”孤独に強いくせに一人は嫌いな貴方へ”
流れる清流に手を入れてみたら、まさに刺さるように、痛い程に冷たかった。 予想をはるかに超えたその温度に、思わず顰めるが、それでもその水を顔に浴びせた。 「------っ」 覚悟していたのだが、冷たさに呼吸も出来ない。そもそも、水浴びをする季節はとうに越えた。 目を開けられていられるくらいには慣れ、そしてはぁ、と息をつく。 冷たかったけれど、それだけ。 本当に冷やして欲しい所は、まだ燻るように熱いままだった。
空を見るのが好きになった。 何でか知らないけど、好きになった。 アレ、と思った瞬間、すでに好きだった。 何でだろう、と思いながらもずっと好きのままでいて。
再会して、
あぁ、こいつの目とおんなじ色だからなんだ と解った。
けれど次の瞬間。
初めて会った時、2つの空の色を持ってて、 ズルいな、 と思ったんだ。
空はいつもの色をしている。
「………………」 草原に座って。 空をずっと見ていたくて、ずっと上を向いていたら首が痛くなった。 それでも見ていたくて、もっと見ていたくて後ろへ反ろうとする意思のまま、ごろんと横になった。 汚れるな、とか染みが出来るな、なんて躊躇う事も無い。 濃い草の香りが鼻を擽る。風の立てる音が耳に響く。 そして、飛び込んでくるような、いっぱいの空。 この世界に居るのが、自分だけのような錯覚。 「-----よ。」 「……激」 前触れもなく空を隠した人物の名を呟き、仕方ないから身を起こす。 空を見るのは一人の時だけ。 いつのまにかそうなった。 「何の用だ?」 「いつもとおんなじ」 会いたくなったから。それだけ。 時々激はひょっこり顔を見せる。 それで何をするかと言えば、何もしなくて、ただ横にずっと座っているだけだった。 そして空に朱色がかかる頃、じゃぁな、と言って帰って行く。 激のこの行動、気になる所ばかりだが、爆が特に気にしてしまうのは、いつも自分が空を見ている時を図って現れてるみたいで。 考えすぎ、という事にしておいた。 来るな、と言うと何か後ろめたい事があると思われるのが嫌だから、激の好きにさせている。 好きにさせて、とは言ったものの、上に述べたように激はただ座っているだけだが。 しかし、今日は違った。 激は普段の彼とはかけ離れた、静かな声で、 「爆は、さ----」
炎の事が好きなんだよな
再び元の通りの声の無い空間が戻る。 爆は考える。 さっきの激のセリフは何だったんだ?あいつは、何て言ったんだ? ……何も言わなかったんじゃ、ないのか? でも、それだとしたら、
どうしてこんなに鼓動は早いんだろうか
「……今何か言ったか」 「思いっきり言った。爆は炎の事が好きだって」 爆は何故だか袋小路に追い込まれた感じがした。 「そんな事はない」 「そうなんだよ」 お前は、炎が好きなんだよ。 くどいくらいに言われて、爆の感情が荒れる。 「……本人が違うと言ってるんだ」 「人間は嘘を付くからなぁ」 ----呆気なく臨界点を迎えた。 爆は肩膝を立てて、座る激の胸倉を掴む。激は苦しそうな素振りはしなかった。 「違うと言ってるだろうが!」 「……まぁ、仕方ないよな。何でも一番最初は印象に残るし。 自分の大切な物を、初めて認めてくれた人だ。そうなるのも無理ねぇよ」 「違う!そんなんじゃない!!」 激を掴んでないほうの爆の手が、拳を作る。果たして爆は気がついているだろうか? 「……いい加減にしないと……っ!」 「……さっきのセリフの相手が、俺とか雹とか、現郎だったら……」 話の向きが変わる。 「……お前は「何を馬鹿な事を」くらいで済ますんだろうな。 今の反応が、全てだよ」 「…………」 激の言葉を全部聞き終わった後、爆は激を離した。少し伸びてしまった衣服が肌の上に滑る。 「……どういう……つもりだ」 こんな時でも、爆の双眸は真っ直ぐに自分を見つめる。 揺れるだけで。 「何かを隠しながら何かやっても、いい結果なんてやって来ねぇんだ。俺はその事を誰よりよく知ってる」 なぁ、現郎。と、今は自分の意思で主に仕えている親友へ問いかけた。 「……炎を好きだと認めさせて…… それで、オレに何をさせたいんだ?」 爆に睨まれてる激は、溜まった雫、零れそうだなぁ、とぼんやりとそんな事を思った。 「オレに、炎に好きだと言わせたいのか? それで、ようやく自分の夢を見つけられたあいつを、また惑わせるような真似をさせたいのか?」 激はまたぼんやりと思う。あぁ、零れちまった。 「……出来るはず、ないだろうが……!」 そう、出来るはずがなかった。 だから、最初からそんなものは抱いてないと、思い込もうとした。 した、のに。 ……いや…… 自覚してしまったのは、決して激のせいではない。 忘れようとしているその傍ら、絶対にこの想い手放さないと強固に抱いている部分があった。 ……特別な人の事、だから。 忘れてしまったら、自分から離れていくような気がして。 「……………」 じ、と激を見据える強靭な瞳から、ぱたぱたと光を弾くような水滴が、地面へと落ちる。 おそらく、こっちが立ち去らない限り、爆は目をそらす事はないだろう。 そうだよな。 そんな、生半可な気持ちじゃないもんな。 状況が状況じゃなかったら、胸張っていられたもんな。 「爆」 続くセリフはあったのか、なかったのか。 激にテレポートをかけられた爆には、解らない事だった。
とりあえず、一度赴かせてもらった自宅へと飛ばした。 爆の居なくなった空間には、水滴の付いた草に、爆の顔がこびりついた自分の網膜。
-----青色の、空。
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