炎の、爆への所へ逃避行防止の為のシールドは、改良に改良を加え、いちいち後ろに(改)をつけたら、それがざっと10個は並ぶくらいだ。
まぁ、裏を返せばそれくらい炎はそのシールドを乗り越えて爆の元へと来ている訳だが。
「----何故だ!書類には全部目を通した!するべき事もした!なのに、何故爆の元へと行ってはいけないとお前は言う!」
激昂する炎に、現郎は宥めるように言ってみるけど多分こんなもんじゃ宥められないだろうな……という感じで語りかける。
「行き過ぎなんですよ、炎様は。それに、特に用も無いでしょう?」
「用が無ければ会いに行ってはいけないのか!!」
上等文句で責める炎様である。
現郎は言う。
「普通、何かのトップの存在は、平和の象徴としてどっかり座ってもらってナンボでしょう。あっちこっちうろつかれたのでは、堪りませんよ。お父上もそうでしたでしょう?」
「父上は側に母上が居たから何処にも行かなかったんだろうが!」
「…………」
しまった否定できない。
「とにかく。今日は一日『此処で』休養してください。星間テレポートは体力も精神力も消耗するんですから」
「そんなもの、爆に会えば……」
「帰った時の事を話しているんです」
帰った時には、消耗している&爆から離れちゃったで1時間くらい休ませなければ使い物にならない。
「王の為に民が居るのでなく、民の為に王が居る事を自覚して下さい」
「そうだな………」
と、一瞬物分りのいい振りをした炎だが。
「----そのうちにな」
にやり、と笑い、その瞬間炎の姿がブラシで掛けたように薄くなる。
「………」
が。
すぐに、元に戻る。
「…………」
炎が渋い顔をする。
「また変えたのか……」
「えぇ、勿論。
今回のは今までとは一味違いますよ。従来の結界は能力の無効化を図ったものですが、今回のは能力の流れを一定空間内で循環させる……まぁ、ドラ○もんのヒラリマントみたいな感じです」
「く……!ドラ○もんか……!」
ならば仕方ない、と臍を噛む炎様である。果たして噛むのに相応しい場面か?
「どうせなら、イライラしているより開き直った方が精神衛生上にいいですよ。炎様」
と、現郎は部屋を後にした。
炎はどっかりと椅子に腰を降ろした。
(おのれ現郎め……年々容赦無くなってきたな)
それは取りも直さず、炎が毎年全く自分を改めないという事だ。
しかし!
自分とて最強の称号を背負うものである。こんな虫かごのようなシールドに監禁されてては、その名が廃る。
何より、会って爆に報告して、「よくやっているな」と褒めてもらい得ない!
行使する能力の割には目的が小さい炎様である。
……よし。
炎は決意する。
ヒラリマントがなんだ。そんなもの、爆に会いたい気持ちさえあれば乗り越えられる!
(とは言え、今までのが通用しないとなると、根本的から構造しなおす必要があるな……
……まず、シールド自体をどうにかしないと)
炎は軽く目を綴じ、必死に頭を巡らせた。
さて、一方の現郎。
彼は彼で考えていた。これでいいんだろうか、と。
かつては、ただ言われるがままに仕えていた。そうすれば、炎の願いが叶うのだからと。
今はもちろんそう思ってなど居ない。
時には叱咤し、厳しく接しなければならない。それこそ、炎が夢を果たす為に。それが側近である自分の務めだと、ちゃんと自覚している。
どうも炎は爆に甘えている。真に似ているからもあるが、それだけでもないのがまた厄介だ。
いい加減、爆離れしてくれないと、こちらとしても困るのだが。
その為、いつもは目を瞑っていた休日のお出かけにも、規制をかけてみたのだが……
(少しやり過ぎだろうか……)
あまり断ち過ぎて、屍化しても困るし。
やはりこういうのは徐々に段階上げして、慣れさせた方が当人にとってもストレスが少ないのでは。
いや、これくらいのストレスでへこたれては困る。でも……
うろうろと悩んでいる辺り、現郎も炎に甘い。幼い頃から居るせいだろうか。
……今日の所は、自分同行で2時間くらい、ということで。
現郎は、シールドを解除した。
そしてここで偶然が起こる。
現郎が解除したと同時に、炎もシールドに干渉し、またテレポートを実行させていた。コンマ1秒も違えずに。
電灯で例を取ると、あれは付ける時も勿論だが、消す時にも電力を使うのだ。
つまり、同じものに対して違う力が一度に掛かった訳で。
それがどのような効力を齎したのかは、定かではない。全く違うシールドを作ってしまったのか、術者にシールドの力が逆流したのか。
ともあれ、結果。
「炎様、2時間だけでしたら………
炎様?」
空の部屋を見て、もう行ってしまったのか、と軽い溜息と共に自分もまた移動した。
しかし。
「……此処は、何処だ……?」
実は結構な割合の人が呟く言葉を、炎は発していた。
何処だ、と言うか……多分、ファスタだ。爆は場所不特定な身分だから、炎はこの世界に降りる時は、まず、此処にしている。そしてそれから爆を探すのだ。
同じ場所に降りた筈だが……何か違和感がある。いつもの森の中の筈なのに、別の森のような気がする。
とりあえず、町へ行けば、何か解るかもしれないと、早速移動して。
堪らず、絶句。
自然の中だから、はっきり解らなかったのだ。けど、こうして人口の建造物を見て、理解出来た。
町並みが違う。明らかに。
しかし、違う町という事ではない。地形は同じだし、見た事のある建物だって多くある。
敢えていうなら。
自分が居た時や、こうしてたまに訪れる時に増えて行った物が、無いのだ。
まるで、時を遡ったみたいに。
「………」
まさか。そんな。
だいたい、自分は空間を移動したのだ。時間を越えたつもりはない。
……つもりはないのだが……さっきの瞬間、何かいつもと違う感じがしたような……
……………
此処は、爆が住んでいた町で。
だとしたら。
居るのだろうか。昔の爆が。
自分の星が平和だったなら、傍らに居ただろう小さい爆が。
なんてうっかり希望みたいな妄想みたいな事を思ったが、そもそも昔とは言ってもそんな都合よく程よい遡り具合だという保障も無いし。過去だという確証も無いし。
もしかしたら大地震でも来て、建築物が大破して今は復興の最中……な訳ないか。ごくごく普通に暮らしている人々を見て、そう思った。
少し違う光景に戸惑いながらも、方向感覚を頼りに爆の家を目指す。
で、着いた。
やはり、自分が知っている物より真新しい。
そしてどうも人が住んでいる雰囲気が無さそうだ。
(と、言う事はまだ爆は……)
産まれていないのだろうか。
そう思うと、一気に疲労と不安が押し寄せて来た。
自分は、元の時代へ帰れるのだろうか。時空移動の術なんて、知っている訳が無い。
何か情報を掴むとしたら、針の塔が便利だが、昔の自分や知り合いにうっかり会ってタイムパラドックスでも起こしたら世界が破滅してしまうかもしれない。だったら、下手に行かない方が無難……だが。
此処に居ても事態が進む訳でも無く、良くなる訳でも無く。
(一体、どうすればいいんだ……)
タイムスリップなんて今までに経験が無く(当然)、誰もそうなった時の対処法も教えてくれなかった(当然)。
こういう時は。
状況に慣れるまで、じっとするに限る。闇雲に動いてもパニックを誘うだけだろうから。
炎は爆の家(予定)の軒先に、腰を降ろした。
(無事に帰れるんだろうか……)
炎の不安に答えられる者は、誰も居ない。
<To be continued>
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