仔兎のワルツ
 〜第12話〜



 防御の為の宝石を買った後は、命の源である食料を求め店をはしごする2人だった。
「ほう、ライ麦パンが安いな。質もいいし。
 カイ、明日の昼食はこれのサンドイッチにしよう」
「……………」
「カイ?」
「……………」
「----えいッ」
 ぷしッ!と爆は先ほど買ったオレンジの皮を剥き、カイの目の前で潰した。
 経験のある方ならよく解ると思うが、これは痛い。ていうか沁みる。
「のぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
 人の目を憚ったが気にもしていられない程である。
「カイ、どうしたそんなに呆けて」
「あ、え、と………」
 そう言われて爆を直視出来なかったのは、気まずさもあったが大部分は涙の為だ。
「もう買うが他に欲しいパンはないか?」
「ありません……」
 そうか、と返事を返した爆はレジへと向かった。
 パンを買った爆とカイは今日はそのまま帰路に着く。
「………あの」
「何だ」
「爆殿は……気にならないんですか?」
「だから、何がだ」
「アリババさんが言ったように……その、私の事が」
「気にならないと言えば嘘になるが、無理強いしてまで聞くのは好きじゃない。
 最初の時もちゃんと言ったはずだが?」
 と、爆は首を捻り、少し後ろを歩くカイを見た。
 射抜く視線の強さは、後ろめたい事がてんこ盛りのカイの心臓にあまり良くない。
 -----最後のセリフは何時もの通りだったが、けれどもそれまでのアリババとのやり取りで、爆が自分の事を汲み取っているのが知れた。
 そういう人にこそ、ちゃんと本当の事を言わないとは思うのだが……
 それでもやっぱり、怖いのだ。
 偏見や差別はしないと、確信すら出来るが、それでも知った後と前では何かが違ってしまうに違いない。
 良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。
 ----後者だった場合を想定すると、喉が塞がる。
 ……それと。
 何よりも、単純に、告げるのが嫌だというのが一番大きい。
 いっその事、離れてしまうのがいいのかもしれないけど-----それも嫌だのだ。
 自分の我が儘さに辟易する。
「----いいか、カイ」
 思考の袋小路に嵌り自己嫌悪までしているカイに、爆は少し呆れて言った。
「貴様がどんなにおかしい体質をしていたとしても----例えば水に濡れると女になったり、異性に触ると干支になったり、身体から唐突に火が出るようなヤツでも----
 そんなのはだな」
 語る爆の顔は真剣だ。
「そんなのはまだ可愛い方だ。少なくともオレの周りでは」
「…………ハイ」
 よく解らぬまま、カイはなんとなく頷いてしまった。
(と、言うか爆殿の周りって、どんな人が居るんだろう………)
 少なくとも、激は含まれてはいるだろう。だとしたら、激に準じる様な人物か。
 ……カイはそんな人たちから爆を護れるかどうか、心配になった。
 ついでに爆が自分を見捨てないかも心配になった。
「それにな。世の中に可笑しくないヤツなんて居ると思うか?皆どこかは変なんだ。
 貴様だって、オレの事を変ってるなぐらいは思った事あるだろう?」
「はい。
 ……………………
 い、いいえ!!そんな事は決して誓って!!!」
「別に弁解するな。それで当たり前なんだ」
 カイの慌てっぷりが可笑しかったのか、爆の頬も緩む。
「貴様が変だとしても、それはとても些細な事だ。
 だから、オレは敢えて聞かないんだ」
「………それでは」
 カイはゆっくり言葉を探して爆に言う。
「私は、このままでいいんですね?」
「そうだ」
「それで、言いたくなったら、言ってもいいんですか?」
「勿論だ」
 そうか……それで、いいんだ。
 今まで胸に痞えていた物が落ちていく感覚に見舞われる。くすぐったいような、心地よい解放感だ。
 自分で、わざわざ難しく考えていただけだったんだ。
「----爆殿」
 カイは数歩進んで爆と並んだ。爆の顔を見れるように。
 言える。
 師匠の事は言えないけど、体質の事や……向けている感情の事。
「私は………」
 と、その時。
 ひゅ、と軽い眩暈に襲われた。
 武道を心得る自分に貧血は在り得ない。
 と、いう事は外部的要素によるものだ。
 カイはこの感覚に覚えがある。
 そうだ、師匠に瞬間移動の術をかけてもらった時-----
 そう思って辺りを見回せば、先ほどまで歩いていた賑やかな商店街は跡形も見えない。
 何処かの荒地が、遠くに見えるのは多分朽ちた建物。
「ば、爆殿?」
 カイはもう一度名前を呼んだ。
「カイ----すまんな。
 説明をする前に、現れた」
 何が、誰が、と問う前に。
「お久しぶりですね、爆君。雹様が会いたがって、毎日大変なんですよ?」
「やはり、チャラ、貴様か」
 黄昏の闇と同化しそうな黒衣を纏い、柔和な笑みを浮かべた青年がそこに立っていた。





カイ、思いっきり邪魔されたの巻き。
チャラさん登場でーす!!次こそバトりまーす!!

しかし毎回カイが痛い目に遭ってると見えない事も無い。(ていうか遭ってるでしょう!BYカイ)