カイは思う。この道が、何処までも続けばいいのに、と。
それは、密かに想う相手と一緒だから、というのもあるし。
何より。
(バレたら殺されるバレたら殺されるバレたら殺される………!!!)
カイは自分の素性を隠して爆の元へ居る。何故なら、激の弟子だという肩書きでは行った所でたたき出されてしまうからだ。それどころか、社会復帰すら出来ない程の致命傷を負うかもしれない。
(あぁ!どうしよう!!)
事前に何の打ち合わせもしてない状態で、上手くこの危機を逃れることが出来るだろうか。いや、そうしないとならないのだが!そうしないと、命がないのだが!!
でも、師匠もあれでいて本番に結構弱いタイプだしなぁ……と妙に冷静に師匠へ酷評を下しているカイだった。
「おい」
「は、はい!?」
堪らず、声が裏返る。そんなカイを、爆は覗き込んで(その姿勢にカイがちょっとクラっとして)。
「どうした、さっきから黙り込んで。顔色も、なんだかすぐれないみたいだな」
「いえ、」
何でもありません、といいかけてカイは、はた、と思った。
「はい、ちょっと気分が………」
体調が悪い→引き返すという完璧な構図を、カイはさっきに瞬間に描いたのだ。やった、これで危険回避だ!!
「そうか」
「そうです」
カイは心が軽くなっていくのを自覚した。体調が悪い、と言ったのだからそれ相応の表情をしないというのに、顔には笑顔が広がりつつある。
爆は、言う。
「ま、ちょうど相手は医学の心得があるヤツだからな。ついでに診て貰えればいい」
「………………………………………………」
かくして、逃げ道は閉ざされた。
(ついに来てしまった……)
ほんの数ヶ月前には棲んでいた家だ。でも、カイはなるべく「おや〜?あの建物は何かな〜?」という顔を精一杯作った。
そして、玄関前辿り着いた2人。
「……………」
(お願いです!どうか師匠、私の顔で事情を察して!!)
間違っても動顛して手にしているガラス器を落っことさないでもらいたい。それを見過ごす爆ではないのだから。
カイが必死に願っている前で、爆は勝手にずんずん進んでいる。
んでもって、そのままドアを開けてしまった。
「ちょ、ちょっと爆殿、本人に断り無く!」
「別に、いつもこうしてるから構わん」
やばい!この上不意打ちなんて悪環境を加えてしまっては!!
「ばっ、ば、爆殿!爆殿ってばー!!」
カイは大きな声を出す。
勿論、そんなカイの意図は、呼ぶことを装い、激に自分と爆の存在をアピールするためだ。
今へ続く角を曲がった爆を、カイは慌てて追いかける。そこには、確か激が、今の時間なら昼寝ぶっこいて居る筈だ。爆が蹴り起こす(多分確実)時に、自分の存在も知ってもらった方がいい。
「爆殿!勝手に入っちゃだめですよ!」
とか言いながら、カイは部屋に入る。
しかし、そこはがらんとしていたというか、爆しか居なかった。そう、爆しか。
あれ、と拍子抜けするカイ。
爆の視線の先には、一枚の紙がある。
『ただ今俺はどこかを放浪中です。
何か用事のある人は辛抱強く待つか、根性入れて追いかけてねv
by激』
デフォルメされた似顔絵着きだった。
「………………」
師匠ナイス不在!!!!!!
ぃよっしゃぁ!!と爆に見えないよう、こっそり小さくガッツポーズをした。
思えば、カイが激のした事でこれほどまでに讃えたのは、これが初めてだった。
「あぁ、なんだか留守みたいですねぇ」
「お前、なんだか晴れ晴れとしてないか?」
「気のせいですよ」
すごい笑顔で言うカイ。
「そういえば、気分が悪いとか言ってなかったか?」
「治っちゃいました。どうやらさっきの場所が、風水的に私に合ってなかったみたいですね」
すごい笑顔ですごい事を言うカイ。
「前から、放浪癖のあるヤツなんだ。あいつは……」
そんなカイを不審に思う事無く、爆は溜息を吐く。
「全く、困りますよね」
うんうん、と爆に合わせて相槌打つカイ。
「まるで、前から知ってるような口ぶりだな」
爆がカイを見て言う。
「いやぁ、なんとなくそうじゃないかなと思っただけです」
あはは、と笑うカイだが、背中に嫌な汗を沢山かいていた。
で、本人不在のまま、爆達は勝手に資料を漁っていた。いつもの事だと爆は言う。
ちなみに、後でわかる事だが、爆が来る時に激はカイにおつかいなり命じて払っていたみたいだ。別にカイが居候するだろう事を見越してではなく、ライバル増やすのが嫌なだけだったので、ちょっとした師弟戦争が勃発するが、あくまで後の話である。
「そろそろ飯時だな」
「そうですね」
帰るのかな、と思ったが。
「ある物で、何か適当に作るか」
まぁ、そんな流れになるんじゃないかな、とある程度覚悟していたから、今度は慌てなかったけど。
そして、食事つくりとなった。
冷蔵庫を開けると、中は結構充実していた。卵を手に取るカイ。
「爆殿、オムライスにします?」
野菜箱を覗き込んでいる爆に言う。
爆は、振り返る。
「…………」
「爆殿?」
「いや、それでいい。なら、俺はスープでも作るか」
「はい」
と、その時ドアの開く音がした。
「誰か来たみたいだな」
「あ、私が来ます」
爆の返事を待たず、カイは行った。激かもしれないからだ。
見たら、やっぱり激だった。
「師匠!」
と、カイは小声で叫ぶ(器用な)。
「あの、今爆殿が来ていて……」
なので、初対面として扱ってください、と。
言おうとしたのだが。
どん!
何か、衝撃みたいなものが腹に響く。
「………?」
何が起きたか、解らなかった。本当は解っていたけど、そうだと認めるのが嫌だったのかもしれない。
視線を、下に移す。
自分の腹に、棍棒が突き刺さって貫通している。
それを持っているのは。そうしたのは。
「………………」
機械のように無表情の、激だった。
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