罪と罰と、咎と裁きを



 久しぶりに自分から会いに来てやれば、激はソファに力なくだらんと横たわっていた。
 参ったね、風邪だよ。
 そう、言って。
「……だったら、術でも何でも使って治せばいいだろう」
 見てるだけでこっちの具合が悪くなる。爆は不自然に素っ気無く言う。
「勿体ねーよたかが風邪に。放っとけりゃ治るんだから」
 にぃ、と笑ってみせてやる気の無い猫みたいにぐんにゃりとする。
「…………」
 爆は、思う。
 激は自分が傷ついても決して自ら治したりしない。
 欲している。
 自分を蝕んでくれるものを。
 それが、鎖となればいい。咎となればいい。
 あやふやに終わった罪に明確な罰を。

 かつて、未熟なまま知識を授けた彼の弟子のために。

「……?」
 ぽん、と額に乗せられた手を見る。
「……オレが貴様を治す分には問題無いだろう……」
 実際鬱陶しいんだ。一方的に言い捨てる。
 軽く目を綴じ、深呼吸。
 術を使う為、精神を平らにしなければ。
 が、その途中、激の手が優しく爆の手首を掴み、自分から遠ざける。
「――――ッ!……激!」
 ついに。
 爆の心から悲痛な叫びが飛び出す。
 そんなに痛めなくても……いいのだと本当は言ってやりたい。
 言ってはいけない事を知っているから、言わない。
「爆」
 おそらくは泣きそうな顔になってる事に気がついていない爆に。
 爆はひたと激を見据えた。
 
 生きる事を選んだのなら、幸せになって貰いたいから。

 同じ景色を見れるのなら、それを見て綺麗だと微笑んで欲しいから。

 あての無い裁きを待たないで。

 ……自分の一方的なエゴを自覚して、爆は目の奥と喉の後ろが熱くなるのを感じた。
「いいんだ。しなくても」
「でも……―――ッ!?」
 ふいに引かれた腕にまともに姿勢を崩し、爆は激の上へ覆い被さった。
 そして。
 いつもより熱い激の口唇が―――重なって。
「んッ!」
 あまりの事に戦慄く爆に、激はいけしゃあしゃあと。
「術なんかより、こっちの方が絶対効くって♪」
「……この……馬鹿者―――――ッッ!」
 爆の拳が激のこめかみでゴキ!とちょっとシャレにならない音を立てた。
「いってぇぇぇぇぇ!オメー病人になんて事を!!」
 涙目で激は訴えた。
「やかましい!病人ならもうちょっと人間らしくしてろ!!」
「ちょっと待て。お前さらっと酷い事言ったぞ、今」
「全く、人が心配……――ッ!」
 は、と気づいた時にはもう遅かった。
 こんな至近距離で激に聞こえないはずもなく。
「へぇ」
 どうやったらこんな顔が出来るのか。激は意地悪さを全身に押し出した笑みを浮かべる。
「心配してくれたんだ♪」
「ぅ……」
 いかん!ここで黙ったら負けだ!(←何の)
「びょ……病人を心配するのは霊長類としての最低限のマナーだろうが」
「嬉しいなー、爆に心配されちったいvv」
「…………」
 この恥、一生の恥と言わんばかりの表情の爆は後ろを向いて歩き出した。
「あれ?何処行くの」
 爆の向かう先は、玄関では無くて。
「粥くらい作ってやる。早く治せ」
 そう言って爆は台所へ。
「……結構、俺って愛されちゃってんだな……」
 だったら自分は爆の願いを早く叶えるべく、怠惰な身体を癒すため、眠りに落ちる。
 爆が起こしてくれるまで。

 ……オメーとなら、別に
 幸せになってしまってもいいかな、とか俺は最近思うよ、爆……

 とりあえずは今までよく見てなかった景色を見て、綺麗だと思いたいと思います。

どうにも切なさ溢れる作品ですね。何があった自分!
一応傷ついた激を癒す爆ってコンセプトなのですが。激が異様に自虐的になってしまいました。
でもワタシの激は何か背負ってないと爆に相応しくないと思うきらいがあるから……何て事も無いのですが。(でも他の方の作品を読むとそう思えますよね)
この激、はっきり異色ですよ……勢いだけの激がワタシの売りなのに……!