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<前回の粗筋>
 春休みに入った爆くんは暇なので現郎のお手伝いとして激に原稿を貰いに行きます。
 実は別の人だったのですが、まぁいいやと爆は貰おうとしました。
 が!
 ”原稿はこの家の何処かに隠した。欲しけりゃ探しな”と理不尽極まりない事を言われます。
 ここでおめおめ引き下がる訳には行きません。
 爆は徹夜覚悟で探そうとしたのですが――

 ついつい寝てしまったのです♪


 ピンチだ爆!タイムリミットまであと16時間!なんてこったかなり寝てしまった!!
 時のオカリナでも逆走させたい気分だが、いかんせん爆はリンクではない。
「くそ……!オレとした事が……!」
 悔やんでも悔やみきれないとはまさにこの事である。
 適当に部屋を見つけては探し、上から何かが落ちてきて片付ける。さっきから……いや、昨日からこれの繰り返しだ。
 しかもこの家、見ため以上に中が広いときたもんだ。
「……きりがない……」
 思わず爆でも弱音の一つでも吐いてしまう。
 ――しかし……
(激は……ずっとここで暮らしているのかな……)
 この一人では広すぎる家で。
 ……一人っきり……
(――って、何を考えているんだ)
 そんな事はどうでもいい事じゃないか。そう、どうでも。

 自分は原稿を見つけたら、もう激に会う事もないのだから。

 書斎(といっても実は屋根裏)に籠もった激。が、時折聞こえる何かが崩れた音とそれに混じって爆の喚き声も聞こえるので、あまり静かとは言えない。
(そーいや何年も掃除してねーなぁ)
 万年筆をぐるぐる指で弄びながら、そんな事を思う。
 埃まみれになってるかもしれない爆に、風呂でも焚いてやろうかな。
 そのついでに朝食も。どうせ食べようともしないだろうから。
 ……いろいろと、爆にする事を考えていると、自然に口元が綻びる。
 何をしようか、とか。
 したらどんな反応をするか、とか。
(弄りがいがあるってヤツだな♪)
 おそらく爆の父親か叔父に聞かれたら張り倒されるだろう。
 さて。
 爆の最高滞在時間はあと16時間……もしかしたら、爆はそれより早く見つけてしまうかもしれない。
(書き上がるか……?コレ……)
 そうしてまた、原稿の上にペンを走らす。

「――――ッなんで無いんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 爆が最後のダンボールを棚に乗せると、何かがぷちっと切れたように叫んだ。
 ないないない。何処にもない!
 フロッピーにまとめればどんな場所でも隠せれる。が、爆はそれこそ隅から隅まで探したのだ。
(あと4時間だというのに!)
 ちょっと血が上っているからいけないのかもしれない。熱いシャワーでも浴びようか。散々探し回って埃塗れでもある事だし。
 昨日も使ったので、勝手知ったるという具合に爆は風呂場に入っていく。代えの服は、昨日乾かした自分のがある。
(タオルは……此処だよな)
 風呂場のカゴを朝ってバスタオルを取り出す。
 キュ、と栓を捻ってシャワーから湯が出る。身体を滑る湯と一緒に、疲れも出て行く感じだ。
 ……何だか、すっかり自分の家の感覚だなと爆は思う。
 原稿を探してあちこち探索したおかげで、おそらく家主の激よりこの家に詳しいと思う。
 例えば、2階の一番東の部屋の雨戸の間に、ツバメが巣を作っていたり。
 例えば、1階の物置の一番下に、絵画セットがあったり。
 例えば……
 気分もすっきりした爆はシャワーを止め、脱衣所へ出た。
 と、丁度その時。
 ガラガラガラガラガラ。
「……………」
「……………」
 二人はまともに見詰めあい。
 その後は皆のご想像の通りである(笑)

「だ〜か〜ら〜、俺はオメーの為に風呂を沸かそうと思ったの!本当だって!!」
「そうだとしてもいきなり風呂場の戸を開けるか!?」
「だって……!」
 容赦なく殴られた激の顔には痛々しい青痣があったりする。
「……それはそうと、オメーもう見つけたか?」
「…………」
 自分の言う事にはぎゃんぎゃんと噛み付いていたのに、急に押し黙る。
 この反応から察するには。
「あ、まだなのか♪」
「喧しい!!」
 嬉しそうに言う激に、もう一発殴ってやろうか、と本気で思う。
「まーあと3時間半あるんだし。ゆっくりやれよ」
「アホ。ゆっくりなんか出来るか」
 そうして激の元を離れていってしまった。
「ゆっきり出来ねぇのは……お互い様か」
 自分もまた、書斎へと向かう。

 ――あと、2時間!!
 なのに未だ見つからず!
 あれから徹底的に、今まで見た所も探したのだが、目的のものは爆の前へ出てはくれなかった。
 そんなこんなであと2時間……映画1本分しか、もはや時間は残されていない。
 あと、探してない場所といったら……
 
 激の書斎、屋根裏だけだった。

 屋根裏へと続く階段は、あまり気持ちのいい音を立ててはくれなかった。
 今にも腐りきって壊れてもおかしくない。それでも爆をちゃんと屋根裏へと届けさせてくれた。
(……邪魔するぞー……)
 他人の使う部屋、という事で引け目を感じるのか心の中で一応挨拶。
 屋根裏は、こういうとおかしいのかもしれないが、爆が見た部屋の中で一番生活感が溢れていた。
 ドアのある一面を全部覆った本棚に、其処にすら収まらなかった本の山。
 壁が材木であるのをいい事に、ボード代わりにメモ用紙をピンでたくさん止めてある。
 天上から釣り下がる、飛行機の模型が子供っぽくて何か笑えた。
 他にも目を引く雑貨がたくさんあり……それに埋まるように激がソファで寝っころがっていた。何かの本をアイマスクにして。
 このまま寝てたら風邪をひくのではないか。そう思った爆は何かかけるものを、と部屋を見渡した。
 丁度椅子に毛布がかけてある。あれでいいだろう。
(それはそうと、この部屋の中を探すのは骨だな……)
 一番生活感のある部屋だが、一番散らかってもいた。
 毛布を激に被せ……そしてふと気づく。毛布の影で隠れて見えなかったが、山積みの――
 原稿が。
(あれか?)
 400枚程度の原稿用紙。パソコンがあるというのに、何故か手書きだ。
 それはそうと。
(激の書いてるの……って……俗に言うポルノ小説、とかいうのだよな……)
 中身を改めるのをちょっと躊躇う爆だ。
 ……激は言っていた。こういうのを書くのは生活の糧のため。
 では。
 それを抜いたら、本当は何が書きたいのか。爆は何でもないような事のように訊いたが……
 ……本当は、すごく……
(あれ……?)
 次々と原稿を読み進むうちに、これは探している原稿とは違うのに気づいた。
 が。
 爆は椅子に座り、自分の状況も忘れ、その物語に没頭した。

 それから、やがて程なく激は目覚めた。
「んー……ん……んん?」
 何か暖かいものが自分にかけられている事に、激はいぶかしんだ。
(おっかしーなー。ちょっと寝るだけだからって……)
 だからこそ、ベットではなくてソファに横に。
(あ。そーだ。早く書かねーと……)
 がばっと起き上がり、机に目を向ける。
 その途端、半分は垂れ下がっていた瞼が一気に全開する。
「どぅうぇえええええぇぇぇぇ!?」
「開口一番に騒ぐな。煩いぞ」
「つーかオメー何読んでる!!」
「貴様の書いた話に決まってるだろう」
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!読むな読むなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 今まで飄々と自分をおちょくっていたのが嘘のような慌てっぷりだ。
 原稿を取り返されそうになったが、腹に抱え込んでガード。
「貴様は、こんな話も書くんだな」
「!!!」
 言われて激が茹蛸になる。
 そう言えば、最初ここに着た時同じような……あぁ、あの時は自分がそうだったんだ。
「……いいから、もう返せって〜……お願いします……」
 真っ赤になってしまった顔を隠すように片手で多い、もはや懇願する激だ。
「何でそんなに嫌がるんだ」
 原稿用紙の束を、わざとひらひらさせる。
「……お前、さてはからかってんな?」
「当たり前だ。オレは貴様のせいで、ただでさえ短い春休みの貴重な時間を費やしているんだからな」
「……それはどうもすみませんで……それはそうと返して……」
「いいじゃないか。昨日は貴様が書いた別の本は見せてくれたじゃないか」
「あれはいいけど、それは嫌だ」
「?」
 激は少し言い渋ったが。
「それは……書きかけだし……」
 とだけ言った。
 激が書いたのは、古典ファンタジーとでもいう類のもので。
 吟遊詩人に錬金術師、ドラゴンにフェアリーに……マジシャンのシルクハットのように次から次へと突拍子もない生き物が出て突拍子もない事をしてくれる。
 はっきり言って。
「貴様のイメージに合わんな」
「どーせ俺には似合わない話ですよー」
 仕舞いにゃ激は拗ねた。
「で」
「?」
「これはいつ本になるんだ?」
「……へ?」
 爆は自分は当然の事を言った。だから、素っ頓狂な声を出した激が解らなかった。
「発表したいんじゃないのか?」
「しねぇよ」
 激の顔が少し強張る。
「何で」
 激は少し黙って、言った。
「……それは……俺が、ずっと書きたかった話で……それを否定されたら、俺たぶんもう筆握れねぇよ」

 出さなければ、発表しなければ。
 ……誰の目にも触れさせなければ。
 何も言われない。

 自分の大切なもの――

「それによ、俺ポルノ小説書きで名前通ってっから、そんなヤツが他の書いた所で相手に――」
 パン!と響いた音が。
 自分の頬から発生したのだと自覚するのに時間かかった。
 叩いたのは当然爆だ。
「……どうしてそう卑屈になる?」
「…………」
 だって、事実だから。
 激は目を伏せた。
「……貴様の小説は、人物の心理描写がとても秀逸だ。状況説明も独自のスタイルを持っていて、読んでいて引き込まれる感がある。貴様の書いた小説は、だから売れたんだぞ。きっと。
 一晩中かけて読んだオレが言うんだから確かだ。信じろ」
「…………」
 少し熱のある頬を摩る。
「少なくとも、オレはこの話を面白いと思う。誰が貶しても、オレだけは支持してやる。
 卑屈になるのはそれからでも遅くないだろうが」
 ふん、と居丈高に言う。
「……なぁ……
 何で、俺の事でそんなに一生懸命になるんの?」
 こうして、背中を押してくれたり。
 そんなに嬉しい事ばかり言われちゃうと。
 自惚れるよ?
「え?い、いやそれは……」
 爆は急に慌て出す。
(そ……そういえば、なんでこんなにムキに……?)
 ただ、こんなにいい話が書けるのにそれをよりによって本人が気づいていない。
 酷く、もどかしくて。
 ……悲しくて。
 何かいい理由がないかとぐるぐると頭を巡らす爆。
「……今度、現郎に掛け合ってみっかなぁ」
 陽気な激の声が響く。
「爆が気に入ったんだ。他のどんなヤツから貶されたって、知ったこっちゃねーよ」
 爆はそれを聞いて、すごく、すごく嬉しくなって。
 思わず激に笑いかけた。
 それをまともに直視した激は、頭の芯がくらっとした。
(……うわ、めっちゃ可愛い……)
 怒った顔もいいけど……やっぱり笑った方が……
 やっぱり……
 好きだな。コイツ……
「っああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 と、爆が絶叫した。
「な、何?何だ!?」
 まさか自分の気持ちがばれたとか!?と在り得もしない杞憂をする。
「原稿!まだ見つけてない!あぁ!あと30分!!」
 カチコチと告げるその無常な時刻に慟哭する。
「あー、別にもういいよ。教えちゃる」
「嫌だ!そんな事ではオレのプライドが許さん!」
 うーん、ダイヤより硬い意思。
「そんじゃ、ヒントその2」
 爆の目の前で人差し指を中指を立てる。
「フロッピーは、この家の何処かにある」
「そんな事は最初から……」
 は、と爆は気づく。
 急いで階段を駆け下り、最初通されたリビングへ。其処には自分の上着がある。
 左右のポケットを弄り……そして……
「あった……!」
「なー?俺最初から言ってたじゃん♪」
 一緒に来たのか、ドアに激が立っていた。

「俺は「この家の何処かにある」って言った訳で、「この家の物の中にある」とは言ってないもんなv」

 電話を終えた爆が戻って来た。
「……現郎が迎えに来てくれるそうだ」
「そりゃよかったな♪」
「ん……」
 激の向かいのソファに座る。昨日、ここで寝たのだ。
 ……随分、昔の事みたい……
「なぁ、激。あの話はいつ完成するんだ?」
 もうすぐ、この時間が終わるという事を意識しないよう、爆から話し掛ける。
「あー……実はなぁ……」
 何故か激は明後日を向いて照れくさそうに鼻をぽりぽりとかいた。
「……あの話、前々から考えてはいたんだけど、どうにもまとまんなくってな。もう書くの諦めようかと思ったんだけど……」
 爆の方を見て。
「……オメーを見たら、一気に構想が膨らんで……書いた……から……」
「…………」
「……爆が、いないと……書けねー……と、思う……んだけど」
 おそるおそる、自分の機嫌を伺うような激に、爆は。

 仕方ないな。だったら会いに来てやる。と、やっぱり尊大に言うのだ。


 ちなみに激の書いたこの作品が、その後世界各地に翻訳されるまでになるのは、それはまた別に話♪

長!何て長いんだ!!この話は!前をあんだけ長くしちゃったんだから、後は短くなるかも……というワタシの不安は何処へ。
この話で一番書きたかったのは、無意識に惹かれ合う二人vな感じで。実は二人とも互い一目ぼれしてたんです♪
あと部分的に悪気が無いのに結果として風呂を覗いてしまった激。まるでドラエもんののび太みたいだ……という心の声はひっそりと閉まってください。
何はともあれ、終わって良かった良かった(前のと随分開きがあるものの……)


<今回予想外だった事>
 電話にて真暴走。……ウチの真って……(そして天って……)