十二色の君




 爆は久しぶりに顔を見せに来た。そして言った。
「旅に出る」
 はっきりした声だった。
 聞き逃す筈もない。
「……………」
 気の利いた言葉でもかければいいのに、俺は。
 不機嫌だけにはなるまいと固い表情になる。
「……別にずっと会えなくなる訳じゃいから」
 あぁ、気を使わせてしまった。
 ずっしり構えていたいんだけどね。こんな時こそ。
 煩わせたくはないのにね。
「……一個お願いきいてくれる?」
 よしよし、俺にいつもの笑顔が戻ってきた。
「何だ?」
 訝る爆。
「爆の絵、描かせて」


 えーと、何か無かったか……お、色鉛筆めっけv
 何だ、十二色しかねぇや。まぁ仕方ない。背に腹は変えられぬってやつ。
 画用紙は……あるな。
 俺が部屋のあちらこちらから画材を調達している間、爆には窓際に移動させた椅子に座ってもらっている。
 そして俺はそこから少し離れた所に椅子も持ってきて、その上で胡坐をかいた。
 む。少し角度が悪いか?ちょっと移動。
 よし、ここがいい。
 鉛筆で軽く薄くデッサンをし、後は色付けも兼ねて色鉛筆のみで進める。
「……貴様が突然奇妙な事を言うのは今に始まった事ではないが……
 今回はまた特に珍妙だな」
 うーん、俺そんなに毎回変なおねだりしてたか?
「……爆が俺から離れちゃうからさ。側にあって欲しいんだ」
 ”お前”が記されている物。
「だったら写真でもいいんじゃないか?」
「ダメダメ。全然ダメ。あ、あんまし動くなよ」
 顔の向き変えられたら全部描き直しじゃんか。
「……あのな」
 代わる代わる色鉛筆で画用紙上の爆を彩る。
「人が見る映像と、機械が映した映像とじゃズレがあるんだって」
「そうなのか?」
「あぁ、自分で見た時はでかく感じたのが、それの写真を見たら小さかった、てのがあるんだとよ」
 そう、人間の目……目に限った事じゃねーけど……は、精巧で曖昧なんだ。ここら辺が機械には真似できない所。
 例えば、機械に盲点なんてねぇだろ?
「だから、俺は俺の目から見えた爆を残しておきたいの」
「……やっぱり、貴様の考えは何処かしら変わってるな」
 うるさいやい。
 好きな人にそんな事言われるとちょっぴり傷つくぞ。さすがの俺でも!
「でも。
 オレは嫌いじゃいな、そういうの」
 ………………
 うわ。うわうわうわ。
 心臓バクバク言ってるよ……顔も熱いし……
 若いな、俺。
 ん。大まかには描けたから、後は影とか、その辺の細かい所だな。
 ……この絵がずっと出来なかったら……
 爆はずっと居てくれんのかな……
 ……馬鹿だな、俺。未練だらけだ。
 何が不満なんだ?こんな、幸せで?
「なぁ、激。その絵出来たら見せろよ」
「えぇ〜。ヤだ」
 あっさり拒否。
「何でだ。オレの絵だろ?」
「ヤなものはヤですー」
「何で………」
 しばらく俺たちは”見せろ””嫌だ”の応酬をした。


 別に俺のものになってくれとか、俺だけを見てくれとは言わねぇよ。
 そんな事は出来っこねぇんだからさ。
 それでも。
 この俺の目から見える爆が見れるのは俺だけだから。
 ……俺だけだから。

 ……俺だけの、爆だから





だだこねげっきゅんさんです。雹みたく”僕のものになって!”とはいえないけど、思ってないかといえばそうではない。
何つーかさ、鳥に憧れる陸の動物というかさ。
どう足掻いても無理だって解っているけど、焦がれずには居られない、って感じ。
”おー・まい・がーる!”とのギャップが凄いです。(いや、あっちもだだこねといえばだだこねですが)