会いましょう。
と、約束したのはいいけど。
「……………」
時間とか場所、全く決めてねぇや……。
いかに自分がテンパっていたかを物語っているって事実には、蓋をしておこう。
「で、今日もまた待ち伏せしていた訳か」
「……5分前に来たばっかだから、そんなに待ち伏せてねぇよ」
「そうか」
……こういう時って、肯定される方がむしろ辛いな……何か詰ってくれよ。
「じゃぁ、待ち合わせは駅って事でいっかな。南口に像があるからそこで待っててくれな」
「像ってどんなだ?」
「ゾウだよ」
「………何の像だと訊いているんだが?」
「何のゾウかまでは知らねぇよ。専門家じゃねんだから」
「専門家とかまで行かなくても解るだろうが」
「そうかー?」
互いのすれ違いが解るまで、5分くらい身の無い会話が続いた。
で、当日。
「やぁ、おいでませ」
「来たぞ」
南口のゾウの像の元で無事再会を果たした。
陽は、高い。今は昼を少し回ったところ。
何故、こんな時間になったかと言うと。
「時間は何時がいい?」
「そうだな……昼くらいがいいな」
「寝ぼすけ?」
「違う」
爆は少しム、としたような顔で。そーゆー表情するとやっぱり10歳だなとか思う。
「いつも忙しいから、休日の朝食くらいは出来うる限り一緒にとろうと、決めているんだ」
と言っても、きちんと約束したわけではなく、暗黙の了解なんだそうだ。
「ふーん……仲、いいんだな」
「別に」
爆は少し照れたような顔で。そーゆー表情………何か、あまり見たくないような。
「じゃー、昼イチの電車で……あー、今から時刻表見てやっからな」
「ほー、最近の携帯はそんな事も出来るようになったのか」
感心したような爆は、幼い顔で年寄り臭いセリフを吐いた。
俺の手元にある携帯電話を見ようと、爆が近寄る。
すると、シャンプーがリンスかは知らないけど、薄っすらと植物系の香りがふと漂う。
「……………」
この程度でドキドキする程初心じゃないし。しかも相手は色っぽくも無いガキだし。
でも。
妙に意識してしまうなぁ………あぅ〜………顔なんか赤くしてないぞ、俺は。多分。
「おい、メールが来たと文句言ってるぞ」
文句ってなんだよ、文句って。あー、この香り何なんだよー。もー……
チクショウ。
さて場面を戻して。
「とりあえず、何処行こうか」
「別に。貴様がいつも行ってるような所でいいだろう」
「んー……じゃ、とりあえずその辺のショッピングモールにでも行くか」
「…………」
爆はなにやら黙り込んでしまった。
「何、気に入らない?」
「いや………」
爆は、顎に指を添えて考えている。
「デパートと百貨店とショッピングモールはどう違うんだろうな、と思ってな」
「…………さぁ?」
ともあれ、出発だ。
ざっと店内を見回った後、おやつタイム。
「いくらだ?」
「いいよ。奢る」
「520円だな」
「…………」
手渡された小銭をじっと見詰める。
もしゃもしゃとホットプレスサンドを食べる爆と向かい合わせ。
「…………」
えーと……さりげなくだぞ、俺。しっかりやれ。
「な。今日、楽しかった?」
「そう言ってくれるな。オレは傷つけると解っていてもやんわり言葉を濁す事が苦手なんだ」
「……つまりつまんなかったって事?」
「そこまで突き詰めて考えはしなかったな」
さりげにぐっさり来る事を言って、爆はオレンジジュースを飲み干す。
「お前くらいの年頃のヤツは、今みたいなところを回るのか?」
爆が訊いていた。
「え?あ、まぁな。あと、映画とかも行くかな」
ここはシネコン内蔵だし。
「そうか………」
空になったコップの中の氷をストローで弄ぶ爆。
心なしか、顔がほんわかと和んでいる。……何だ何だ何だ?
楽しんで……くれたのかなぁ……
何か気のきいたセリフでも言えばいいのに、ただただ爆の食事が終わるのを、じっと見守っていた。
終わりは陽が暮れるまで、という実に健全なものなので、あと1時間ちょいくらいタイムリミットがある。
うーん、何をするにも半端な時間だなぁ。
「どうしよっか」
「お前はいつもどうしているんだ?」
いつも……か。
「いつもは……男同士だったら、飲んでぐだぐだになって、終電近くになってバタバタ帰るって感じだな」
「”飲む”?」
「…………。ジュースを」
「別に誤魔化さんでもいい。誰かに率先して言いふらすつもりは無い」
あぁ良かった。めちゃくちゃ怒られそうですげー怖かった。
「でも」
と、爆は俺を見て。
「もう、止めろよ」
「………はい」
頷くしか出来なかったという。
「なぁ」
「うん、もう飲まないから」
「違う。そうじゃない」
え、だったら、何だろう。
相変わらず、爆は真っ直ぐ俺を見る。
「お前は?」
「ん?」
「お前は今日、楽しかったか?」
………俺?って具合に自分に指を指すと、爆がこっくり頷く。
「……楽しい……よ?」
と、何故疑問系口調なのか。俺は。
「そうか」
爆はあっさり答える。
「でもオレは、今日のお前より、図書館の時のお前の方が好きだぞ」
「……………」
「今度、また行くか?」
「何処へ?」
「図書館へ」
いいよ、と、俺は答えていた。
爆が電車に乗ったのを見届け、自分も帰路に着く。今日は、これ以上遊ぶ気にはならなかった。何となく。
そして、つらつらと今日を思い出す。
今日、爆を呼んだのは、本当なら。
あちこち楽しそうな所へ連れてって、案内して、激って楽しいヤツだなとか思ってもらいたかったから。寂しいヤツじゃなくて、俺は愉快なヤツなんだよ、って。
でも。結果としては。
”お前は今日、楽しかったか?”
楽しかったって。
そう言ってたのは、いつも、連れて歩いていた、相手だったって事に気づいただけだった。
◆◇◆
|