それはまだ幼い頃の事で。
 家族とその友人複数とで一緒にピクニックへ出かけ、自分は野原を散歩していた。。
 ふいに見詰めていた蝶々がふわりと飛び上がり、それに合わせ自分も樹に登って追いかけた。
 その後、聴こえた悲鳴のような声。自分は思いのほか高く登っていたらしい。
 大慌てで父親が登って来て、腕に抱えられて降ろされる。木の下には、その場の全員が集まったていた。

 ”高い所に登れば、来てくれるんだ”

 それが、2度とは使わなかった、唯一覚えた人の気を引く方法。




 04 蝶を追いかけておりましたらば




「……………」
 爆は今まで見ていた夢を思い出していた。
 悪夢では、無い。しかし、率先して見たいと思うようなものでもない。
 見ていた夢は記憶の再現。小さい頃のほんのひとコマ。
 気づいているし、知っている。最近の自分の奇行の原因も、理由も。
 けれど、どうすればいいのかが、さっぱり解らないのだ。




 2年前。爆は、生活委員だった。
 何をするかと言えば、主に朝の挨拶運動の為に定期的に校門に立ち、ひたすらに挨拶をする事だ。
 自分も向うも、惰性的におはようございますを繰り返す中。
 1人だけ、しっかりこっちを向いて挨拶をする人が居た。
 それが、そう。
 カイだった。




(……アホか)
 何もカイだけでは無かった。クラスメイトだって、自分へ向けて挨拶をしてくれた。
 それなのに、何故。
 けれど、あの時、挨拶と一緒に向けられた笑顔を、何時も見られたらどんなにいいだろうか、と思ったのは自覚している。
 人が誰かを好きになるのは、こんなに簡単なのだろうか。
 それとも。
 やはり、今の自分の環境が原因だろうか。
 自室を出て、リビングへ出る。
 広く、機能的で、シンプルなデザイン。
 其処に居るのは、自分1人だけだった。
 爆はこの家で1人暮らしている。家事も殆ど自分でこなしている。
 普通、10歳の子供が1人で暮らすだなんてしようものなら、その当人より親に風当たりが強くなる。が、爆なら、と知る者は皆納得してくれた。負担には決してなりたくなかった爆にとって、実に誇らしい事であった。
 例え、それが、寂しいと決して言えなくなる事だろうと、解った上でも。




 明日は満月。やはり自分はあの屋根の上へ行くんだろう。
 カイに見つけて貰いたくて。
 自分の意思に反して。

 自分の心に素直に。




 『その時』の自分はとても曖昧で。
 夢の記憶みたいではっきりしない。自分の事だという気がしない。
 なのに、カイはそんな自分に会って、それが気になって自分にも会いに来た。
 それが気に食わない。とても気に食わない。
(カイなんか嫌いだ。大ッ嫌いだ!)
 最近呪文のように思うセリフ。
 けれど、そうやって嫌いだと思うのはやっぱり好きだからで。
 高い所に上れば、人の注意を引き付けられる。
 けれど、目的だった蝶々は結局捕まえられなかったのだと。
 そんな事を、思い出した。




<To be continued>





そういう事。