霧が晴れてきたのは、きっと爆がした事だ。 それならとりあえずは、爆はまだ捕まってはいないみたいだ。 ならば今度は探す事に専念する。 ……自分の視界に確認する事は出来なかったが、それが本当に、こっちの方向に爆居ないのか、それとも霧が隠しているのかを決めるには、まだ早いようだった。 と。首筋に悪寒を感じた。 まるで、少し遠くから鋭利な刃を向けられているみたいに----って本当に向けられていた。 それでも幾分距離はある。ぎょ、となりながらも、保身の為に身を引き、攻撃の為に体勢を構え、ふと気づく。 自分がそうまでしているのに、相手から何の反応も無い。 鎌の部分が、まるで糸で吊らされているように微動だすらしなかった。 ----待っている?何を…… 効力を失って居ない爆の産んだ魔力の風が、視界をよりクリアにしていく。 鎌の刃だけだったのが、柄が見え、それを掴む腕が見え。 そして、チャラが見えた。 しかし----見せているのは、後ろ姿。 まさか持ち間違えた、なんて事はあるまい。鎌の向きが逆なのだ。 チャラの意識が、カイにあるように思わせる為に----!! と、言う事は-----!! 「爆殿!危ない!」 「!?」 この時、すでに爆はペンタグラムを切り、術を発動させてしまっていた。。 魔方陣が、煌々とした朱い色を放つ。 そして、そこから一直線に業火が迸る。 カイにそれにはっきり見えた。勿論、チャラにも---- 「そこですか♪」 嬉々としたチャラの声。高速の移動は濃霧に軌跡を残した。 ----術を発動し終わった瞬間は、どうしても僅かな隙が生まれる。 それは、チャラが爆のごく間近に迫るのに、十分な時間だった。 「ッ!」 殺られる、と思った。 チャラの腕が背中に回り、そのままガクンと持ち上げられ、足が宙に浮く。 とても不安定な、けれど傍から見ればワルツのフィナーレを飾るような、ピン、芯が通った姿勢だ。 それは、爆が逃げ出す隙がないのを意味している。 完全に霧が晴れた。 すっかり暮れた空に、チャラの背後に鎌が細い月のように映える。 「………貴方は僕の主の想い人だから、僕も手を出さない------ とでも、思いましたか?」 「………………」 いつもの柔和な笑み。 こんな状況でも。 チャラの双眸が薄く現れた。 カイが駆け寄るのが、後方で見れた。 「爆殿ー!」 「-----その通りですよ」 「何-----ッ!?」 倒れないように、と注意を払って、チャラは爆を解放した。 まず最初にカイを狙ったのは、爆に対してのフェイクだ。 そして。 爆を捕えたのは----- 「あれ……?」 カイが爆の元まで来たら、あっさりチャラは爆から離れてしまった。 おかしいな、と首を捻ろうとしたが----出来なかった。 何故なら。 「では、改めて----」 その首の直ぐ前に、鋭利な刃が刃を向けていたから。 簡単なパズルだった。 爆を捕まえる為には、カイを使えばいい。 その為にカイを捕まえるのには、まず、爆を。 「僕と一緒に、雹様の所へ来てください。 でないと」 ギラリ、とした光は自らが発し、まるで殺める事が出来るのだと、主張しているようだった。 「この人の安全は、保障出来ませんよv」 鎌でカイの首を戒めながら、チャラはやっぱりいつもの微笑で言うのだった。
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