「激…………」 全て衣服を脱ぎ終わった爆は一層激に凭れかかる。 「ばくぅ………ッだわぁ!!?」 それから逃れようと背を逸らしていたので身体の重心がずれ、そのまま後ろへひっくり返ってしまう。 それでも爆は激を離さず、それどころか横になった激の身体に乗り上げ、 「……………」 「!!!!!!!!」 目を瞑った、爆の顔が静かに近づく………
さて、時間を数刻遡る。 爆は激に言われた通り、ハーブを取りに庭へと出た。 「……全くアイツはいつもいつもヘンな事ばかりしたがって……!!何であんなヤツと一緒に居るんだ?今更だが」 ぶつぶつと”おかえりなさいのキス”を強請る激に、文句を垂れる爆。 しようとする態度もだが、それを嫌だというのに全然聞いてないのにも腹が立つ。一体自分の事をなんだと思っているのか? 「……激の、馬鹿!アホ!!」 苛立ち紛れにぶちぶちとハーブを引っこ抜く。 ------だったら貰っていい? 「あーあー、あんなヤツのしをつけて……」 と。 聞こえた声に答えたはいいが、 「……誰だッ!?」 呼びかけた途端、爆の意識が宙に浮く。 感覚的にはテレポートをかけられた時に似ていた。 そしてそれが終わった時、どうしてか視線がかなり低かった。 庭の雑草--激理論で”生えてるものを引っこ抜くのは自然の摂理に反するとか言ってるが、本音は面倒くさいのが丸見え--が、かなり近くにある。 眩暈でも起こして倒れたか? しかし自分の4本の足はしっかり地面に立って…… ……4本?? 『何で………ッ!』 と、言葉をしゃべったつもりなのに耳に届いたのはキューンクーンと獣の声で。 は、と気づき上を見れば……… ”自分”が居た。 そして”爆”は自分を見下ろし、やがて家の中へと入って行った。 『ちょ、ちょっと待て!貴様何を企んで……!』 これ以上の第3者の加入がなければ、自分の意識をこの身体に移したのはたぶんあいつだ。 慌てて追っかけるが、すでに扉は綴じられた後。 ドアノブなので、とりあえず動物ではあるらしい今の自分に開けるのは無理だ。 『そうだ!』 激は今食事を作っている。 キッチンの窓から入れる!! たたたたッ!と家を回りこみキッチンへとたどり着く。 窓の近くにあった木箱を顔で移動させ、その上によいしょ、とのっかかり窓を覗く。 『激!げ……』 その時丁度、”爆”もキッチンへ入って来た。 激がいつものように何事か話しかける。あまりにも日常。しかし自分はここにいる。 激が何か言っても”爆”は動かない。 訝しんだ激が振り返る。 と。 ”自分”は激に抱きついた。 『!!!!!!!!』 爆と激はほぼ同時に硬直した。 が、ここで終わらない。 壊れたラジカセみたいに「な」ばかり繰り返す激に自分はとんでもない事を言う。
「この身体、好きにしてもいいぞ」
『!!!!!!!!!!!!!!!』 爆の意識は暗転した。
などと自分が意識を飛ばしている間にも事態は更に恐ろしい方向へ進んでいく。 気づいた時には全裸の”自分”が倒れた激に圧し掛かっていた。これでは自分が激を襲ってるみたいではないか!! 『わーわーわー!!やめろ馬鹿!!やめんかぁぁぁぁぁぁぁッッ!! 激ー!貴様もさっさと気づかんか----------ッ!!普段好きだの愛してるだの言ってるのは何なんだ!!』 こんなのは嫌だ!断じて嫌だ!! だってあれは自分でないのに………! 『……って、本当のオレだったらなんだかやってもいい、って聞こえるじゃないか。 そうじゃない。そうじゃなくてだな……!!』 あうあう、と真っ赤になって自らにに言い訳する爆である。 とかやってる場合じゃない! ”自分”が激にキスしようとしてる!! 『ちょ………おい!おい!!』 顔が近づく。 あと10センチ……5センチ…… 爆は必死に願う。激が気づいてくれる事。 口唇が重なるまで、あと…… 『やめろ……やめろ-------------!!』
オレの激に何をする!!!
---------ッ!? 『あ……今、何を……?』 今自分は、何を思った? 『……………』 突然沸いた自分の本心に、爆は半ば呆然となる。 それでもどうにか我に返り、部屋を覗いた時。 『………!』 激が”自分”の肩に手を掛けた。
受け入れてくれたのだと思った。 肩にかけられた手は、あの時と同じ、温かくて優しい。 しかし。 「………?」 その手はやんわりと、自分を遠ざけた。 ひょい、といとも簡単に自分を床へと座らせる。激もまた身を起こした。 「何で?」 それでもなお迫る。 「抱きたいんだろう?」 「そりゃまーなぁ。 ……けど、それは中身と一致してなきゃ意味ねぇから」 「!」 ”爆”の双眸が見開かれる。 「その気配、さっきのキツネだな。 何を思ってかは知らねーけど、持ち主に返してやってくんないかな。 でねぇと……」 ひた、と”爆”を見据えて、 「お前に何するか……ちょっと解らねーから、俺」 「………ッ!」 ”爆”は怯えたように身体を撥ねさせ、俯いて細かく震える。 (あー……ちょっとやり過ぎたか?) 気まずそうにぽりぽりと頭を掻く。 どうも爆絡みだと理性も何もかもぶっとんでしまう。 それだけ、自分の深い場所から爆に惹かれているのだという事だろうけど。 「……あの、あの……ッ!」 子キツネは何かを訴えたいように、必死になって言葉を紡ごうとする。しかしさっきの激がちらついて、どうにも声が出ない。 「ん、まぁなんだ」 激はその頭にぽん、と頭を乗せて。 「多分助けてくれた恩返しってつもりだろうけど……別に俺にとってはンなご大層な事したつもりじゃねぇし、”ありがとう”って言ってくれるだけでいいから。な?」 にか、と明るく笑う激。 しかしそれを見た子キツネは安堵と同時に、少し寂しそうな顔をする。 それを見とれたのは激でなく、爆だけ。 「………ありがとう」 「どーいたしましてv」 激の返答に子キツネは微笑み、軽く目を綴じた。 意識を転換してる間も激のことを想っていたのは、今度は爆にも解らなかった。
また軽い眩暈に似た感覚。 治まった時には目の前に激。 自分は裸。 …………………。 「……爆ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」 「やっぱりか貴様は-------------!!!」 がばちょ、と襲う激にカウンターを食らわせた爆だった。
「………で?何時頃から解ったんだ?」 「んあ〜?」 目に青痣作ったままパスタをご賞味中の激に問う。 とりあえず口の中のものを全て飲み込んで、 「振り返った時に……かな?」 「だったらその時に……」 とっとと追い払ってくれればいいものを、という台詞を飲み込んだ。 ンな事言おうものなら「わーい、爆にヤキモチ焼いてもらっちったv」とほざかれるのは明らか。 「いやぁ、気配がさっき助けたキツネのと同じだったし、これは礼でも言いに来たか、と思ってちょっと出方伺ったんだけど……まさかあんな事されるとはなぁ……」 あはは、と乾いた笑いを見せる激。 ……言えない……自分の中の黒激(何ソレ)が「いいじゃんやっちまえよ!!」と囁いてたなんて事は!! しかもそれにぎりぎりまで従おうと思ってたりしてた事は! ふぅ、あと少し白激(だから何なんだよ)の「お前!これまで殴られたり蹴られたりした努力を無にする気か!?」の声が無ければ……! ……いくら中身が違うっつったって外見は爆そのものだしなぁ……しかも「抱いて」なんて魅力的な言葉と行動で迫ってくるんだもん。 それで「うう、このまま襲ってもいいかも?」と思ってしまったところで自分に罪はない!断じてない!! 「……激……何故オレから目を逸らす……?」 「い、いやンな事ねぇぞ!!? そ、それにしてもあのキツネも味な事してくれるよな! 多分俺の喜びそうな事、って思ってしてくれたんだと思うけどよー、俺ってそんなに飢えてるように見えたか?」 何だか白々しい程喋り捲る激だか…… 爆はいや、違う、と思った。 あのキツネが激にあんな事をしたのは、恩返しだとかそういうのではなく、単に…… 「……………」 「お、俺何もやましい事してないよ?」 激、そーゆー事を言うのを墓穴を掘るというのだよ。 それはさておき。 「別に」 爆は少し素っ気無く言う。 「激が、キツネじゃなくて良かったと思ってたんだ」 「は?何だそりゃ」 「だから別にと言ってるだろう」 仁部もなく言って食器を流し台へと運んだ。
認めたくないが。 とても認めたくないが。 今ぼけっとした顔で自分の背中を見ているヤツは、一応自分のものらしい。
それにしても。 激がキツネでなくても良かったが、あのキツネが人間でなくて、本当に良かった。
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