03 月の薫り





 次の日。
 会うなと言われたた当の本人である爆に会った。
 今度は偶然ではなく、相手が出迎えて来た。
 そして前の時みたいに腕を引っ張られ、人気のない所まで着いたら。
 思いっきり、殴られた。




「…………」
 頭の中で花火が咲いたみたいに、視界がチカチカする。
「お前は-----!!何故人の言う事がきけん!あれ程会うなと言っただろうが!一度死ぬか!?」
 その状態で揺さぶられ、脳がぐらぐらしているような感じで酔いそうだ。
「……しかも……っ、また、あんな事………ッツ!!!」
 爆は沸騰しそうに真っ赤だ。
「あんな事って……キスの事ですか?」
 ぼがん、と爆発した。
「……殺ス」
 そう言ったその目は本気だ。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!爆殿からしたんじゃないですか!」
「避けろ!あれくらい避けきれない程貴様は愚鈍か!?」
「だって、避けたら凄く寂しそうな顔するんですよ!?」
「知らん!無視しとけ!!」
「……って、爆殿、あの時の記憶あるんですか?」
 唐突な話題変換に、爆の発射直前の拳が止まった。
「……少しだけ、な。それこそ、夢みたいに朧げだか……」
「……あのー」
 言いにくい、とても言いにくい事だが、是非にでも確かめたい事がある。
「まさか、他の人とかにも、キスしたりとか……」
「…………」
 爆は、沈黙した。が、得てして噴火の前とは必要以上に静まるものだ。
「……人を勝手にキス魔にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 どうやら自分だけのようだ、という事は頬の痛みと共に知った。




「師匠……」
「んー、何だ?」
 今日は珍しく、激は部屋でごろごろしていた。なので、少し訊いてみる。性格に少々難ありとは言え、その知識の幅広さは疑い所は無い。
「夢遊病って、どうしてなるんですか?」
「唐突な話題だなー」
「いや、今日、少し授業であがったものでして」
 夢遊病が取り上げられる授業って何だ、と自分でも思ったりしたが、相手はふーん、でその不自然さを見逃したようだ。
「そうだなー。ありきたりに言えば、ストレスが原因とか言われてるな。勿論、それだけじゃなくて脳と身体を繋ぐ機能障害だっつーのもある」
「そうですか………」
 ストレス。あんなに威風堂々としていて、自信という言葉が服を着ているような爆にも、やっぱりあるんだろうか。現に、ああなっていると言う事は。
「後はまぁ、これは俺個人の意見なんだけども……多重人格も関係してるんじゃねぇか、と思うんだ」
「多重人格?」
「そう。寝ている間に違う人格が現れて、普通に行動するんだ。別に有り得ない事じゃねぇだろ?」
「…………」
 カイは思い出してみる。あの時の爆の事を。
 あれから、今、激に訊くまで何も調べなかった訳じゃない。夢遊病の人は、起きている時と同じような行動を取る。が、声を掛けても反応が無いし、目を覚ます事が難しく、また、その間の記憶は殆ど無いそうだ。
 しかし、爆は記憶はおぼろげだがあるそうだし、何より自分の呼びかけにちゃんと応えていた。
 では、やはりあれは夢遊病ではなくて、激が言う多重人格なんだろか。
 もう1人の、『爆』。
「……ついでに訊きますけど……それは、何が理由でそうなるんですか?」
「同じくストレスが原因。。何せ今の精神病て括られるものは、全部ストレスで片付けられちまうから。まぁ、間違いじゃねぇんだけど。あとは、トラウマってやつか?」
「師匠は、どういう風に捉えているんですか?」
 そうだなぁ、と激は顎を摩り。
「……お前、ビリー・ミリガンって知ってるか?」
「えぇ、一応。確か40何人かの人格があるとかいう……」
「そう。あれは最初からそんなに居た訳じゃなくて、段々と増えていったんだ。
 んで、その人格の中に縄抜けの達人が居る。
 そいつが出来たきっかけはな、父親の虐待から抜け出す為だったんだ」
「…………」
「生きる為だよ。全ては。
 自分にどうしても出来ないのなら、誰かに頼るしかない。
 けど、頼る誰かが居ないなら」
 自力でそれを創り出すしかない。
 自分には出来ない事をしてくれる、『自分』を。
(……だから、朝と昼であんなに違うんだろうか……)
 本当は、あんな風に音楽を聞いて、出てはいけないような時間に出かけ、嬉しそうに笑ったいたんだろうか。
 そして、自分に……
「…………」
 カイは自分で顔が赤くなっているのを感じた。
「……それって、治りますか?」
「そうなる時もあればそうならない時もある。人の精神の複雑さを舐めちゃなんねぇな」
「そうですか……」
「まぁ、月並なセリフで申し訳ないが、そんな時にはやっぱり人の温かさが何よりも効くもんだ。
 お前も自分の恋人がそうなってて色々大変かもしれねーけど、一番大変なのは本人なんだ。決して、お前が投げやりになるんじゃねーぞ」
「はい。
 ………って、え?」
「いやだからさ。お前の恋人の話だろ?」
「……え、えぇぇぇぇぇっ!?いやですねぇ、授業中の話ですよ、授業中の!!」
「カリキュラムに夢遊病が出てくる授業ってどんなだよ」
 あぁやっぱりそこに突っ込まれたか!カイは心の中で悶絶する。
「いやっ!そんなっ!恋人だんなて、そんな……!!」
「えー、恋人じゃねぇの?じゃなんで朝早くにこっそり抜け出して会いに行くんだ?」
 そこまでバレていたとは!ちっともこっそりじゃない!!
 カイはその日の残った時間全てを使って、激のその意見を否定した。
 キスした事がばれたらとんでもない事になりそうだな、と思いながら。




 <To be continued>





とりあえず謎が解明。解決はしてない。
次から爆の方の事情も。