降り積もりて斑





 ”最近、何だか妙なんだよね、お前は。ぼやっとしてたら急に嬉しそうな顔になったり、週末の誘いは全部断っているし。
 恋人でも出来た訳?”

 恋人?馬鹿言うなよ。
 あいつは。
 あいつは………




 俺がお前にちょくちょくこーやって会うのは、寂しいヤツってイメージをお前から払拭したいからなんだけど、じゃぁ爆はどうして会ってくれるの。

「激に、会いたいから」

 爆は微笑みながら、俺にそう言う-----




 って所で目が覚めた。
 ……何つー夢だ……何つー……恥ずかしい…………
 告白だけでも十分羞恥ものだってのに、おまけにあの後俺は、情熱的に爆をうんと抱き締めて、そしてゆっくり、ロマンチックにムードを盛り上げるように顔を近づけた。って事はキスしたって事だな。うわぁ。
 そんな時期にはまだ早いのに、おかげで朝っぱらから頭に水を被らなければならんかった。でなければ、顔が火照ったまま登校する事になってしまう。
 ……夢が。
 夢が、無意識下にある本当の自分の願望だとしたら、俺の場合……爆が……
 いや、そんな事は無い。無いと思うぞ。爆に対して恋愛感情なんぞ!そりゃ、好きか嫌いかって言われりゃ好きだけど!でも、恋とか愛とかじゃ………
 ……無い、と思う………
「…………」




 断固に否定出来ない。




 ばちん!
 と、目の前で猫騙しをされた。当然、俺は相撲なんか取っていない。
「何だよ、爆」
「何だはこっちのセリフだ。色々悩む事もあるだろうが、食事中は目の前の料理に集中せんか。作った人に失礼だろ」
 等ととても偉そうに言ってくれたけど、そもそもこの店に案内したのは俺なんだよな。
 爆の言う通りに、色々悶々としたけど、やっぱり週末になると何だかそわそわしてしまって、行く場所の確認を何度もしてしまう俺だった。
 ----さっきから、頭の中で何度も繰り返しているセリフがある。


 どうして爆は俺と会ってくれるの


「………なぁ、爆。中華料理好き?」
「嫌いじゃないぞ」
「来週、デパートの催事場で横浜展やるんだけど、中華街の店が数件出すらしいぜ」
「そうか。じゃぁ、来週は其処に行こう」
 そうやって、次の約束をしている、お前の真意が俺はとても知りたいよ。爆。
 ……まぁ、今訊いたら『美味い物を教えてくれるから』とか言われそうだけど……そうじゃないよな?……な?
「肉まんあるだろうか」
「……あるんじゃねーの?」
 ……違う……よなぁ……?




 そして”今日”が終わる。
「別にここまで来なくてもいいのに」
 折角駅まで送っててやっているというのに、爆はそれを簡単に由としない。
「そう言うもんじゃねぇよ。世の中見かけによらず物騒なんだからよ。変な人とか出るし」
「それもそうだな」
 何故か、爆は俺を見て言った。
 販売機で、帰りの切符を買う爆。
「……あのさ、」
「何だ?」
「しょっちゅう来るし、プリペイドカードでも買ったら?毎回買うのも面倒だろ」
「そうだな……」
 と相槌打っただけで、爆は切符を買った。片道230円。
 そんなに遠くないけど、決して近くでもない。
「……………」
 爆を乗せた電車が発車する。俺は、動かないで、それを見ていた。


 爆は何で俺に会いに来てくれるの


 口にすれば20秒にも満たないだろう、それくらいの言葉なのに、なんで言えないのか。
 ……言えない理由があるから、言えないんだろうけど、俺はそれが解らない。
 おそらく沢山あり過ぎて。
 色を塗り重ね過ぎて、何色かが解らないように。




 爆は、俺にとって何だろうか。
 恋人で無いのなら、友達とか、仲間とか同士とか?
 あるいは弟分だとか、家族のような存在とか。
 どれも違うような、合っているような。
「…………」
 シャープペンを机に投げ出す。今は数学の小テスト。みんなが軽い阿鼻叫喚を上げているから、結構難しいんだろうな。ま、ちょっと公式がややこしいけど、それさえ解ればどうって事も無い。
 紙の完成された方程式。問題文に対してとても簡潔。
 爆に抱くものは多い。
 でも、その根底にとてもシンプルで鮮烈なものが埋まってるんじゃないかと。
 俺は、思う。
 そしてそれを見つけてしまうのを、俺は恐れて。
 でも、それ以上に。




 知りたい




 ◆◇◆





段々意識し始めた激さんです。
激の一人称で始めてしまったが為に爆の心情が書けないという。……アホタレめ。