「こんなんより、爆の方がずっと甘いよなぁ?」
と、激が言ったのは、寝転がりながら夕方のニュースで某有名パテシェご推薦のケーキを紹介しているのを見たからだ。
「ていうかホントに肌とか舐めると甘いしv
……きっと身体の中も甘いぜ。血とかも」
「だったら舐めてみるか」
と、ちょっと後ろから聞こえた爆の声に笑う。
「ぶわ〜か。俺はそーゆースプラッタな恋は……って、おおおおおオメー手!手――――!!」
「……貴様が叫んでどうする」
と、呆れる爆の手からはとても鮮やかな血がポタポタと垂れていた。
「どうした、コレ!?」
慌てる激。冷静に傷を見る爆。
「今しがた果物の皮を剥いてたら滑ってな。不覚だ」
「不覚なのはいいけどよ!もっとリアクション起こせよ!ぎゃーとかわーとかひーとか!!」
ちょっと怒りながら激は爆の傷を治していく。
確かに命に関わるものであるわけがないが、それでも刃物で手を傷つけたのだ。痛くないはずがない。
ぱっくり割れた傷口を見て、激は痛々しそうに顔を歪める。
それを見て爆もまた悲しそうになる。
怪我をして、痛かったし血が出て怖かった。
しかし、それが助けを呼ぶという行動に繋がらないのだ。
……今まで、呼んだ所で来る人もいなかったから。
今は、居るのに
すぐ、目の前に居るのにね
”助けて”なんて言葉……使わないから錆びちゃった
「………………」
もし。
激になにかあったらそれを伝えてくれたら嬉しいし、伝えてくれなかったら悲しいと思う。
だったら自分から示すべきだ。
けど。
「った!?」
治療の終わった手で爆の額を軽く弾く。
爆は額を押さえてきょとんとした。
「まーた何か考えてる。しなくていいっつーのに。
窮屈そうな顔してたぜ?今」
「……オレの勝手だろ」
と、ぷい、とそっぽ向く。
いまいち認めたくもないような気もするが、そんな顔をしてしまうのは偏に激の為なのだから、そんな風に言われてしまうと少しむっとしてしまう。
「……別にオメーが変わりてぇってんなら俺は反対しねぇし。て言うか手伝いもするし。
けどな」
ふわりを爆の頬を包んで自分に顔を向かせる。
「焦るのはやめとけ。それから、」
「お前は今でも素敵だよ。
……変わっても素敵なんだろうけど」
結局はどんなに努力したところで自分は自分で、根底は変わる事はないのだろう。上に咲く花が違っても地面はそのままのように。
誰かを頼ることはもう出来ないかもしれない。
けど今は激の言葉が純粋に嬉しかったから、ぎこちなくても微笑むのだ。
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