今の炎様は、何と言うか一言で表すとギャフンと記すのにぴったりな状態だ。
石ころ一つ動かすだけで、歴史は変わってしまうというのに、思いっきり自分に関係がある人に関わってしまった。今、自分の知っている世界では、何がどうなってしまっているのか。
<姉上!姉上ー!!>
事態を解決出来そうなただ1人を必死で呼んでみるが、応えはない。
そう易々とコンタクト出きるとは思っていないが……嫌な汗が伝う。
一方の爆は、自分がそんな重大な節目に立ち会っているとは知らず、すやすやと寝てしまった。罪のない寝顔ではあるが。
苦笑して、首が据わるように抱きなおす。
と。
鈍いながらも鋭い気配のようなものを感じ、反射的に身を隠し、自身の気配も消した。爆も、包み込むように。
それはレーダーで探査するように、上っ面を撫でただけですぐに炎を素通りしていった。
ほ、と胸を撫で下ろす。
そして、考えてみると。
あれは、自分だ。
目覚めてすぐ、”真”を探していた。
「…………」
零の樹を作った。あえて敵を生み出す事で、ポテンシャルを早く高めようと。
でも、それは建前だ。本音は、この世界を壊してやりたかった。
自分の大切な人を奪ったこの世界を、めちゃくちゃにしてやりたかっただけだ。
今、こうしている間に、この世界で零の樹が生長しているのだと思うと、胸がキリキリと痛む。
それらが生み出す哀しみに、一番巻き込まれるのは、他ならぬこの子だから。
かと言って、自分が手を出すわけにはいかない。断じて。
それこそ、歴史が変わってしまう。
愚かな事をしたと思う。
でも、無意味ではなかったと言ったら、それの罪で何か罰を受けないとならないだろうか。
今の自分と爆の関係は、決して悪いものではないと思うから。
慎重に吟味し、爆をちゃんと育ててくれそうな院を見つけ、その軒先にそっと置いてきた。
手渡したりはしない。爆が探し出すといけないから。
目の前の爆は、まだ眠っている。動き出すためのエネルギーを溜め込んでいるみたいだ。
そっと触った頬は、マシュマロみたいに柔らかい。
今はまだこんな赤ん坊が、10年足らずでこの世界と、自分を救う。
最後に優しく頭を撫でて、炎は其処から立ち去った。
「バイバイ、爆」
そして、自分の爆に会いに行く。
着いたのは、サーだった。
ファスタに座標を決めた筈だが、ずれたようだ。なにせ、初めてだから。出来ればこれっきりにしたい。
「あれー?炎じゃねぇか。間が悪いな、今現郎に知らねぇって言った所で」
「……そうか……」
自分の気配を察知したのか、すぐさま激が現れ、そんな事を言う。
激だけだが、その態度を見ると自分の扱いは変わっては無いみたいだ。
と、言う事は自分が過去に遡り、爆を保護したのは決められた出来後だったのだろうか。
「それでだな、炎」
にや、と人の悪そうな笑みを浮かべて激が言う。
「俺さ、爆の居場所知ってたりするんだけど。情報料と口止め料、どうする?」
吹っかける気だ、この男。
さぁ、と畳み掛ける激に、炎は、
「……いや、いい。今日は会わない」
「へー。ついに爆離れ?」
「いや……」
目の前の景色を見る。
かつて壊そうとした世界。
綺麗だ、と思う。
当たり前だ。爆を育てた世界なのだから。
そして、爆が護った世界。
自分がしようとしている事は、あまりに大きい。また、迷ったり間違えたりする事もあるだろう。
そんな時は、この光景を思い出さないとならないのだろうな、と炎は思った。
「----炎様、この頃爆に会いに行きたがりませんね」
「そうか?」
「そうですよ」
尋ねなおす炎こそが可笑しい、と言うようにきっぱり断言する。
「いや、ただな」
炎は一旦ペンを置き、空を見上げる。
ただ、自分達はそんなに柔な絆ではないと。
思い出せたから。
<END>
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