君らしい君が好き。
つまり、君の全部が好き。
10.どちらかと言えば、懐かしいかな
そしてまた月が満ちる。
爆の元へと行こう。
夜明けの世界はやっぱり不思議で、何度来ても初めてという気がする。
公園に着き、アスレチックを登り。
童話の主人公みたいに城の天辺に居る爆に会う。
「爆殿」
呼ばれて振り向いた爆は、にっこり微笑み、カイを引き寄せた。
そして。
むぎゅ。
「はへ?」
「どういう顔をしてキスするのかと思ったら、意外に間抜けなんだな」
口を割り裂かれ、カイからあやふやな音が出る。
それに答えは爆は、どう見ても。
「……爆殿!?」
「そうだが?」
裂かれた口の端を摩りながら言うカイ。
「爆殿……!って、今、夜明け……!!」
「何だ。このオレだと不満か」
爆はからかっただけなのだが、カイは必死にそれを否定する。
「い、いえ!違います!違います!!」
「----『あいつ』は、もう現れない」
爆が静かに言った。
「もう、役割は果たしたから」
それに。
居なくても、大丈夫になったから。
「…………」
こういう場合、一概に良かったですね、と言ってもいいものか解らなくて、カイは沈黙、と言うよりは何も言えずに居た。
「……不思議な感じだな……」
ふいに爆がつぶやく。朝の風を受けて。
「此処に来るのは『初めて』の筈なのに……なんだか、懐かしい気がする……」
「……いいえ」
カイが言う。
「貴方も、ちゃんと居たんですよ。『あの時』にだって」
「……そうか」
「はい」
結局は、全部自分なのだから。
無視したり拒んだりしたら、不具合が出て当然だ。
受け止めてあげなきゃ。『自分』なんだから。
「にしても、貴様こんな時間に来ていたのか。よく起きれたな」
爆は少し眠そうに言った。
「すぐ眠れる体質なので調節がある程度効きましたし-----」
それに愛の力ですね、と心の中でこそっと呟く。
「まぁ、とりあえず帰るか。遅刻してしまうぞ」
「えぇ」
空は白々と明けてきて、カーテンを捲るみたいに街に光が落ちる。当然、2人も。
陽を浴びている爆は、とても眩しく、とても綺麗だった。
自分はどんな爆でも好きで。
弱さを拒む爆も、心を剥き出しにした爆も。
でも。
自分に自信と誇りも持っている爆が、やっぱり一番。
「なぁ、言ってた店、今度連れて行け」
「はい、喜んで」
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