コツコツコツ。 ペンの後ろで机を3回叩き、その後ため息を吐く。 なんていう行動を、炎は先程からぜんまい仕掛けのオモチャよろしく繰り返していた。 カチャリ、と極力音を立てないよう配慮された開き方で、ドアが開く。 「炎様、進み具合はどうですか」 しかし、そのセリフを言うのと同時に、視界に入った書類の山が、さっき見た時から全く形容が変っていない事が解り、進み具合もまた推して知るべし、であった。 炎は現郎の姿を目に留めると、ガタッと姿勢を直した。 「すまん。今すぐやるから」 「いえ、そんなに急を要する内容ではありませんから…… 何か、心配事でも?」 室内に入っても、自分の存在にすぐ気づけなかったようだから、他に何か気を取られているのだろう、と現郎は判断した。 普通、心配事でも、と訊ねて、そのままそれに答える人は少ない。 が、炎の心配事は、おそらく人に訊いて貰いたい類のものだろう、と予測が出来た。 ……ついでに、その内容と対象となる人物も。 もっと言ってしまえば、炎を煩わせる事なんか、”コレ”しかないのだ。 現郎の言葉に、炎はペンを置き、ふぅ、と空気を流すようなため息を付き、片手で頬杖をついた。 そして、何処か遠くを見ながら。 「………爆の、事なんだがな……」 やっぱりな、と現郎は心の中で盛大に頷く。 「爆は可愛いから、他に狙っているヤツが絶対に居て、そいつに襲われたり色々されたりしたらどうしよう、とか言う事ですか? だったら大丈夫だと思います。なにせ爆は強いですから。それは炎様も認めているでしょう?」 現郎は炎のセリフを先回りした。 下手をすると、炎ののろけ話で一日が終わってしまう。 悲しい事にこれは比喩でも冗談でもなく、実体験であった。 「いや、違う。それじゃないんだ……」 炎はゆっくり頭を振る。 現郎の表情が少しだけ変る。が、普段能面紛いのポーカーフェイスの彼からしてみれば、驚愕に値するだろう。 「ついこの前(も)会いに行ったんだが、会う度にに爆は……」 爆は?と心中で反芻する現郎。 はー、とまたため息。そして。 何処か困りながらもうっとりしつつ。 「色っぽくなって………」 「炎様、ほら飛行機雲ですよ、飛行機雲」 「何かもう、身体の成長に対して体重が追いついていないと言うのか、手首とか首筋とか項とか、儚いくらいに細いんだ!それで思わず抱き締めそうになるんだが、そうしたい反面折れたり痛がられたりしたらどうしよう、とか、でもやっぱり抱き締めくて………!」 現郎はこの後にもこなさなくてはならない執務がある。 けれど、そんな必死の話題転換も、炎の怒涛のマシンガントークの前では、如何せん密林に置かれたアースノーマットの威力以下である。 勢いに乗った炎は、グ!と拳を作り。 「あどけなさが抜けた分、清廉された感じがするんだ。性別臭さを匂わせない無性的というか中性的というか、男女共々に好かれそうな美貌だ!くッ!旬の17歳を前にすでに此処までくるとは……ッ!さすが、俺の爆………!!!」 「……炎様、早く片付けないと爆に会いに……」 行けませんよ、と言う間も無く、炎の話は続く。 「それでさらに!!!」 「……………」 炎は止まらない。 現郎の目は遠い。 陽は、ゆっくり地平線に落ちて行く。
ちなみに、爆は原因不明の連発くしゃみに悩んでいたとか。
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