「つまりあれですか!貴方は所謂ひとつの羽根人間!?」
「……鳥人間、って言いたいのか?」
「そう、それです!」
ずび、と空中のハヤテを指すカイ。ハヤテは色々篭った渋い顔をした。
「俺は、真っ当なフツーの人間だよ。背中にだけ変身魔法かけて翼生やしてんだ」
へぇ、とカイは感心した。前に爆にちょこっと訊いたのだ。変身魔法の欠点は、魂は身体の僕、という概念により長時間に変化していると、文字通り身も心もその対象にすげ変わってしまうからだ。ネコならネコに。イヌならイヌに。しかしそれは、繰り返し言うが姿を完全に模してしまうが為の副作用なので、一部分なら全く、とまではいかないがそんなに心配は無いだろう。
「その上で、邪眼をかけて翼を見えないようにした……と、いう訳ですか」
人間、何か一番厄介で怖いかと言えば、それは不可視のものではないだろうか。
「まーな。倒す前に気づかれたのは少し計算外だけど、それでこっちの力が下がる訳じゃねーからな」
全くだ、とカイは心で呟く。
「じゃ、改めて行くぜ!」
ハヤテが翼を広げる。
空中からの攻撃に、少し苦労はしたがやがて徐々に慣れてきた。
問題は、こちらからの攻撃が出来ないという事。
(落雷系の術が使えたら、一発で決着つけれるのに……!)
持久戦で負けない自信はあるが、カイは一刻も早く爆を見つけに行きたいのだ。地道に戦うべき場面ではない。そう、今はここで倒す事より脱出する方法を見つけださないと。
そうだ。
ここがどんな密室であろうとも、「部屋」である限りは、たぶん「あれ」がある筈だ。
「……てぇっ!」
短い気合の掛け声と共に、得物の棍棒が投げられる。が、ハヤテはそれを難なくかわす。
「何処狙ってんだよヘタクソ!」
言うハヤテ。
カイはポケットに手を突っ込む。そこには、ルーン文字の刻まれた白い砂利石のようなものが入っている。無論これもマジック・アイテムというやつで、これを使えば魔道が得意ではないカイでも一定レベルが約束された魔術が発動出来る。発動出来るのは、刻まれた文字に準じる。
今、持っているのは地水火風等の代表的なもの。
その中から、カイが選んだのは。
ひゅ、とまた投げる。今度は、寸分違わずハヤテに向かい。
ば、と小さな音が聴こえたと思った後、視界が白く染まった。
ハヤテはそれが一瞬、爆発からきた煙かと思った。しかし、息苦しさは全く感じられない。
と、言う事は。
「霧か!」
眼くらましとは小ざかしい事を、とハヤテは翼で風を操り、霧を霧散させていく。風の通りが無いせいか、少しばかり時間がかかる。けれど、ハヤテが予想していた時間よりは早く視界は晴れた。
「ったく意味の無ぇ事……」
すんなよな、というセリフは出てこなかった。ハヤテの双眸は驚愕に見開かれる。
カイが居ない。
「なっ……」
居ない、と思った時、ふとさっきの事が頭に過ぎった。
相手が棍棒を投げた後、後ろで何かが壊れたような音がしたのだ。
そっちの方向を見てみる。
すると、やっぱりと言うか、棍棒によって網が壊されて通気孔が露になっていた。
ここから逃げたのか?ハヤテはそう考えたが、すぐにそれはありえないと撤回する。そこは、どう頑張っても頭しか通らない。
しかも、居たと思しき場所には、何故だか血が落ちていた。自分はそんな真似はしていないのに。
何で、何で、何で?とハテナマークをいっぱい浮かべるハヤテだけが、其処に居た。
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