”横顔はもう飽きた こっち向いて”
知っているんだ。目に映しているだけで見てはないって事。
何かから逸らしている事。何かを隠している事。
折角なんだから、来て、話せばいいのに。
ここにいるんだから。
「いきなりだが」
「はぁ………」
珠をせっせと磨いているカイに、勝手に押しかけ、勝手に茶を入れ勝手に飲んで、勝手に話始める爆。
爆がいきなりで勝手な事は毎度の事なので、カイもあまり気には留めない。
「貴様、オレの事を仙人か何かと勘違いしてるんじゃないか?」
「はい?」
「いや、そう思ってたらあんな事しないか」
「あの、爆殿?一体何を?」
1人納得したように呟く爆に、カイはさっぱり訳が解らない。
「だからだな」
「はい」
「旅してた頃、オレの寝込み襲ってキスしただろう」
「……………はいぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!?っどわったぁぁぁあああ!!」
カイの叫びが2段階になったのは、持っていた珠を落としそうになったからだ。
それをそっと机に置いて、カイは改めてふためいた。
「ばっ、ばっ、爆っ、爆殿ッツ!?いいい、一体何をい、いい、言ってんですか!!」
「そんな態度はイエスと言ってるようなものだと、この際自覚しとけ」
「…………ッツツツ!!」
人生の危機というのは、エイリアンみたいに日常の中からぶち破って出てくるようなものだな、とカイは思った。
「してません、とかいうのはナシだぞ。実はあの時、オレは寝た振りしていたんだから」
「そんなッ………!!」
「……やっぱり、してたのか」
「そ、そんなー!!」
カイの1回目のそんな、はそうだったんですか、という意味で、2回目のははったりだったんですかー!と言う意味だ。
「じゃ、改めて訊くぞ。どうして、あんな事をした」
「…………っ!」
「黙秘権を行使する気か。カイの癖に生意気な」
「な、生意気って………」
あんまりな言い方に、状況を忘れて愚痴る。
「正直に言わせてもらうと、オレはお前に苛立っている。するだけしておいて、その日も次の日も、何も無かったみたいにやり過ごして。夢かと思って、夢だったらどうしてあんなのを見たんだと悩んだりしてな」
「…………」
「世界を制覇するのがオレの夢だが、それとはまた別に世界を壊してみたらどうなるだろう、と思わない事もない。
だって、そうしたら嫌でもお前はオレしか見えなくて、他のを見ている振りが出来なくなるだろうしな。
オレも隠れているお前を見つけ出されて一石二鳥だ。と、言っても出来る訳が無いんだが」
「爆ど、……うわったぁ!?」
いきなりスパン!と綺麗に足払いが決まり、床に転がるカイ。
起き上がろうとする前に、唇が触れた。
「…………っつ!」
カイの顔が瞬間に沸騰した。
「オレは貴様がどうしてあんな事をしたのか、それを隠すのかなんぞ、これっぽっちも解らん。
解らないのは貴様が言わないからで、それでオレが勝手に行動とって結果的に貴様の人生が台無しになっても、それは自業自得と言うヤツだな」
「爆殿」
セリフはいつも通りの傲慢そのものだというのに。
双眸がどこか不安めいていて、揺れているようにも見えた。
「……知らん。貴様に好きなヤツが居ようが、居まいが。
勝手に、する」
と、言い捨てて、再び口付けようとしたのを、相手に取られる。
次いで、ぎゅうと息も出来ない力で抱き締められた。
「……別に、言わなかったのは、他に好きな人が出来たからではありませんよ………」
「……………」
「貴方を、想ってこそだったのに……」
優しい貴方はどんな想いでも応え様とするだろうから。枷には、なりたくない。
「勝手なヤツだな。自己完結め」
「貴方も、勝手にするんでしょう?」
お相子ですね、と、僅かに体を離し、顔を見れるようにした。
「私は、どうしたらいいんでしょうか」
好き勝手にする貴方に対しては。
「……特に何もしなくても構わん。
ただ、」
見て欲しい
ここに、いるから
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