ギャンブル




 秋である。
 秋と言えば、学校の催し物の花形である、運動会がある!
 早い所では夏休み前から練習に励み、休み中でもその為に学校に来る事も、しばしば。
 皆、自分のチームの為に一生懸命、という言葉が相応しい。
 しかし、それはあくまで表の話。
 何事にも裏は付き物。
 こちらはこちらで……色々と楽しい事があるようだ。


 この学校には何時からかは定かではないが、運動会の種目を賭けの対象に使う伝統(?)みたいなものがある。
 つまり、リレーで誰が一番になるか、個人優勝は誰になるか、チームは何処が優勝するのか。
 とは言っても、競馬か何かみたいに、大本がいる訳でもない。個人個人が勝手にやっているだけだ。
 賭けの代償も可愛いものだ。
 例えば、食堂の食券何日分、だの、レポートの作成依頼だの。
 好きな子に告白する優先権、デートの約束、なんていかにも青春なものある。
 ここに居る3人も、また然りであった。
「しかし……参った事になりましたね……」
 闇に紛れ込みそうな声なのは、デッド。
「本ッ当、困ったことになっちゃったよね♪」
 本当に困ってるんか、とツッコミを入れたいセリフのライブ。
「なぁー、どうするよ。変えるか?もう、俺達だけだってよ」
 頭の後ろで手を組んで、少し悪ぶってるポーズのハヤテ。
 此処で言う、デッドの”参った事”と、ライブの”困ったこと”と、ハヤテの”どうする”は、皆先の賭けに対する事であるのは、言うまでも無いと思う。
 夕暮れの教室。真ん中の列の机に凭れている3人の影は、廊下側の壁にまで伸びている。
「いえ……僕はこのままで行きます」
「だよねー、これで勝ったら、ボク達が勝ち独り占めだしv
 ハヤテは?変えるの?」
「うんにゃ。デッドが変えねぇってんなら、俺も無しだ」
 ハヤテはニヤリ、と不敵な笑みを浮かべ、
「何か、策があるんだろ?」
「……えぇ、まぁ」
 得意にもならず、抑揚無しに答える。
「俺は、お前を信用すっけど……」
 ハヤテは窓に近寄った。
 声がしたからだ。
「……どうにか出来んのかー?アレ」
 ハヤテの指す先には、”参った事”であり、”困ったこと”であり、”どうする”があった。




 爆が出る種目は、50Mハードル。それと、玉入れである。
 運動会の種目は、2種類ある。一つは、50Mハードルのような正規の種目。で、もう一つは玉入れのような、お遊びの種目である。
 競うだけではなく、楽しむ事も、という方針だ。
 今、爆はハードルの練習を終えたばかり。
 ハードルは結構得意だ。どういう訳か、普通で50M走る時より速い事があり、目撃したピンクに「アンタ何者!?」と言われたくらいだ。
 とりあえず、爆に課せられるのは、正しいフォーム。陸上部ではない爆には、やっぱりクセがあるようだ。
 それさえ直ったら、県大会も夢じゃない、と陸上部員から言われ、勧誘されたが、軽く断った。
 部活だので強要されてやるのは、好かない。
 ハードルを片付け、汚れた手を洗うため、手洗い場に行く。
 洗い流していると、気配を感じた。
 感じさせる為、わざと放出してるのか、動揺の為かは知らないけど。
 爆は、それを無視する事に決めた。
「…………」
「やぁ、爆」
 気配の主が現れた。
 夕焼けよりも尚赤い髪を靡かせて。
「あ〜……っと、」
 炎は目を泳がせ、
「オマエ、大分早くなったな。あの分だと、一位狙えるんじゃないか?」
「……………」
 爆は、無言だ。
 炎に冷や汗が一筋、流れる。
「俺は……最後の100Mリレーなんだが……」
「…………」
 やはり爆は無言だ。
 炎の冷や汗の量が増える。
 流れる水の音がやけに煩い。
「だから………」
「…………」
「応援、してくれる……か?」
「…………」
 キュ、と蛇口を捻る。
 数回手を振り、肩に掛けてあったタオルで拭く。
「爆………」
「……………」
 手を拭き終わり、ようやく爆は炎の方を向いた。
 ぱ、とそれまで薄曇りだった炎の顔に光が挿す。
 が。
「他にも応援してくれるヤツ、山ほど居るだろう」
「……………」
 素っ気無い返事。それだけ言って、後は炎には目もくれず去ったその場には。
 少々気の速早い木枯らしが、炎の後ろに吹いていた。




「へー、あの噂、本当だったんだな」
 窓の下の一部始終を見ての感想をハヤテが述べる。
 ここ最近流れ始めた噂----それは、運動会の大トリ、最高学年生による、100Mリレーを賭けにしている者達にとって、大変震撼させるものであった。
 あの炎が絶不調。それこそ、運動会にまでに治る見込みが無いくらい。
 最初は皆、悪質な情報操作だと思ったが。
 曰く。廊下の曲がり角で頭ぶつけてた。
 曰く。雑巾踏んで盛大にすっ転んだ。
 曰く。教師に4回くらい呼ばれて、ようやく返事をしたかと思えば、古文の授業で英語の教科書を出していた。
 ……これはどうも信憑性が高い情報らしい。
 そんな訳で、一番倍率の低い鉄板だった炎は、たちまち大穴になってしまったのだった。
 どうして炎がそうなってしまったのか。
 そこまでは定かではないか、炎と少々の付き合いがある者には解っていた。
 爆と喧嘩でもしたのだろう、と。
 実際、炎の異変なんて爆とイコールしても過言ではないのだ。
「でも、爆と何があったんだろうねー」
 机に座り、足をぶらぶらさせるライブ。
 一応、デッドはそれを軽く窘め、
「……とある筋から入手した情報によりますと……」
 うんうん、とハヤテもライブも興味しんしんだ。
「……炎が………」
 炎が?
「……爆君の分のケーキを、勝手に食べてしまったようです……」
 ゴゴン!!
 2人は放射線を描いて頭を打った。
「な、な、な、な、な………」
 ハヤテは脱力から回復しながら言う。
「何じゃそりゃ--------!!ガキか!
 いや!爆はまだガキだったな!!だからいいのか!!」
 そしてよく解らんノリで納得する
 ちなみに爆は、何だかこの時非常に不快になったとかで。
「ケ、ケーキ、って、ケーキ………」
 珍しくライブが二の句が告げないといった面持ちでひたすら呟く。
 そんな2人を尻目に、デッドの説明が続いた。
「……その、ケーキが少々厄介な物だったんですよ……」
「何だよ。時価100万円相当とか?」
 デッドはハヤテの下らない冗談は黙殺する事に決定を下した。
「そのケーキはその店オリジナルのショートケーキで……使用する苺は、その店と直接契約を結んだ農場で育てられた物に限られ……今年の分は、爆くんが買った時ので最後だったそうです……」
「……て、事は、ケーキ来年まで待たなくちゃならない、て事?」
「そうなりますね……」
「うあー……それだったら、少し怒りたくなるかもなー……」
 『同情』の2文字が脳裏を過ぎるハヤテ。
「それに、爆クン甘いモノ好きだもんねー。致命的だね、アハ☆」
 完全に他人事と笑い飛ばすライブであった。
「たまたま、炎がその日甘い物が欲しくなって、たまたま、その日家にはそのケーキしかなかったそうです」
「……運命の悪戯だよな……」
「ついでに言うと、運動会の準備で疲れているにも関わらず、炎が普段通りに爆くんにスキンシップを求めていたのも一役買っているそうです」
「それじゃー、運動会終わるまで仲直りは見込めねぇんじゃねーの?」
 暗に、やっぱり炎は止めといた方が、というハヤテのセリフに、デッドは口端を上げるだけの笑みを見せ、
「先ほど、貴方も言ったでしょう………?
 我に、策あり」
 薄闇が現れた頃、デッドが笑った。




 パン!パンパンパン!!
 早朝、花火が上がった。
 それは運動会開催の合図である。
 正門は紅白で彩られたゲートで飾られ、校庭には白いテントと、椅子が各スペースに整然と並んでいる。
 小石一つなく整備されたコースを見ると、いかにも今日は運動会ですよ、と言わんばかりだ。
「とうとうこの日が来たなぁ〜」
「そーだねー♪」
「で、例の事は」
「相変わらずー♪」
 ハヤテは、まず、最低学年の席を見た。同級生と楽しく話している爆。
 次に、最高学年の席を見た。同級生を戸惑いに与え落ち込んでいる炎。
「………なぁ」
「大丈夫ですよ……僕を信じてくれた事に対し、損は与えません……」
 どん底の炎を見て、あたかもそれが移ったように不安の色を見せるハヤテに、いたって平然と構えるデッドである。
 ハヤテにそう言う傍ら、デッドの肩……いや、手が動いている。
「何してんの」
「写真を取っているんですよ……伊達集の……」
 ここで言う伊達集とは、勿論某団体の方言青年ズではなく、最高学年4天皇の現郎、激、雹、炎である。ちなみに、用務員のチャラも何気に人気がある。
「普段のでも高値でさばけるんですが、やはり動きがあったりすると、値段もそれ相応……
 しかし……あの4人は……まぁ、炎は今日に限って隙だらけですが……
 自分の写真を売ってる主を突き止め、かならずモデル料を請求するので……売り上げ以上に……
 ですので、隠し撮りを……」
 それは怖いな……と、ハヤテは呟く。
「て言うか、オマエ何処で写真撮ってんだ?」
 一見すると、デッドは何も持っていない。
 その問いに、デッドはくい、と襟を向けた。
 襟と肩の部分の服の皺……に、実にさりげなく仕込まれた、小さなレンズ。
「……それ……」
「小さいですが、表情までばっちりです……」
 前言撤回。こいつの方がよほど怖い。
「あ、それなら爆撮って、あいつらにさばいたら?結構ふんだくられるぜ?」
 さも名案!と上げてみたのだが、デッドはゆっくり首を振り、
「そんな……飢えた狼の前に、子羊を放り出すような真似は……しません……
 それに、以前それを実行したヤツが居たのですが……後日、カメラを見るだけで怯えるようになったそうです……」
「………」
 告げられた内容の恐ろしさに絶句するハヤテ。
 何だよ、そいつに何があったんあだよ!?
 ていうかそんなに執着心凄いのかあいつら!!
 爆!ンなに呑気に笑っている場合じゃねぇぞ!!
 突っ込む事は山ほどあるのだが。
「……その彼に何があったのかは定かではありませんが……
 ……まぁ、僕も爆くんを隠し撮りなんかしたヤツ……オマケに、ご丁寧に自分から名乗り上げてくれたら……」
「はーい、ボクだったら次のステージのセットの一部にしちゃいまーす☆」
「……へぇ、そぅ……」
 ライブが雰囲気を明るいものに変えてくれたが……やっぱりなその内容と、相変わらずなデッドのオーラに、ハヤテはそう返すのが精一杯だった。
「貴方も人気があるので……後でポーズ取ってくださいね……
「へいへい」
 投げやり気味に、返事した。



 校庭の一部をロープで囲った選手控え場所。
 5分前からは選手以外は締め出されるが、それまでは各学年先輩後輩入り混じって選手に叱咤激励を飛ばす。
「よぉ、カイ!次の走り幅跳び、シャカリキに頑張れよ!!」
「師匠!私にそんな応援…………!!
 何を賭けたんですか」
「ん。食堂の桃のムース3個」
 微妙にしょぼい価値だった。
「カイー!アンタには白玉のお汁粉2杯かかってるんだからねー!!」
 ピンクがやや遠くで叫ぶ。
「わ、私って、食後のデザート並なんですか?」
「うむ、オメーはデザートだな。爆はおかずだが」
 さらっとオヤジなギャグをかっ飛ばす激だった。
「おかず……鯖の味噌煮でしょうか……」
 なんで真顔に返す弟子に、師匠は”こりゃぁちょっと武道以外にも教えてやらんとなぁ……”と遠い目をした。
 そんな微笑ましい(?)師弟のやり取りの裏側で。
「爆……は、この次の50Mハードルに出るんだよな?」
「……………」
「……………」
 そっぽ向いてる爆と、目の幅大の滝のような涙を流す炎が居た。




「おい。おいおいおい」
「一回で聴こえてますよ……」
 木陰で静かに書を読むことをハヤテに阻害されたデッドは少々不機嫌だ。
「次でとうとうリレーだぜ!?あの2人相変わらずだし!」
 つまり、爆は炎を無視して炎は落ち込んだまま。
 とてもじゃないが、リレーで一位を勝ち取る余裕は無い。
「では、そろそろ……席に戻りますか……」
 本を閉じ、デッドは立ち上がった。




『選手、入場ー☆』
 ライブの司会の下、選手達が入場する。
 普通、この役目は放送委員会の役目だが、皆の注目を集めるこのレースだけは、人気シンガーのライブに進行をしてくれるよう、オファーが入った。
 入場の際に、一際歓声が上がった。
 殆どの者がこのリレーにかけているし、目玉であるこの種目には運動良し、顔良しの者達が揃っているので壮観だ。
 そして、アンカーを飾るのは、例の伊達集。
 ……此処だけの話、炎のチームは一位をそうそうに諦めている。
(はぁぁぁ……俺は何て事をしてしまったんだ………)
 他の者に余波を与える重いため息を、炎は1週間前からつきっぱなしだ。
 今、炎はこの世で最もタイムマシーンを欲する男だろう。
 念願どおりに入手出来たとしたら、決まっている。あの日に戻って、そのケーキを食うなと忠告するのである。
 その前から、爆が不機嫌だというのも、薄っすら感づいていた。
 爆は学級委員で、学校の催し物において、クラスの中でもっとも責任ある立場になる。そして、それだけやらなくてはならない事もあって。
 疲れているだろう事は予測出来た。
 が、いざ爆を目の前にすると、どうしようもなく………
「爆…………」
 応援はしてくれないかもしれないが、それでも爆は見ているのだ。ここは一つ、トップでも飾りたい。
 今の自分の状態で、出来るかどうかは定かではないが。



『位置についてー、ヨーイ!』
 っパーン!!
 第一走者がトラックを半周する。流れる音楽はハチャトゥリアンの「剣の舞」。
 アンカーの証である襷を掛ける伊達集は、まぁ、当たり前なのだが横一列に並んでいた。
「”剣の舞”、か。何か、僕にぴったりな選曲だね。今日の勝利は決まったかな?」
 確かに雹は居あい抜き師範代で、剣に最も縁がある。
「アーホ。オメースタミナ薄いだろ。勝つのは俺だってーの」
 ふふん、と居丈高に親指で自分を指す激。
「そりゃ確かに持久力は無いけどさ。100メートルだよ?瞬発力は僕の方があるんだよね〜」
「さー、どうだか?100メートルって距離を舐めるなよ?瞬発力がきくのはせいぜい5メートルが限度だからな」
「ふっふっふっふっふっふっふ」
「はっはっはっはっはっはっは」
 なんて言う2人の背後に、雷雨を伴いそうな暗雲が立ち込める。
 思わず、スポーツというのはもっと爽やかなものでは、と疑問を抱いてしまいそうな光景だった。



 そして、一方こちらは応援席。自分たちの席とはまた別に、こんなスペースも設けている。ちなみに席と言っても、椅子は無く、選手控え場所みたいにロープで囲っただけものものだ。
 爆は、自分の席でなく、此処に来ていた。
 理由は、勿論、炎がよく見えるように、である。
 確かに自分から炎には近いが、相手には死角になっているらしく、全くこっちに気づかない。
「……………」
 爆も、最近の炎の不調は知っていた。ていうかもはや誰でも解るくらいに進行しているものだが。
 確かに、ケーキを食べられたくらいで、ここまで怒る事はないと、自分でも思う。
 しかし、最近の炎のスキンシップは状況を弁えなく目に余るもので。
 炎と一緒に居て、イラつくなんてあった欲しくない事なのに、そんな自分を無視するみたいに擦り寄ってくる。
 最も、そうなるのは、最近運動会の準備で会う時間が少なくなったからなのだろうが……
 だから、それを戒める意味も込めて。
 何より。
 あれ程楽しみにしていたケーキを食われた事に対する純粋な怒りもあるのも、また事実だった。
(最後だったんだぞ、あれは………)
 言ったら半分くらいあげたのに、全部食べるなんて酷いじゃないか!
 しかし、これに関して炎に故意はない。炎はさほど、洋菓子に造詣がある者ではないので、目の前のケーキが何処のなんのケーキか、なんてさっぱり解らないのだから。
 だから、まさかあのショートケーキが期間限定の特別なものだなんて、それこそ夢にも思わなかったのである。
 そんな事情、解っていても、そこは感情の動物人間だ。でも、だけど、と爆がぐるぐるしている時、
「……爆君」
 静かだけど、喧騒の中ではっきり聞き取れる、存在感ある声。後ろからしたので、振り向いてみると、其処には。
「デッド?」
 一際高い歓声が上がった。バトン・パスだったのだろう。
「……応援してあげないんですか?」
「……オレがしなくても」
「炎は爆君にしてもらいたいと思いますよ?」
 爆のセリフを途中で遮って、デッドは言った。
「……………」
 爆の口がモゴモゴと動く。そんな事は解っていると。
 でも、あれだけ冷たくしてしまったのだから、何だか気が引けるというか、何というか。
「……多分、炎もこれで懲りたでしょうし……お灸据えるのはもう充分でしょう……?」
「………」
 でも、と顔を赤くして言う。
 また歓声。次でアンカーだ。
(そろそろ……ですか) 
 デッドは切り札を出すことにした。
「爆君、実は………」




 選手達がトラックを走っているのを……炎はまるで他人事のように見ていた。
 が、横に居た激と雹がバトンを貰って走り去るのを見て、自分が選手の立場なのだと解る。
 ……自分への歓声に、「無理はしないで!」とか、「ドンマイドンマイ!」とか、「晴れの日もあるって!」など、とても競技を控える者にかけるようなものとは思えないような声があったのは、気のせいだろうか。
 こんな無特定多数の応援より、やっぱり自分は………
「炎ー!!!」
 飛び切り張り上げ、自分を呼んだ声。
 この声……聞き間違える筈のない声。
「炎、頑張れー!!!」
 爆だ。
 爆が惜しみない笑顔で、手を振って、自分に歓声を送っている………
 これは……夢?
 ベタだが、炎は頬を抓ってみる事にした。
 ぎゅ。
 痛くない。
「……にゃひをひゅるんれふかえんひゃま」
 何だ現郎か。だったら痛くない筈だ………
「絶対、一位取るんだぞー!!」
 夢………である、筈が無い!!!
 パシィ!
 バトンが手に叩きつけられた。
 そして。





 パンパンパーン!!
 3発の銃声。リレーが終わった合図だ。
『リレー終了ー!
 いやー、あいつもこいつもそいつもよく頑張った!感動した!!
 特に炎は凄かったネ!最初から猛スピードであっという間に前を走っていた激と雹を追い越して一着ゴール・イン!!
 これぞ運動会!これぞメイク・ドラマ!
 とりあえず僕は臨時収入が出来たので、帰りにCD数枚ジャケ買いしよーかと思いまーす!
 以上、ライブでしたー!!』




 リレーが終わっても、炎は走った。
 勿論、爆に会う為だ!
 さっき居た応援席に向かう。
 途中、行き交う人々が顎が外れそうに口を開けていたり、「デ、デートが!」「俺のレバニラ定食ー!」とかいう嘆きが聴こえたが、全部無視だ!!
「爆!?爆!!」
 が、いくら探せど姿は見えず。
 自分の席に戻ったのだろうか?
 まぁ、いい、運動会が終わって、ゆっくり会えば良いのだから。
 足取り軽く、炎も自分の席へと戻った。
 沢山の燃え尽きた人々を通り過ぎながら。




「本当に、本当なんだな!?デッド!」
「えぇ、僕が貴方に嘘を付く筈がありません………」
 ふわり、と微笑むデッド。
「食えるんだ。あのケーキ……!!」
 あのケーキとは、事の発端になったケーキの事である。
「……あの店は店舗を各地に持っていたので、農場もその場所にあるものかと思い、調べてみたら……その通りでした」
 南にある農場では、まだ苺が取れるのでケーキ売っているのであった。
「あ、でも、ケーキを通販出来るのか?」
「大丈夫ですよ、知り合いが居るので………」
 ダメだったら、その人に送ってもらえばよい。
 爆の顔がますます輝く。
 そんな和やかなやり取りを、ハヤテは複雑な表情で見ていた。
(考え、てこれだったのか………)
 一度は諦めたケーキが、食べられる!
 この出来事に、抵抗があったのも忘れ、デッドに促されるまま歓声を送った爆。
 で、それを受けた炎は見事一着………
 デッドが切り出したタイミングは絶妙だった。
 あまり早いと、待っている間に感情が昂ぶりすぎてしまうし、遅すぎると手遅れになってしまう。
 しかし、和解のきっかけを持っていたのに関わらず、それまである素振りすら見せないというのは……
 まぁ、デッドにあれこれ言うのはもう止めよう。
 自分も、1週間の昼飯が確保出来たのだし。
 ハヤテが”一件落着”というフレーズを使おうとした時だった。
「でも、オレはそんなつもりでデッドに相談したんじゃないぞ」
「えぇ、僕が勝手にした事ですから、爆君は気にしないでいいんですよ……」
 それを聞いて、ハヤテにふとした事が浮かんだ。
 そう言えば、デッド、今回の炎と爆の事にやたら詳しくて……
 とある情報筋から仕入れたとか言ってたけど……
 まさか……まさか………!!
 それって、爆本人!?
「あぁ、楽しみだ」
「ふふ、それだけ喜んで頂けると、僕も嬉しいですよ………」
 にっこりと微笑むデッド。それは、美しいと形容に相応しいものだったが……
(アイツだけには……絶対、絶ッッッ対逆らわねぇ……)
 ハヤテは固く誓った。







 さて。
 今回、一番幸せなのは、誰でしょう(笑)









どうしてこんな話がうっかり大作になってしまったのやら。
しかもあんま炎爆ってないよ……

作中に出せなかったのですが、デッドは爆の”いいお兄さん”的立場で、爆くんからちょくちょく相談受けてます。
特別な感情は無いのですが、ライブと並んで可愛い弟という認識のようです。
ハヤテも何だかんだで爆を気にかけています。やっぱし弟な感じで。
今回の事でもっと気にかけるでしょう(俺がちゃんと見てないと、デッドに食われる!みたいな/笑)

学園ストーリーではこの設定で書こうと思いますです。