今日は中学校の同窓会。
つっても俺は別に中年オヤジじゃねぇ。今をときめく高校生だ。
だもんで同窓会とは銘打っても、仲間内でどんちゃん騒ぎたいだけってのが本音だな。身分が身分だし、会場は居酒屋じゃなくてファーストフード店の一角を貸し切って。ここの店は大量生産とは言え、結構味がいい。紅茶も種類があるし。
この店はビル街の隙間を縫うように立地していて、縦に長い。4階まであるけど、席数は他の所とそんなに大差ないんじゃないだろうか。
そんな建物だから、当然階段も狭く、結構段が高い。バイアフリーじゃねぇな、とあがる時に思う。
2階と3階にはトイレがあるが、1階と4階にはない。どういう事情の上でかは知らないけど、俺は4階に居たから降りなくちゃならないのが面倒くさい。
そして、そんな建物だから。
俺達は。
トイレはダストシュートの横にある。まぁ、ダストシュートの横にトイレがあるのかもしれないけど。
それはどうでもよくて。
俺が用を終えて出てきた時、子供がごみを区分していた。
今の時刻は、夜の九時。
見たところ、不良でもなさそうだし、て事は塾って所だな。
けれどそいつからはそんなに受験臭、とでも言えばいいのか、受験生独特の張り詰めたような雰囲気は見られなかった。それには理由があったんだけど、この時の俺には想像でだって思いつかない。
真剣な面立ちしてビニール素材と紙のごみを分けている横顔を、なんだかそのまま通り過ぎたりはせず、傍観してしまった。
そんな視線に気づいたのか、相手も俺を見る。
少し吊りあがった、でも大きい眼。意思の強さがはっきり見て取れる。自分、てものがきちんとあるんだろうな、と思わせるような。
俺がそいつを見続けたように、そいつも俺を見続ける。何かを探している最中、見つけてるみたいに。
「俺って、そんなにいい男?」
あんまりじぃっと見るので、俺はからかいたくなった。にか、と笑いそんな科白を吐いてみる。
そうすると、相手は真っ赤になり、怒るような顔をする-----
というのが、俺の予想だったんだが。
俺に聞かせるでもなく自分に呟くでもなく。
ただ、事実を言葉としてその場に浮かび上がらしたという感じで、そいつが言う。
「どうしてそんなに、寂しそうなんだ?」
え?
そこで一瞬思考がぶっ飛び、我に返った時、そいつは其処には居なかった。
俺は慌てて後を追った。何でそうするのか、というのはその時突き詰めて考えはしなかった。
狭く急な階段をもどかしく駆け下り、店の外に出れば学校帰り、会社帰り、バイト帰り----あるいはそれに向かう途中の人の波。あの子供の姿は、どこにも見られなかった。
「………………」
その人の多さに、俺は冷静さを取り戻す。つまり、後追いはしなかった。
呆然としたように立っている俺を気にするでもなく、皆目的地に向かい素通りしていく。そうしていると、俺は自分が異質なもののように思えてきた。
見上げるまでもなく、視界の上部を占める空は、黒くて月が上り、星が散らばっていて夜空の見本みたいだった。空はこれ一つだけなんだから、見本も何もないんだけども。
何だったんだ。今の出来事は。
さっきまで会った事もない子供に寂しいヤツだと言われて、俺はその後を追いかけて。
とても見つけられる状態でない混雑した街を見て、こうしてただ立っている。
………俺は、何がしたいんだ?
追いかけて、見つけて。何がしたかったんだ?
あんな子供に言われただけで腹を立てるような、大人げない自分じゃない。
そもそも、風のように吹き抜けたものは、どう見ても怒りじゃない。
なら、なんなのか、と言われると、……解らないけど。
夜の風を浴びて、俺は戻った。
そしてこの後案の定、2次会のカラオケ行きとなった。
外に出れば色んな人に会うし、色んな事が起きるものだ。今までになった事でもない。
だから、今のもそれと同じにされるだろう。
でも。
俺は、気づかないふりして自覚している。
もし世界中の人間を区分した時、その時は、俺とあの子と、その他大勢って具合に分けるんだろうな、って。
もう、赤の他人を抜きん出て、特別な存在になってるって事に。
◆◇◆
|