部屋には、炎が一人。
爆は、友達の所へ遊び行っている。
友達の所へ、である。
友達の。
友達だ。
間違いなく、友達だ。
他人が聞いたらしつこい!と一喝されそうなくらいそう繰り返し、何とか心の平穏を保とうとする炎。
しかし、爆なくしてどうして平穏が得られようか。
普段はあまりしない、というのも爆にだらしないと起こられるからだが、ソファーに寝転び本を読む。
その内、読むのも億劫になって、そのまま読んでいた本をアイマスク代わりに顔に乗せ、寝てみようかと試みるが、やっぱり無駄に終わった。
かと言って、他に何かをしよう、とする気にもならなかった。
まさか、爆が居ないくらいでこんな自堕落になる自分だと知らなかった炎は、少なからずのショックを受けた。
(依存してるつもりは、あまりないんだが)
誰かが聞いたら何処が!とツッコミが入りそうな文句であった。
炎を見れば、すぐに彼の視線が常に爆を追っているのが目に解る。
依存なんてものじゃなくて、もう執着に近いのではとすら、思わせる。
炎は軽い溜息をついて、雑誌を床に滑らす。
どれくらい悶々としていたか、ようやく爆の帰宅時間となった。
律儀な爆は、時間を破った事は無い。理由があれば、勿論別だが。
「帰ったぞ」
「おかえり」
あくまでさりげなく言う炎だ。爆の中で、自分のイメージは大人でありたいと思うから。
それでも、爆はあまりそうと思ってないのかもしれない。
時折、しがみ付くように抱く自分を、優しく撫でてくれるから。
「昼は何を食べたんだ?」
「パスタ。出されたパンが、手作りだったんだ」
店のものでなくて、手作りのパンは初めて食べた、と嬉しげに話す爆に、炎はこっそりパンの作り方でも会得しようかなと思ったりした。
上着を掛ける為に爆が振り返った時、炎は気づいた。
「爆、服に何か着いてるぞ」
「え」
「取ってやるから」
少し動くな、と言って。
着いてたのは、シールで。
それまではいいが、書いてある事が重要だ。
「……”生ものなので、お早めにお召し上がり下さい”……?」
「あ、それ、ルーシーが持ってきたシュークリームの箱に着いてた!」
何時の間に!と悔しそうに顔を赤らめる爆。
「……………」
その爆を前に、炎はたいそう意地の悪そうな笑みを浮かべる。
ひょい、と何の前振りも無く、爆の身体が抱き上げられる。
「わッ!?何だ!?」
「生ものなんだろう?早めに召し上がらないとな」
「…………え、っだから、それは!!」
意味する言葉が解った爆は、違う意味で顔を赤くし、降ろすように抵抗する。
が、そんな抵抗も虚しく。
爆の足が何かに着いた時、其処は、ベットの上だった。
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