sound of shine




「……あい変わらず騒がしい街だ……」
 ロックの上空、キッチーから見下ろし爆は呟く。
 別に他人の趣旨をどうこう言うつもりはないが、自分にはどうしても合わないような気がする。
 それでも爆がここに来たのは、人に会うため。

  ”アニキが会いたいってさ”

 そう言ったのはライブ。
 だから爆が会うのはデッド。
 今やすっかり平和利用されているGCウォッチに家の地図を転送してもらい、向かっている。
 デッド。会った印象は最悪と言ってもいい。
 針の塔の命令だから、と命を狙った人物だ。
 けれど、その行動には疑問を抱かない姿勢には何かあると思った。
 ……ナイナイでの全て終わった後。朝になってしまった為、ロックとなってしまった。 
 ナイナイまで一緒に行くか、と訊ねそれを断った彼の顔が脳裏に浮かぶ。
「……あそこか……」
 爆はチッキーに高度を下げるように言った。


(う〜ん、まだかなぁ……まぁ、約束の時間にはちゃんと来てくれると思うけど)
「ライブ……」
「何?アニキ」
 一瞬企みを見透かされたと思って焦った。
「……そんなに時間が気になるのだったら、もう会場に行ったらどうです?」
 デッドはライブがそわそわしている理由を、彼のコンサートの事だと思ったらしい。
(セーフ!!)
「そんな事ないよ」
「そうですか……」
 いまいち釈然としないものの、デッドは視線を紙面に戻した。
 と、その時。
 ピンポ〜ン♪
「……誰か、来……」
「あ、いいよ、ボクが出るから!ついでにそのまま行っちゃうからね!!」
 デッドに有無を言わさぬ勢いで行動するライブ。
 室内なのに全力疾走じみた駆け足で玄関に辿り着く。
 開けた前には予想通りの人物。
「やぁ、爆よく来たね♪」
 空で見た時にはともかく、いざ降りて見るとあまりにも広い家に呆気になってた爆は、ライブの声で我に返った。
「デッドは……」
「リビング。この廊下真っ直ぐ行ったドアを開けたらだよ」
 何故かライブは誰かに聞かれるのを恐れるように、小声で言う。
「アニキと仲良くねv」
 ポン、と意味ありげに微笑まれ肩を叩かれた。


 GCでありながらアーティストでもあるライブの家は、それ相応に立派だった。
 玄関からリビングへの廊下も一般家屋と比較にならないくらい長いし、そこにはライブの作曲したCDが立てかけられている。
 リビングへ繋がるドアはガラスで、けれど複雑な模様になってるため、向こう側が見えない。
 カチャ、と極力音を立てないようにそっと開けた。
 爆はデッドに声をかけようとして……開きかけた口唇をまた噤んだ。
 テーブルの、一番窓際の席。
 そこでデッドは紙面を広げ、その上に羽ペンを走らせて行く。
 デッドの表情があまりにも真剣で、例え呼ばれたとしてもこの雰囲気を壊すのが躊躇われたのだ。
 しかし、デッドが爆に気づく。
「爆……君……?」
 デッドの優しいテノールで呼ばれ、爆の鼓動は跳ねた。
 が、次の一言でそれは消える。
「……何故、ここへ……?」
「何故って……貴様が呼んだんだろうが」
「僕が?」
「ライブが言ってた……」
「ライ……!?」
 弟の名前が出された所でちぐはぐだった会話が繋がった。
 だから。
 だから、今日朝からずっと落ち着きがなくて。
(〜〜〜〜ッアイツ………)
 今はもう離れた場所に居る弟を呪う。
「……何か……食い違いがあるみたいだな……?」
 デッドの反応を見て、デッドはライブに謀られたらしい事を察する。
「じゃぁ、帰……」
「―――折角来たのですから、お茶でも飲みませんか?用意しますよ」
 爆に帰る、と言わせないよう、セリフに被せて言いさっさとキッチンへ向かった。
 
 ライブには音楽関係者やファンの子等から送られてくるプレゼントのおかげでで、お茶菓子には事欠かない。
 しかし。
 それでは自分の好きな葉がきちんと置いてある、というのは説明がつかない。
(……ここまで計画的だったのか……?)
 何か掌で踊らされてるような気がしないでもない。
 けど今は自分が一番だと思ってる葉を爆に振舞える事に感謝しよう。
 適当に菓子を見繕って皿の上に綺麗に並べる。
「さっき、何を書いていたんだ?」
 茶を淹れる、デッドの優雅な仕草を見ながら尋ねる。
「あぁ、少し曲を……」
 少し照れて言う。
「見てもいいか?」
「ええ、どうぞ」
 爆は決して汚さないように注意を払い、手書きの楽譜を捲った。
「………………」
 自分は音楽が決して苦手というワケではなかった。
 それでも得意でもなかった。
 なので。
「……解らないでしょう?それだけ見ても」
 思わず固まってしまった爆に苦笑してしまう。けど、それは口元が綻びる優しいもので。
「そんな事……」
 ないぞ、とは言い切れない爆だった。
 それでも楽譜は音符の一つ一つが丁寧に書かれてあって、この曲が大事なのだというのは解る。
「それはまだ途中ですが……」
 そう前置きし、デッドはピアノの前に座った。
 指馴らしにジャン、と音を鳴らし、それから鍵盤の上を指が滑る。
 最後の一音が終わるまで、爆はそれをじっと見ていた。
 ポン、と軽い音。それがこの曲の仮のピリオドだった。
「……デッドが作ったんだよな。今の曲」
「はい」
「……いい曲だな。オレは好きだ」
「嬉しいですね、貴方に言われると……」
 その言葉に偽りが無いデッドは、微笑む。
「この曲は、貴方のお陰で出来たのですから……」
「…………?」
 爆は訝る。
 作曲の才能がない自分から、一体何を得て曲が出来たというのだろうか。
「……僕はピアノを弾くのが好きで……でも、ひょっとしたらピアノでなくても良かったのかもしれません。
 何かを生み出す、という行為がしたくて。僕はそれを音楽で求めた……」  
 デッドは鍵盤の一つを弾く。
 澄んだ音がした。
「……とても嬉しかったですよ。始めてちゃんと曲が弾けるようになった時は。
 あの時の事はいまでも思い出せます」
 過去を懐かしむ笑みが表情を飾る。
「それから、僕は好きな曲を選んでは練習して……それの繰り返しでした。
 それで満足していました。
 貴方に会うまでは」
 顔に纏わる髪を軽く揺らし、爆を見た。
 爆は頬が熱くなったような気がした。
「誰かの作った既成の曲ではなくて、自分が本当に弾きたい、自分だけの曲が欲しいと」
「……それは元々の貴様の性質だろ?」
「ですが、貴方に会わなければ決して気づく事はありませんでした」
 何処か虚ろであった世界で、爆は太陽よりもなおも輝かしく、鮮明に。
 それは自分の中の埋まっていたものすら照らしてくれたから。
「……貴方が導いたんです。僕に、この曲を……」
 紅茶、もう一杯要りますか?と尋ねたら赤い顔でカップを差し出した。


「たっだいまー♪」
「ライブ……」
 地を這うような声とはまさにこの事であった。
「や、やっほー、アニキ☆」
「やっほー、じゃありませんよ。全くお前と来たら……」
 はー、と深い溜息。
「だってさー、見てるこっちが辛いんだよ。会いたきゃ会えばいいじゃん」
「……誰が何時、爆君に会いたいといいましたか?」
「ボク今、誰も爆にだなんて言ってないよーv」
 勝ち誇ったように声高らかに笑うライブであった。
 ……どうやら自分に分が悪いを察したデッドはさっさと引く事にした。
「まぁ……もう過ぎた事をとやかく言うつもりはありませんが……
 今後、僕の名を使って爆君を呼びつけるような真似は謹んでください」
「だったらボクの名前ならいいの?」
「……ライブ……いい加減にしないと……」
「あわわわわわわわわわわ、ゴメン、ゴメンアニキ!!!」
 本気で怒ったデッドは怖い……というか恐ろしい。
 ライブは慌てて頭を下げ、頭上でパン!と手を合わせる。
「……それでさ、爆と何したの?」
 萎縮したと思ったら、黄金の髪から覗く顔はニヤリと歪んだ。
「……別に……紅茶を飲んでピアノを弾いて……」
「それだけ?」
「そうですよ」
「ええええええ〜?折角ボクが会わせてあげたのに??二人っきりにさせてあげたのに???」
「頼んだ訳じゃありませんからね。ご希望に添えなかったようで」
 まだ何かぶーたれながら、ギターを置くために自室へ向かうライブ。
 その背中に、デッドはほんの少しの感謝と謝罪をした。


 でも、これは二人だけの事だから

 ”次”会う約束をした事は――――――





はい、朱涅さん初のデッド爆。
うわーい、激爆20作突破だ〜、とか浮かれてた最中、よく考えてみたらデッド爆を一度も書いてない事が判明!!
オウ!なんてこったい!!オイラ人様のデッド爆は好きだってのに!!(……だから書かないのか?自分で)
なんだかまどろっこしい反面甘々な二人になりましたとさ☆