いちごチョコ


「え〜っと……買うものはこれだけかな」
「貴様、この前オリーブオイルが無くなったと言ってなかったか」
 空をみて確認する雹に、爆がすかさず言った。
「あ、そうだった。さすが爆くん♪」
「褒めるな、こんな事で……」
 さらに衆人の目前で抱きつこうとしたのでサラリとかわす。今はデパートの地下一階で今日の夕食を買っているのだ。
「でもさぁ、デートのついでに食料品買うなんて、僕たちまるで夫婦だね〜♪♪」
「…………」
 野菜売り場の前で薔薇を飛ばしまくる雹に、無意識に他人のふりをしたいと思ってしまったのか、爆は一歩二歩後退した。
「で、夕飯はなんだ」
「今日はロールキャベツだよ。爆くん好きでしょv」
 てな事を言いながらレジに着いた。が、時間帯が時間帯らしく混んでいた。
 順番待ちをしている間に、ふとレジ付近に置いてある菓子に視線が向く。今コマーシャルで流れているヤツだ。
(そう言えば、最近菓子を買った覚えがないな……)
 その理由はもちろん雹が毎日オヤツを作ってくれるからである。
 爆はその菓子を取ってカゴに入れた。
 が、あっさり元の場所に返される。
 雹によって。
「…………」 
 爆は無言でまた入れる。
「…………」
 雹は無言でまた戻す。
「…………」
「…………」
 そんなやり取りを4回ほど繰り返したところで爆が言動に出た。
「いいじゃないか、これくらい!」
「ダメ!絶対にダメ!君のその身体にサッカリンナトリウムや食用黄色4号やソルビン酸カリウムやL―グルタミン酸ナトリウムが入るなんて、神様が許しても僕は絶ッッッ対に認めない!!」
 こ……こいつ……
 何でこんなに食料品添加物に詳しいんだ!?
 は、この際置いとくとして!
「たまにならいいだろうが」
「たまにでもダメったらダメ―――!!」
 爆は頑固で雹は意固地であった。
 お互いにらみ合っていたが、ものすごくとーとつに雹の目が潤んだ。
「爆くん……もしかして、僕の作るお菓子嫌い……?好きじゃないの……?」
「え……いや、そうじゃなくて、たまには違った味の物も食べたい……」
「(聞いちゃいねぇ)爆くんの……爆くんのばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!でも大好き―――――!」
 かなり矛盾したことを叫びながら、薔薇を撒き散らして雹は走り去っていった。薔薇と共に去りぬ……(意味不明)
 雹が去っていった後の爆は特に気にした様子もなく、会計を済ませて帰った。
 あえて何も聞かない周りの人の親切が身に染みた日だった。

 別に雹が泣き喚いて行方不明になったって心配することは何もないのだ。 
 何故なら。
 ガチャ。
「おかえり爆くぅぅぅ〜〜んvただいまのキス……」
 ドゲシ!(爆の蹴り)
「はぅッ!」
 ちゃんと必ず帰っているから……

 その後、夕方の騒動なんてまるで無かったかのように、夕食を食べながら雹は爆に愛を囁き、爆はそれを受け流して、いつも通りに時間が過ぎていった。
 で。
「爆くん、デザートだよ」
 と出された菓子に……爆は驚く。
 ココアのクッキー。カリッと齧れば中にはストロベリー・チョコレートが入っている。
 気のせいなんかじゃない。
 さっき、自分が買いたいと言った菓子そのものだ。
「これ……」
「おいしい?こういうのはあまり作ったことが無いから、いまいち自信がないけど……」
 手にしたクッキーを、また一口齧る。出来たてのクッキーからは、中のチョコはトロリとしていて。
「うまい。……市販のものより、うまい」
 その言葉がさっきの謝罪の言葉にもなっている事に、雹は気づいた。
「それは嬉しいなv」
 クッキーを頬張る爆をそのまま引き寄せて、頬に軽くキス。

 はい、仲直り終了〜♪(笑)

「明日……」
「ん?なぁに?」
 二人でいっしょに皿洗いをしていると、爆が口を開いた。
「明日……は、オレが何か作る……デザートぐらい。まぁ、ホットケーキぐらいだろうけど。
 いつも何もかも貴様に任せっきりじゃ、悪いだろう」
「え〜、そんな事ないよ。好きでやってるんだから」
「けど……」
「あのね、爆くん」
 皿を洗う手を休まず言う。
「僕だって所詮は人間だからさ、何だかんだ言っても自分の為の事しかやらないよ。
 その上でね、僕は君のために料理を作りたいんだ」

「君の喜ぶ顔を見るのがね、僕にとって何よりの至福なんだよ」

「…………」
 爆は雹の顔をじっと見てたかと思えば、急に速度を速めて皿を拭き始めた。
 どうやら照れてるらしい。
(可愛いなぁ〜〜vvん〜こういう顔を見れるのも幸せだねv)
「けど……やっぱり作りたい。オレも……雹の喜ぶ顔……見たいからな……」
「――爆くん!」
「どぅわ!?」
 前触れもなく雹が爆に抱きつく。それでも洗剤のついた手をちゃんと洗って拭いてるあたり、さすがというか。
「やめろ!雹!今皿持ってるんだぞ!!」
「もう〜〜〜!爆くんってば喜ばせ上手!!」
 雹はちっとも聞いていない。抱き締める力は強くなる。
「いい加減に……しろ―――!」
 ゲシィン!!
 爆の回し蹴りが雹のこめかみに命中する。

 それはそうとして、明日は何を作ろうか。

 雹って何か爆にインスタントとか食わせなさそーだなーと思って出来た作品です。ていうか自分がある程度年食うまでそのテの類のモノを食わせてくれなかったんですけどね。
 で、タイトルですが……自分でもなんでアレにしたのか。話の全体が見えた時点で、よし!タイトルはいちごチョコ!およそ5秒くらいで決めました。ストロベリー・チョコと表記しないのがポイント♪