空の色、君の色



  ”自分勝手のくせに他人ばかり気遣う貴方へ”


 イレブスは、針の塔から直接科学技術を授かった国だという。
 激はこの世界の中心部----言い換えれば、最も重要な機械で埋め尽くされた室内へと居た。自分の技量を持ってすれば、此処へ気づかれずに侵入するのはさほど難しくは無い。
 別にクーデターでも企む訳でもないし、少しくらいの不法侵入は許してほしい。
 ただ。

 ちょっと、自分のしたい事をするだけだから。


 俺はお前が苦しむくらいなら、世界の方こそ滅んでしまえと思います



 空を見るのは好きだ。
 この事実は今も昔も変わらない。
 変わってしまったのはその時の心情で。
 純粋に、高い所が好きだった。世界の全てが見えそうな、そんな場所が好きだった。
 だけど、今は一人の誰かを探して。
 ……そんな事が出来るはずもないのに。
 間違ってるとは言わない。
 けれど、決して正しい事だとも思わないし、思えない。
 ちゃんと前を見なくては。解ってはいるのに。
 なのに、ふとした瞬間、例えばこうして、森の中になんか歩いている時に思い出すのは彼の事。
 あぁ、丁度こんなような所で出会ったんだな、と懐かしむ。
 ……振り返るのは嫌いだ、と言っているくせに。
 自覚すればするほど深みに嵌る悪循環。
 どうすれば、断ち切れるんだろうか……
 などと、考え事をしながら歩いていたら-----
 -----ガッ!!
「-----っわぁ!?」
 地面から這い出した、太い根にまともに足をぶつける。
 身体が重心を失い、あわや地面と激突----
 ----するかに思えた。
「っと、危ない」
 -------!?
 聞き間違えるはずもない。 
 けれど、今ここに居る訳がない、必然がないという現実が、認識するのを邪魔した。
 前のめりになった身体は、引っ張られて今は何かに凭れている。
 それと腕を掴む体温。
 夢では、無い。
「………ぇ…」
 あの日から一度も呼ばなくなった名前。
「炎…………」
 返って来たのは久しぶりだな、という声。
 振り返って見たのは、柔らかい微笑。
 暫く、時間を忘れた。


 さて、クイズです。
 向こうの部屋にはお姫様。其処へ行く道は3つ。
 1つは、人食い虎の居る通路。
 1つは、放射能で充満している通路。
 1つは、地雷が所狭しと埋められた通路。
 この中でお姫様を確実に助けれる道はどれでしょう?
 シンキング・ターイム。
 チッチッチッチッチッチッチッチッチッチチッチッチッチッチッチッチッチッチッチ。
 時間切れ。
 正解は2つ目でした。
 他2つは即死するけど、放射能は浴びても直ぐには死なないからです。
 あ?いつかは死ぬ?
 だって目的はお姫様を助ける事で、その後お姫様と幸せに、なんてのは入ってねーもん。
 あっはっは。
 ……笑えねぇよ。


 -------…………
 頭がぼんやりして……意識が浮かんでは沈む。
 それでもどうにか覚醒してみれば、見慣れない天井。
 ----あぁ、そうか……
 若干のタイム・ラグを置いて、激は現状を把握した。
 そうして起き上がろうとして-----
 頭に激痛が襲った。
「いっ------つぅぅぅぅぅ〜〜〜!??」
 原因不明、と言っていい程の頭痛に、頭を抱えて膝に沈む。この痛みは初めて飲酒した時以来----いや、以上だ。
「いぃぃぃぃってぇ〜!!マジ痛ぇ……何だよ、コレ……」
「痛いで済んで良かったじゃねーか」
 と、そんな激の痛みも露知らず、と言った声は現郎だ。
「ちっとも良くねぇし、何も済んじゃいねぇって気もする」
 頭の中でグワァァァァングワァァァァァンと特大のドラが鳴り響いているようで。
「ったく機械も何も使わずに、単身で惑星間のレテポートなんて……精神全部ぶっ壊れてもおかしく……いや、普通はそうなってた」
「ははは……」
 と、笑ってしまったのは、その奇跡に感謝してか、今更のように自分の無謀さを思い知ってか。
 イレブスに着いた激は、まずその国で最高の通信機のある所へ来た。
 針の塔と、同じ構図になっているのなら、その周波数も受け取り易いはずだ。と、言ってもその確立はとんでもなく低かった。しかしそれ以外に針の塔の場所を知る術はないのだから、殆ど、もう信じるなんて放棄したはずの神にさえ縋って。
 その甲斐あってか、見事成功を修めた。
「しかも着たら着たらで、何も説明とか無しで、闇雲に炎様にひたすら爆に会いに行け、会いに行け」
「うるせー。そんだったら素直に座標軸教えたオメーも共犯だっつーの」
 呆れて物が言えん、というような表情のくせに何時に無く弁舌な親友に、せめてもの意趣返しをしてみた。
 まぁ、確かに全部現郎の言う通りなのだが。
 瞬間移動なんてものは、単純に移動する時の人数が多い程、距離が長い程より力を要する。
 それを今まで場所すら知らない、ましてや別の惑星へ飛ぶなど、かかる負担は想像も出来ない。
 案の定、着いた途端に眠気をうんと酷くしたような怠惰感に見舞われた。下がる瞼により、暗くなる視界でようやく炎を見つけ、その胸倉掴んで今すぐ爆に会いに行け、と告げた。
 炎は困惑した。彼にも彼なりに、けじめがあるのだろう。
 しかし。

  ”----オメーらが何を決めたかは知らねぇけどよ、それせいで爆が塞ぎこんでるんだよ!!
   だからさっさと行って来い!んで全部言いたい事言って着やがれ!!
   約束だけあってもなぁ、どうしようもねぇんだよ!!”

 言いたい事を言い終えた、と思った瞬間本格的に意識が暗転した。
 そして、気づいたのがさっき。
「そういや、炎は……」
「行った。あれだけ言われて行かねー訳にはなんねぇだろ」
「ふーん………」
 自分が強要したというのに、特に気にも留めないような返事。
 少し間が空き、現郎が、
「あ」
「ん?何だ………」
 ゴッ!!と現郎の拳が激の頭上にヒットする。
「炎様に言われててな、お前が目ぇ覚ましたら一発くれてやれ、と」
「………せ………せめて五体満足な時になるまで待っても………」
 そりゃ確かに今思うまでもなく、かなり失礼な事言ったなーと自覚はしているが。
 何も頭痛を訴えている人の頭を殴らなくとも。
「あとそれからな」
「ま、まだあるのか……?」
 ズキズキする頭に悩まされながら、いつでも避けれるように現郎の動きに集中する。
「ありがとう、だそうだ」
「……礼言うくらいなら、自分で会いに行けってぇんだよ」
 と、つい呟いた表情は自分でも解らない。
 ----今頃、あいつら会ってるだろーなぁ……
 それからどうなるだろうか。
 いや、そんな事は決まってる。
 ----元々引き合う者同士なのだ。
 面と向かい合えば絶対上手く行くのに、しなかったから抉れた。それだけの話。
 納まるものが納まるだけの話。
「……炎様に、爆にお前の事は言わないようにと言っておいた」
 あー、そう言えばそれ言うの忘れたっけなーと激は他人事みたいに思う。



「炎………」
 ふいに途切れた会話に、先に口を開いたのは爆だった。
「あのな」
 一句一句を噛み締めるように、爆は言う。だから、炎も急かす事なく待った。



「これで、良かったんだよな?」
 「これ」を指すのを激はちゃんと理解した。
「んー?何が?」
 でも解らないふりをした。


「オレは……」


 良いも悪いも何も。俺は、爆が幸せなら、


「オレは、炎の事が好き-----」

 何も思うものはない、さ。





「……現郎、頭痛ぇから、俺寝るわ」




切ねぇ……激が途方もなく切ねぇ……いや、初段階ではここまででは……(汗)
実際炎と爆が会ってるだろう時間帯の激の心境ってかなり色々複雑だと思います。。
なんつーか、これ本当にウチの激か。いつもは「ヤラせろー!」で終わってるのに(むしろそっちが問題)。
で、この次がいよいよ100作目です。
ていうかあと9日もあるってばよ(あ、←てっちん&ナルト口調だ!)