Mark Ring
「ん?これ気に入ったんか?」
その場に立ち止まった爆の視線にあるモノを見て激は言う。
それは指輪で。
貝殻で出来たそれはオパールのようで、けれどずっと繊細な色彩をしていた。
激は肩から覗き込んだついでに指輪を手に取り太陽に翳す。
そうしたらもっと指輪は輝いて。
爆は素直に綺麗だと思った。
「おい……?」
激が指輪を持ったまま、店内に向かうので爆はいぶかしんで声をかけた。
「オレは欲しいとは……」
聞いてるのか聞いてないのか、激は後ろを向いたまま手を振り、人ごみに消えてしまった。
――全く、アイツはいつもこうなんだから。
今日にしたって別に会う約束をしていた訳じゃないのに、何故か激がひょっこり自分の前に現れて。
『ヒマだから遊ぼうぜー♪』
……である。
迷惑、とまではまだ行かないかもしれないが、快くは思わない。
しかし……
爆は想像してみた。
消極的で引っ込み思案な激。
「………………」
「たっだいまー♪……って何オメー渋い顔してんだ?」
「いや……」
考えてしまったモノを振り払おうと軽く頭を振った。
「爆、手」
「?」
激は言うやいなや爆の左手を取り、薬指を上げさせ……
「――止めんか!!」
激の意図が解った爆は慌てて手を払いのける。
「ちぃぃっ、あと少しだったのに」
悔しそうにパチンと指を鳴らした。
「オレが気づかないとでも思ったのか!?左手薬指に填めるのは婚約指輪だろうが!」
「あ、やっぱバレた?」
「当然だ!!」
激昂する爆にには、とだらしなく(爆視点)激は笑う。
「ま、とにかく。ホレ、指輪」
「いらん。言われも無い贈り物なんか受け取れん」
差し出された指輪に触れようともしない。
「頑固だなぁ……いいじゃねーか。貰えるモンは貰っとけば」
「そういう不誠実な態度は嫌いだ」
激は仕方無いとでも言いたげに肩を竦ませ、
「じゃ、代金はコレで」
頭上で燦々と輝く太陽のせいで眩しい景色が一時的闇に閉ざされた。
それは、激の顔が近づいたからで。
気づいた時には口唇からちゅっと軽い音が聞こえた。
「――激!こんな人ごみの中で……!」
「解った解った。今度は二人きりでもっとスゴいのをやろうな♪」
「違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
顔を真っ赤にした爆に首を絞められながらも激は楽しそうにあっはっはと笑う。
「指輪、受け取ってくれるな?」
「…………」
そう、自分を真っ直ぐに見詰める激。
爆は指輪を受け取った。
掌にちょこんと乗っかる指輪を見て、爆はどの指に填めようかと思案する。
とりあえず順番に指に填めて行き、薬指が一番塩梅がいい事が解った。けれど、左手にはする訳にはいかないから。
右手の薬指にした。
しっくりと填まる。
「そこにしたのか?」
「……悪いか?」
「別に」
何故か激は嬉しそうだ。おかしなヤツだな、と爆は思った。
「俺も何か指輪買うかねぇ」
激の機嫌がいいのは何故なのか、爆にはどうしても理由が解らなかった。
その数日後。
「爆くぅぅぅぅぅぅぅぅん!見つけた――――!!」
「雹!!」
この前は激で今日は雹……最近ついてないというか。
「あぁんもう久しぶりなんだから!僕の家に来てよ、昨日のケーキがすごく具合よく出来て……」
一方的に話し掛ける雹がふいにピタリと止まった。
まるで信じられないモノでも見たというように。
雹は絞るような声で言う。
「……ば……爆くん……その指輪は……?」
「これか?この前、激に……」
「激!!激の買った指輪が爆くんに!!!」
ピッシャァァァァン!!と背景に雷を落としながら雹は慟哭する。
「ああああ、何て事なんだ!こんな事が起こるなんて!いや、爆くんはきっと何も知らないんだ、あの狡猾な激が爆くんを……!」
「……おい……雹……」
遠くに行ってしまった雹を声を掛ける事で呼び戻す。
「いきなり訳の解らない事を喚くな。一体何がどうだと言うんだ」
「いい?爆くん……」
ちゃっかり爆の肩に手を乗せながら雹は神妙な顔つきで言う。
「……右手の薬指の指輪はね……恋人がいますっていう印なんだよ……」
「………………」
『そこにしたのか?』
『俺も何か指輪買うかねぇ』
(あ……いつ……知ってて……!!)
「ああ!爆くん、何処行くの―――――!!」
突然猛ダッシュした爆にもはや雹の叫びなぞ聞こえちゃいなかった。
やがて程なく、サーから爆発音が轟いた――
したたかげっきゅん物語♪(何ソレ)右手の薬指は確かああいう意味だったと思います。
ワタシは中学上がるまで左手薬指がエンゲージリングとは知らなくて堂々と左手に指輪をしてました。アハ☆
この作品は桃華ちゃんに捧げます!!