30.バイバイ





 今の炎様は、何と言うか一言で表すとギャフンと記すのにぴったりな状態だ。
 石ころ一つ動かすだけで、歴史は変わってしまうというのに、思いっきり自分に関係がある人に関わってしまった。今、自分の知っている世界では、何がどうなってしまっているのか。
<姉上!姉上ー!!>
 事態を解決出来そうなただ1人を必死で呼んでみるが、応えはない。
 そう易々とコンタクト出きるとは思っていないが……嫌な汗が伝う。
 一方の爆は、自分がそんな重大な節目に立ち会っているとは知らず、すやすやと寝てしまった。罪のない寝顔ではあるが。
 苦笑して、首が据わるように抱きなおす。
 と。
 鈍いながらも鋭い気配のようなものを感じ、反射的に身を隠し、自身の気配も消した。爆も、包み込むように。
 それはレーダーで探査するように、上っ面を撫でただけですぐに炎を素通りしていった。
 ほ、と胸を撫で下ろす。
 そして、考えてみると。
 あれは、自分だ。
 目覚めてすぐ、”真”を探していた。
「…………」
 零の樹を作った。あえて敵を生み出す事で、ポテンシャルを早く高めようと。
 でも、それは建前だ。本音は、この世界を壊してやりたかった。
 自分の大切な人を奪ったこの世界を、めちゃくちゃにしてやりたかっただけだ。
 今、こうしている間に、この世界で零の樹が生長しているのだと思うと、胸がキリキリと痛む。
 それらが生み出す哀しみに、一番巻き込まれるのは、他ならぬこの子だから。
 かと言って、自分が手を出すわけにはいかない。断じて。
 それこそ、歴史が変わってしまう。
 愚かな事をしたと思う。
 でも、無意味ではなかったと言ったら、それの罪で何か罰を受けないとならないだろうか。
 今の自分と爆の関係は、決して悪いものではないと思うから。




 慎重に吟味し、爆をちゃんと育ててくれそうな院を見つけ、その軒先にそっと置いてきた。
 手渡したりはしない。爆が探し出すといけないから。
 目の前の爆は、まだ眠っている。動き出すためのエネルギーを溜め込んでいるみたいだ。
 そっと触った頬は、マシュマロみたいに柔らかい。
 今はまだこんな赤ん坊が、10年足らずでこの世界と、自分を救う。
 最後に優しく頭を撫でて、炎は其処から立ち去った。
「バイバイ、爆」
 そして、自分の爆に会いに行く。




 着いたのは、サーだった。
 ファスタに座標を決めた筈だが、ずれたようだ。なにせ、初めてだから。出来ればこれっきりにしたい。
「あれー?炎じゃねぇか。間が悪いな、今現郎に知らねぇって言った所で」
「……そうか……」
 自分の気配を察知したのか、すぐさま激が現れ、そんな事を言う。
 激だけだが、その態度を見ると自分の扱いは変わっては無いみたいだ。
 と、言う事は自分が過去に遡り、爆を保護したのは決められた出来後だったのだろうか。
「それでだな、炎」
 にや、と人の悪そうな笑みを浮かべて激が言う。
「俺さ、爆の居場所知ってたりするんだけど。情報料と口止め料、どうする?」
 吹っかける気だ、この男。
 さぁ、と畳み掛ける激に、炎は、
「……いや、いい。今日は会わない」
「へー。ついに爆離れ?」
「いや……」
 目の前の景色を見る。
 かつて壊そうとした世界。
 綺麗だ、と思う。
 当たり前だ。爆を育てた世界なのだから。
 そして、爆が護った世界。
 自分がしようとしている事は、あまりに大きい。また、迷ったり間違えたりする事もあるだろう。
 そんな時は、この光景を思い出さないとならないのだろうな、と炎は思った。




「----炎様、この頃爆に会いに行きたがりませんね」
「そうか?」
「そうですよ」
 尋ねなおす炎こそが可笑しい、と言うようにきっぱり断言する。
「いや、ただな」
 炎は一旦ペンを置き、空を見上げる。
 ただ、自分達はそんなに柔な絆ではないと。
 思い出せたから。




<END>





とりあえず炎様に昔を振り返ってもらって落ち着いてもらおうって思った。
いや、原作設定見返すと爆に会わせろ!な炎様ばっかりやし。
これで少し大人になったかしら。

でもパプワの方でシンちゃんがパプワに会わせろ!ってガンマ団の中心で叫んでます。
こっちもどうにかしないとなぁと思いつつもうちょっと遊んでみる。