不透明な視界の鮮明な君
別に何事に無関心ではない。
寧ろ、お祭り事は好きな性質だ。
ただ、感動する事は無かったと思う。
何かに心を震わし、涙まで流れるのは自分にとって現実味が無かった。
するヤツがいたとしても自己満足なのだと思った。
けど
それはただ単に自分の見聞が狭かっただけで
「なー、爆ー。好きだぜー」
…………
「アンモニアNH3は、四酸化三鉄Fe3O4を主成分とした触媒を用いて窒素と水素を400〜600℃・200〜1000atmで直接反応させてつくらせる。この方法を、ハーバー・ボッシュ法という」
「……すっげぇシカトだなおい」
激の背後にピュ〜と木枯らしが吹いた。
「喧しい。オレは技を教えてもらいに来たんだ。下らん戯言なんか聞いてられるか」
「ひでー……人の真剣な告白を……!」
爆の言葉に激は打ちひしがれた。しかし。
「激……貴様は知らんようだから言ってやる……
ソファに寝転がって頬杖ついて、クッキー貪りながらする告白を世間では「真剣な」とは言わん!」
「俺は世間の枠に捕らえられねぇ男だからいいんだ!!」
「単に常識知らずなだけだろぉぉぉぉぉぉ!!」
激昂する爆に激はまた一つクッキーを口に放り込む。
「オメーも食うか?クッキー」
「さっきまでの会話と脈絡のない事を言うな!」
いい加減爆の血管と堪忍袋の緒が限界だ。
その爆の目の前で激はのっそりと起き上がる。
「まー、言い方はともかくとして」
「するな」
「(黙殺)オメーを好きだってのは本当だぜ?」
激の双眸が何時に無くシリアスさが混ざったのに気づき、爆は先程みたく闇雲に否定するのを阻まれた。
「…………」
何を言うべきか、爆は悩んだ。
悩んだ事にも悩んだ。いつだって、自分の信念に基づく事を、本能の導くままに言っていたのに……
「……一目惚れ……だったな、あれはもう」
遠くを視て言う。
「いつ……?」
一目惚れなのだから、いつと言えば初対面に決まっているのだが。
しかし爆は自分達の初対面がいつなのかが解らなかった。
「激」として会ったのはイレブスだが、実は以前にも面会済みだ。
「そりゃもう一番最初だよ。
カイに運ばれて来たオメーに恋をした。今までにないくらい、鮮烈にな……」
今目の前にいる爆と。
その時の爆を同時に想い、激は愛しそうに目を細めた。
恋をした……と言われてもその時、自分は意識がなかったので爆はなんとも言えず、やっぱり戸惑う。
激は言葉を続けた。
淡々と。
「それで、恋に落ちた後……って本当はどっちが先か解らねーけど、感動した。こんなに綺麗なモノがこの世にあったんだって」
「綺麗……?」
「ああ、血まみれだったオメー、凄く綺麗だった」
冗談っぽく笑えば、爆は遠慮なく顔を顰める。
「何を……貴様は……」
爆はただ呆れた。嫌悪はしない。
「いや、自分でもそれはヤベーだろ、とかマジかよ、とか思ったけどよ。やっぱ突発的に思った事が自分の中での真理なんだよな」
後半は自分に言っていた。
血塗られた人物には悲哀をまず感じるべきだ。なのに自分は綺麗だと心を震撼させたのだ。
気づかなかっただけで、自分は本当は猟奇的だったのか、と捨てきれない自己嫌悪に悩んだりもしたが……
時が進んで解った。
自分は別に血を流している人間誰にも魅了される訳ではない。
爆、だったからこそ
「オメーには感謝してる」
「?」
またしても唐突に話題を変えた激に訝る。
「俺よ、実は冷めて全然つまらないヤツなんだと思ってた」
愉快そうにしてたのは……ただのポーズ。楽しくだけ生きるためにしてた事。
「でもそうじゃなかったんだ……」
振動する心があった。慟哭する身体があった。
制御を知らない感情があった。
爆のお陰で解ったし、そのきっかけが爆だったのも嬉しい。
「なぁ爆……好きだ」
言葉に障害が起こったみたいにお前を見て言えるのはこれだけだ、と囁くと爆の頬が上気する。本人はそれを隠そうとしているのが、なお愛しさを誘う。
……その反応だけで、爆も知らない心の深遠を見せてもらったような気もするが。
「……オレは……まだ……そういう事は、よく解らん……」
ぎゅう、と服を掴みやっとの事でそう言った。
解らない、というのは逃げなのかもしれない。
ただ色んなものが狭い場所にごちゃごちゃして……整理がつかないから何があるのかも解らない。
「まー焦るなって。いつか解るって事だろ?」
爆は頷く。
「だったらゆっくりやればいいさ」
そうして爆を抱き締めて、額にキスをして。
その後真っ赤になった爆に殴られた。
……解ったのなら、おいで。
いつでもおいで。抱き締めてキスをする(殴られてもする)
何処に居ても鮮明だからすぐに解る。
この心疼く、たった一人ならなおの事―――
このお話の激の心境はまんまワタシのものですね。自分も感動する事がない……というかあっても薄い。
ついでに人を綺麗と思った事もないですねー、「可愛い」「美人」はありますが。個人的に「綺麗」と「美人」は違うと思うにょ。
が!しかし!
そんな色々薄いワタシにも震撼する出来事が!ワタシ、産まれて初めて人を綺麗だと思った瞬間がありました!
映画のワンシーンなんですけどね(まだ公開してない。宣伝だけ)凄く綺麗だったんですよ……ちなみに某男性アイドルグループリーダーです。
ただその場面が、
ひょっとしたら死体を埋めてる為に地面を掘っているシーンかもしれなくて。
こんなシーンに感動した自分って……