仔兎のワルツ
  〜第7話〜




「ただいま戻りました」
 人はどれだけの荷物を持てれるかという限界を試していたカイは、家に戻り何も担いでいない幸せを噛み締めた。
 あれだけの大荷物、ピンク殿は一体何をどれだけ買ったのだろう、という疑問は完璧に葬り去ったつもりだ。中にはなにやら蠢いていたらしき物もあったし。
 カイはただいまを言ったが、室内に爆は居ない。が、気配はしたので言ったのだ。
 現に爆は庭に居た。それに通じる大きなガラス戸からひょっこり顔を出す。
「ん。ご苦労だったな。結構な荷物だっただろう」
「ええ、まぁ」
「何か蠢いていたのもあっただろう」
「ええ、まぁ………ってアレいつも買ってるんですか!?」
 うろたえるカイを余所に、爆は漢方臭い物が詰まった籠を持って来た。
 カイは匂いだけでそれに心当たりがある。何せ命懸けで採って来た物だ。
「ああ、マンドラゴラですね。日干ししてたんですか?」
「保存を効かせるのには一番の方法だからな。今日は湿度や温度だと出ていた事だし」
 爆は引き出しからナイフを取り出した。別にこれから果物を剥いたりジャグリングをする訳でもない。
 マンドラゴラ、マンゴラゴラと一般に言われるが、そう呼ばれるのはこの植物の根の部分だ。葉の部分はマンドレイクと呼ばれる。何をするでもまずは、これを分ける所から始めなくてはいけない。
 この量だもの、さぞかし時間もかかるだろうな、大変だな爆殿……とか思っていたカイに、ナイフが突き出される。良い子は刃物を差し出す時には柄の方を相手に向けよう。
「………私、ですか」
「ああ、貴様だ」
 薄々そうじゃないかなーきっとそうだろうなーとか思っていたが、やっぱり気落ちする。
 それでも自分のペース配分で何時に終わるだろう……と、無意識に計算していたら。
「………………ッ!ぶはッ!!」
 唐突にカイが噴出す。
「?」
「ば、爆殿、顔、顔----------ッ!!あはははははははッ!」
「顔………?」
 ぐい、と擦って見たら、何時の間に何処でつけたのか、土が。
「…………!!!!」
「いやー、爆殿にもそういう子供らしい一面もあるんで」
 ゴス!!!
 その重い響きはカイの頭蓋骨ならず、室内も揺らした。


「お味の方は如何でしょうか」
「まぁまぁだ」
「そうですか」
 いつものやりとりいつもの風景。
 ただちょっぴりいつもらしさを欠けていたのはカイが目に大痣拵えていた所だった。
 何だかんだで爆はしっかり残さず食べる。まだそんな事はしてないが、味付けを失敗しても食べてくれるんじゃないだろうか。そんな気もする。
 食べ終わり、食器を運ぶ。その動作で、カイが腰に付けていた今は腰紐を纏めている装飾品が光を弾き、爆の目に飛び込んだ。
「それはどうした?」
 一瞬意味を掴みかねたが、直ぐに本日の収穫だった事に気づく。
「昼、ピンク殿についていった時に買ったんですよ。結構いいでしょう?作りも案外しっかりしてますし」
 と、カイは改めてそれを見た。
 が。
(あれ………?何だか、後ろの炎の色が……?)
 買って来た時より、一層その色が濃くなったように見えた。
 しかし、そんな事はありえないので目の錯覚で片付けた。
「………じゃあ、まだ身に付けて間も無い訳だな」
「え?……はぁ、そうですが……」
 それが何かあるのだろうか、とカイは首を傾げた。


 カイの朝は早い。
 だから夜も早い。
 風呂に入り、一日の疲れを取り、後は眠るだけだ。日記はもうつけた。
 火照った身体に冷たいドリンクを取り、湯冷めはしないようにさっさとベットに潜る。夏休みの子供の模範みたいなカイだ。
 そんなカイだから気づかなかった。
 部屋の明かりを消した後、それでもなお-----
 例のアクセサリが、まるで自ら発しているような。

 禍々しい光を放っている事に。



 カイが眠った後の爆は別に何も変わらない。それこそ、カイが来る前から。
 しかし、今日はこれからもう一仕事あった。
 自分好みの味の濃さになる蒸らしの時間は十分心得ている。
 銀のカップに注ぎ、それを一気に飲み干した。






ますます何かがありそうです。確実にあるんですけど。
次回はバトルシーンばっかになりそうなヨ・カ・ンv