防御の為の宝石を買った後は、命の源である食料を求め店をはしごする2人だった。 「ほう、ライ麦パンが安いな。質もいいし。 カイ、明日の昼食はこれのサンドイッチにしよう」 「……………」 「カイ?」 「……………」 「----えいッ」 ぷしッ!と爆は先ほど買ったオレンジの皮を剥き、カイの目の前で潰した。 経験のある方ならよく解ると思うが、これは痛い。ていうか沁みる。 「のぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」 人の目を憚ったが気にもしていられない程である。 「カイ、どうしたそんなに呆けて」 「あ、え、と………」 そう言われて爆を直視出来なかったのは、気まずさもあったが大部分は涙の為だ。 「もう買うが他に欲しいパンはないか?」 「ありません……」 そうか、と返事を返した爆はレジへと向かった。 パンを買った爆とカイは今日はそのまま帰路に着く。 「………あの」 「何だ」 「爆殿は……気にならないんですか?」 「だから、何がだ」 「アリババさんが言ったように……その、私の事が」 「気にならないと言えば嘘になるが、無理強いしてまで聞くのは好きじゃない。 最初の時もちゃんと言ったはずだが?」 と、爆は首を捻り、少し後ろを歩くカイを見た。 射抜く視線の強さは、後ろめたい事がてんこ盛りのカイの心臓にあまり良くない。 -----最後のセリフは何時もの通りだったが、けれどもそれまでのアリババとのやり取りで、爆が自分の事を汲み取っているのが知れた。 そういう人にこそ、ちゃんと本当の事を言わないとは思うのだが…… それでもやっぱり、怖いのだ。 偏見や差別はしないと、確信すら出来るが、それでも知った後と前では何かが違ってしまうに違いない。 良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。 ----後者だった場合を想定すると、喉が塞がる。 ……それと。 何よりも、単純に、告げるのが嫌だというのが一番大きい。 いっその事、離れてしまうのがいいのかもしれないけど-----それも嫌だのだ。 自分の我が儘さに辟易する。 「----いいか、カイ」 思考の袋小路に嵌り自己嫌悪までしているカイに、爆は少し呆れて言った。 「貴様がどんなにおかしい体質をしていたとしても----例えば水に濡れると女になったり、異性に触ると干支になったり、身体から唐突に火が出るようなヤツでも---- そんなのはだな」 語る爆の顔は真剣だ。 「そんなのはまだ可愛い方だ。少なくともオレの周りでは」 「…………ハイ」 よく解らぬまま、カイはなんとなく頷いてしまった。 (と、言うか爆殿の周りって、どんな人が居るんだろう………) 少なくとも、激は含まれてはいるだろう。だとしたら、激に準じる様な人物か。 ……カイはそんな人たちから爆を護れるかどうか、心配になった。 ついでに爆が自分を見捨てないかも心配になった。 「それにな。世の中に可笑しくないヤツなんて居ると思うか?皆どこかは変なんだ。 貴様だって、オレの事を変ってるなぐらいは思った事あるだろう?」 「はい。 …………………… い、いいえ!!そんな事は決して誓って!!!」 「別に弁解するな。それで当たり前なんだ」 カイの慌てっぷりが可笑しかったのか、爆の頬も緩む。 「貴様が変だとしても、それはとても些細な事だ。 だから、オレは敢えて聞かないんだ」 「………それでは」 カイはゆっくり言葉を探して爆に言う。 「私は、このままでいいんですね?」 「そうだ」 「それで、言いたくなったら、言ってもいいんですか?」 「勿論だ」 そうか……それで、いいんだ。 今まで胸に痞えていた物が落ちていく感覚に見舞われる。くすぐったいような、心地よい解放感だ。 自分で、わざわざ難しく考えていただけだったんだ。 「----爆殿」 カイは数歩進んで爆と並んだ。爆の顔を見れるように。 言える。 師匠の事は言えないけど、体質の事や……向けている感情の事。 「私は………」 と、その時。 ひゅ、と軽い眩暈に襲われた。 武道を心得る自分に貧血は在り得ない。 と、いう事は外部的要素によるものだ。 カイはこの感覚に覚えがある。 そうだ、師匠に瞬間移動の術をかけてもらった時----- そう思って辺りを見回せば、先ほどまで歩いていた賑やかな商店街は跡形も見えない。 何処かの荒地が、遠くに見えるのは多分朽ちた建物。 「ば、爆殿?」 カイはもう一度名前を呼んだ。 「カイ----すまんな。 説明をする前に、現れた」 何が、誰が、と問う前に。 「お久しぶりですね、爆君。雹様が会いたがって、毎日大変なんですよ?」 「やはり、チャラ、貴様か」 黄昏の闇と同化しそうな黒衣を纏い、柔和な笑みを浮かべた青年がそこに立っていた。
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