氷点下の炎
  〜flame below the freeziug point



 やっと見つけれた子供は真っ向から自分を睨んでくれた。
 それは誤解され易い優しさを持つあの人のものとあまりにも酷似していて。

 あやうく攫いそうだった。

 ――そうすれば良かったと、今、思う。
 いずれそうするとしても――

 そうすれば、想いはそこで止まったのに

 実はあまり人と接するのは好きではない。
 他人を嫌悪しているのでは決してなく、そうなる人はこの世界でただ一人と決め込んでいるから。
 言い換えればその人に対する誠意、とでも言うのだろうか。
 実際針の塔の住人にもあまり会おうとはしない。
 が――
「雹。……また何か爆にしたようだな」
 つい先日。イレブスから爆が旅立った日に、同時に雹の気配も消えた。爆の元へ行ったのは明白だ。
 モニターの大画面で爆を鑑賞していた雹は億劫に炎を向く。
「過保護だねー。そんなに爆くんが心配?」
 意趣返しに揶揄するように言ってやる。
 何だかんだ言って炎が爆を気にかけているのは事実。
 その点では炎も雹も同じ。二人を分けているのはやはり――

 爆、が――

「心配はする必要は無い。俺はお前が爆にちょっかいをかけるのが気に食わんだけだ」
 いつもの言動より幼さが増したような炎に、雹は少し違和感を感じた。
「僕も君が気に食わないね。いつも余裕綽々でさ、確かに爆くんは君を追って来ているかもしれないけど――
 ……お前なんかより先に僕の方が爆くんに会ってたら、爆くんは僕を……―――ッ!?」
 ここぞとばかり腹に溜まっていたものを吐く。が、その最中刺さるような視線に、冷水でも浴びたように凍える。
 その源は――炎。
「……それは、無い」
 炎は嘲んでいるのだろうか。激昂しているのだろうか。
 無表情なんてものじゃない。表情が消え失せている――
「――あってはならないんだ――」
 誰に対してそう言ったのか。炎はマントを翻して行った。
 ようやく動けるようになった雹は、壁を蹴った。


 自室に設けた、雹とは別のモニターで爆を双眸に映す。
 なるべく研究者が実験対象を見るように、冷静でいたいのだが……どうにも抑えられない思慕が込み上げる。
 『前』は……自分が追う立場だから失敗した。
 だから『次』は相手こそ追う立場にすれば上手くいくと。
 なのに、この焦燥感は何故なんだろうか。兎角あの血の主は自分の思う通りにはなってくれない。
 
 ――一緒に居たいのに――
 
 胸の奥に仕舞いこんだ愚かで幼いだけの自分が叫ぶ。
 ……縋りに行きたい。爆の元へ。
 憐れだと思われるまでに縋ったなら……あるいは……爆は自分の側に居てくれるだろうか。
 まだ子供で、彼の人のように厳しさを伴う優しさはまだ未熟な爆だから。
 夢に気づかせてくれた人という事で特別扱いしてくれるだろうか。
 初対面の時の事を思い出して、炎はうっすらと笑う。愉快なのだ。
 自分は何も大した事はしてないのだ。過去をなぞっただけで。
 世界を見て回ると言った真。あの人がかつて自分に話してくれた事を……言っただけ……
 そうしてまんまと引っ掛かった爆に……自分は何をその時感じたんだろう。
 あまり気分の良いものではなかったような気がする。
 そして、その時から自分の仕組んだ歯車が軋み始めた。
 爆の事は真の子供。もっと酷い言い方を言えば夢を叶える為の道具。
 自分にとっての爆の価値はそれだけの……はずだった。

 今、こうして見ているのは

 「真の子」なのか

 「爆」なのか――

 ……「爆」を見ているなら、自分の夢は狂ってしまう。から――

「爆……早く来い……」


 お前を好きにならない内に



という訳で「灼熱の氷」の続編「氷点下の炎」です。
この話達はタイトルが先に浮かんだんですよねー。考えて「うぉぉぉ!我ながらかっちょいいタイトル!!」とか思って(アホや)。
このタイトルだからシリアスな話だよなー。ううむ一番苦手だ、と四苦八苦しながら構想する事何と1年!それがこうして形になってる訳です。なので結構思い入れ深いですね。
ちなみに1年前修学旅行中に構想練りました。”write”読んでる人にはお馴染みの。……他にやる事はなかったのか……