現在の状況を整理しよう。 チャラが2人の前に現れ、自分の主の元へ来て欲しいと申し立てた。 爆はそれを拒んで、カイも爆に他所へ行って貰っては困ると思った。 で。 カイは人質になっていた。 ……………………… 誰カタスケテ!!!!(カイの叫び) 強いて言うのであれば、大きすぎる首輪とでも言えばいいのか、けれども20センチ程先の刃は、その間の空気すらも鋭利なものへと変えていた。 これだけの大きさの鎌を、微動せずに抱え続けているチャラの力量は大したものである。鎌を持っていない手は、カイの手首を一括にして掴んでいた。手錠の代わりだ。 「……人質とはまた、随分陳腐な手段に出たものだな」 「どうして陳腐になったかというと、それはそれだけ成功率が高いからでしょう。 いかんせん、僕はこういった事に美学を踏まえて行動する嗜好はありませんから」 カイのすぐ後ろ。若干チャラの方が背が高い為、黒尽くめの服のお陰でまるでカイの影のようだった。 しかし、チャラは飄々とした笑みで、カイはひきつった顔で首の前の鎌を見ては、冷や汗をだらだら流していたのだった。 「カイを離せ」 「えぇ、貴方が着いて来てくれるのであれば、すぐにでも」 脅しには屈しない、という態度にも、チャラの姿勢は崩れる事は無い。 「爆殿!言う事を聞いては……」 「貴方は黙って下さい」 「いけませえぇぇ〜〜………んん〜〜…………ッッ!」 ググ、と刃が近くなるにつれ、カイの声は小さくなる。 カイの首が胴体とサヨナラするまで、あと10センチ。 爆は考える。 今ここで、チャラの要求を飲み、カイを解放させるのは簡単だ。 簡単だが……… (………相手の策略通りで実に気に食わん!!!) 爆、プライドと夢で生きる存在であった。 第一、純粋に雹のところへ行くのも嫌だった。 一度、何も知らない頃招かれた事(豪勢な食事に吊られた)があったが…… 可能であるなら、忘れたい記憶の常にベスト3入りだ。 次に一番簡単なのは、カイをほっといてこのまま帰る、という実にシンプルかつ被害の無い(自分には)方法だが。 (これだけされた相手に、何もしないで帰るのも、癪だ……) 爆は「恨みは億万倍返し」という親の教えを思い出した。 「別に考え込まなくても良いですよ。僕の役目は、貴方を雹様の所へ連れて行くだけですから。 その後留まるか帰るかは爆君に委ねます」 「そんなのでいいのか」 「えぇ。貴方と一日過ごしたのなら、その後3ヶ月はその思い出でどんぶりメシ3杯は軽いですからね。雹様は♪」 それはそれで何か嫌だ。具体的な事があげられないが。 (だとしたら……このままチャラについて行って、向こうで暴れる方法も……) そして雹は、性格と人格と社会性と理性と常識とモラルに問題が山積みな人物だが、料理の腕(だけ)は星を5つあげても良い程だった。 爆の中で、雹の所でご馳走になって暴れて帰る。というテロ活動の計画が、チキチキと組み立てられてたりする。 その様子を、チャラは窺えた。 あぁ、これで少なくとも3ヶ月は、爆君連れて来いコールから逃れられる……!とそっと目を拭った。 ちなみにその間は、逆に話しかけると「煩い!!!」と、もれなく鋭利な角があったりする彫刻等が飛んでくるので、注意が必要だ。 その様子を、カイも窺えた。 いかん!このままでは爆殿が連れて行かれる……!と密かに戦いた。 確かにこの状況下においては、一旦相手の誘いに乗って、というのが一番リスクが少なくて済む方法かもしれない。 が。 それでも爆殿が他の男の所に行くなんて嫌なんだい!!!!! ……所詮、人とは感情で動く存在であった。 何とかせねば。 その答えは、もう解ってる。 現在の原因であり唯一にして最大の要因は、自分が人質になってしまっている事だ。 故にそれを無くしてしまえばオーケー! ……………… って、どうやって!!!! 爆はチャラを、チャラは爆のみを見ているため、そんな風にカイが葛藤している事は知らない。 自分が逃げるには、この鎌をどうにかしないとならない。 手はチャラに掴まれている為、使えない。 ならば、蹴りのみか。 しかし何かを吹き飛ばすだけの威力を欲するのであれば、それ相応の力の反動を身体にかけなければならない。 もし仮に、律儀に反動をつけ、鎌を蹴り上げたとするなら、身体より先に首が解放される。斬られて。 カイの取るべき行動は決まった。 上半身をぶれる事無く、垂直に蹴りを繰り出す。 ……出来るだろうか。 いや。 しなければ。 どのみち、これくらいの事が出来なければ、ここで生きてもいつか近いうちに死ぬ(激か爆の起こす騒動によって)。 チャラの意識が爆へ向いてるのを確認し、精神の統一をはかる。 一回、大きく深呼吸をした後、カイはゆっくり目を閉じた。耳は体内の鼓動へ傾け、自分のリズムを知る。 邪念を遮り、音を遮断し、髪の先から足のつま先までに精神を張り巡らせ、足の裏で感じる土の感触が、まるで指先で辿るように明確になる。 強く掴まれている、手首も気にはならない。 タイミングはあえて図らず、身体や心の命じるまま。
カイはゆっくりと、足を上げた。
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