものでもなかったし。
 爆はつらつらとそんな事を考えていたが、雹がトレイに乗せて来た様々なチーズに目も意識も奪われ、その疑問はしばらく保留となったのだった。

 ともあれ、二人の生活は始まったばかりだ。

という訳でネコ雹とネズミ爆〜。いやもーずっと書きたくて書きたくて!!
しかも何故か調教ものに(誤解を招く表現はやめなさいって)!
気まぐれなネコも爆に相応しいとは思いますが、俊敏に動くネズミも捨て難く。ネコ爆は他所でちらほら見かけない事もないけどネズミ爆はな。居ないしな(笑)
チャラは何でしょ。ハスキーとか?