COLD OF THE NIGHT
冬は寒い。
夏は暑い。
自分の何十倍も生きてるんだから、いい加減それくらい解ればいいのに。
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!寒寒寒ぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜!!」
「煩いぞ激」
「だって寒いんだもんよぉぉぉ〜〜」
自分で自分を抱き締めながらガタガタと震える。勿論自分も寒いのだが、こう近くにもっと寒そうなヤツがいると気が薄れるというか。
サーで激に食事を奢って貰って。
帰る時、テレポートをしようという激に運動しろと言い、森の中を二人で歩く。
「寒いものは寒いと言った所でどうしようもないだろう。貴様「心頭滅却すれば火もまた涼し」という言葉を知らんのか?」
「火は涼しいかもしれんが寒いのはどうしようもねぇんだよ!!」
……こいつは今までに精神鍛錬の修行はしなかったのか?
「あ〜クソ、これじゃ服脱いだ途端に凍えそうだなぁ〜。
今日エッチ出来るかぁ?」
ゴン!
激の発言に爆は近くにあった樹に頭をぶつけてしまった。
「……貴様……他に言う事はないのか!?」
「あ、そうだ!風呂入りながらやろう!一石二鳥だ!」
「人の話を聞けぃ!」
ぐっと親指立てて溢れんばかりの屈託のない笑顔を向けられて、思わず頭痛のする爆だ。
「何を言う。愛し合う若人二人が一つ屋根の下にいたら、やる事は一つっきゃねーだろ。命短し恋せよ少年!!」
「やかまし……?」
ふわんと降りてきた異彩。見間違いか?目を擦る。
見間違いではなかった。次々と落ちてくる、夜に浮かぶそれは晧い色。
「雪だ……」
別名、風花。空からの手紙。白い恋人。
それが黒い空から落ちてくる……一つ……二つ……もう数え切れない……
「おー、サーに降るのは珍しいなー」
「そうなのか?」
「ざっと4年ぶりかな……」
二人とも真上を見て言葉を交わす。お互いの顔が全く見れないのに、これ以上ないくらい身近に相手を感じた。
さっきまでは遠巻きに聞こえてた街の喧騒が、雪が降り始めた途端消えうせたからだろうか。
「………ぁつッ!」
「どうした!?」
小さくうめいた爆に激が慌てた。
「……何でもない、雪が目に入っただけ……」
目を開けたそばに、至近距離にあった激の顔に――
――不覚ながら魅入ってしまった。
真剣に、自分の身を案じる激。
普段ふざけた顔しか見てないから、不意打ちにこういう真面目な顔を見せられると……
何だか……
何か……
………………
「……大した事じゃないから、そんなに慌てるな」
「そっか」
心底安心した様子で爆の頬を優しくなぞる。
(……だから、これくらいでそんなに安心するな!)
慈愛に満ちた表情まで見せられ、爆の心拍数はかなり速くなった。
――月には魔力はあるという。その魔力で人が狂うと。
一方、雪にも魔力があると言われている。
その魔力は人を美しくするという――
……きっとそのせいだ。……激が綺麗に見えるのも。それに自分が魅了されるのも。
顔が赤いのが解りませんように、と密かに祈る爆に、激が後ろから抱きついた。
「へっへー♪」
「何だ!いきなり!」
「んー。爆に惚れ直してた所v
……雪の中にいるオメー、すっげぇ綺麗」
「…………」
耳元で、そう低く囁かれて。
……もう顔の温度が上昇するのを止める事が出来なくなって。
(もう、絶対激気づいてる……)
頬の赤さも鼓動の早さも。
居心地が悪いような良いような。爆が自分の取る行動をどうすればいいのか拱いていると、激がまた口を開いた。
「でもさ」
切なさを帯びた声に爆が振り向く。
「綺麗過ぎて、少し怖ぇよ……雪みてぇに、消えちまいそうで……」
穢れ過ぎた地上に見切りをつけて
柵の無い自由の空に行ってしまいそうで――
まだ自分には其処へ行ける力量が無いから、
行かれたらかなり困る。
すごく困る。
「…………」
自分の首に、マフラーみたいに巻かれてる腕をきゅっと掴んだ。
「オレは、ちゃんとここに居るだろうが……下らん心配をするな……」
「うん……俺の側にちゃんと居るな……ここに……」
さっきは全てを知った老成した声だったくせに、今度は甘える子供みたいな声をする。
その、どちらもあまり自分には良くない。
乗じて甘えてしまいそうになるから――
おそらく、激はそうして貰いたいのだろうが。
「なぁ……爆……」
(〜〜さっきから耳元で言って……わざとか!?)
実は爆は耳が弱い。それが元々か……はたまた激そうさせられたかはもう解らないが。
「降ってる内に帰って雪見ながらヤろう!」
「貴様結局はそれかぁぁぁぁぁぁぁ――――!!」
爆の怒鳴り声も激の打撲音も。
全ては雪に包まれた。
1/4は愛知県、スッゲー雪が降りまして。その時思いついた話でございます。
しかし、何故この激はヤりたがる……(汗)いや、この話に限った事じゃないけど……(もっとアカン)